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21:00 かえでとレニ 作戦司令室にて

注意
レニかえ……というかレニ→かえっていうか!
何かそう宣言できるのが嬉しい今日この頃でございます(汗)




+++++++++++++++


触れていたのは、ほんの僅かの間だけ。

だがそれでも、初めて触れるその感触は彼女にとってとても新鮮なものであった。

普段から慣れ親しんでいる筈の自らのそれと同じものとは思えない程にそれはひどく柔らかく、
それでいてとても暖かい。

離れたのと同時に触れた箇所を少しだけ舌で舐めてみたものの、その名残はどこにも感じられなかった。
果たしてどこの誰が、それをレモンの味だと評したのだろうか。
 
そんな疑問を脳裏に描きながら、レニはゆっくりと閉じていた瞼を上げる。
その瞳には、彼女が今までで一度も見たことの無いような表情を浮かべたかえでの姿が映っていた。
 
 

ここは、誰も居ない地下の作戦指令室。
夕食を摂った後、レニはかえでと共に今日行った戦闘シミュレーションの見直しを行っていた。

「結果は良好。霊力も十分だし、動きも申し分無いから……私からも特に指摘するような問題点は無いわ」
「そう……了解」

全ての映像を厳しい表情で見つめていたかえでであったのだが、やがてその全てを見終えると、
すぐに柔らかい表情に戻る。

しかし満足そうなかえでの様子とは裏腹に、レニは褒められているにも関わらず憮然とした表情で
小さくそう彼女の言葉に答えた。
尤も、普段あまり表情を変えることが無い彼女を傍から見ても、付き合いの無い人間にしてみれば全く変化の
無いように思えるのだが。

「でも、どうして私のところに持ってきたの? 昼間いつも通りに皆で話し合って、マリアや紅蘭に指摘されて
いないのなら……何も問題は無いんじゃない?」

しかし彼女の親のような立場であるかえではほんの少しの様子の違いに気付いたらしく、近場にあった椅子に
座ってレニにそう問いかけた。

本日の花組の日程には、戦闘シミュレーションが組み込まれていた。
実際の戦闘と同じように光武に乗りモニター上で仮想の敵と戦うのであるが、それを終えた後に一度皆で
ミーティングを行うのだ。その際何か問題があれば、戦闘面では主にマリアが、霊力の数値については主に
紅蘭からそれぞれに指摘がなされる。
実際、今日もまだ他のメンバーに比べ経験が少ない上に強大な霊力を持つアイリスが、一定の力で数値を
留められるようにと指摘を受けていた。

勿論彼女だけでなく、個人の性格などによってそれぞれが様々な指摘を受けることがある。
こうして皆それぞれが自らの欠点を見つめ直し、今後の戦闘に生かして成長していくのだ。

だがそんなメンバーの中でも、レニは指摘されることが極端に少ない者の一人。
元々同じ欧州星組の織姫やカンナのように感情に任せることもなく、またその年齢ながら霊子甲冑での
戦闘経験も長い為に殆どミスをすることもない。所謂優秀な隊員なのである。

しかしそんな彼女だからこそ、優秀な人間なりにこんな悩みを抱えていた。

「みんな、いつもボクには何も言わないから。動きが悪かったのなら、もっと上手く操れるように訓練する。
霊力に問題があったのなら、もっと高められるよう舞台の稽古をする。でも、どちらも特に無いと言われる
ばかりじゃ、ボクはこれから何を目標にすればいいのか分からない」

人は欠点を改善すれば、確実に一歩成長する。
そして人であれば誰しもが何かしらの欠点を抱えているのだから、皆一歩ずつ成長していけるのだ。

しかしその欠点が、他人からは見つかりにくい場所に多くある人間も存在する。
それを自力で探すことのできない場合、一体人はどうやって成長していけばよいというのか。

「ボクは、もっと強くなりたい。帝都の人々や皆を護れるように。でも、今のままじゃどうすればいいのか……」

流れるように湧き出ていたレニの言葉が、ふとその途中で流れを止める。

その時彼女は、自らの唇をその手の平で覆っていた。

今の今まで、他の誰にも話すことが無かった最近の自分自身の悩み。
しかしかえでを目の前にすると、レニは頑なに流れ落ちるのを抑えていた壁が崩壊したかのように饒舌に
それを話していたことに気付いた。
 
何故、彼女の前で自分はいつも……その心情を吐き出すことができるのだろうか。

「ねえ、レニ。あなたはどんな人が『強い』と思う?」
「えっ……?」

ぼうっとその姿を見つめ立っていたレニに向かって、唐突にかえでが問いかける。
不意を突かれた形となった彼女がはっと目を見開くと、かえではにっこりと微笑んで自らの言葉を続けた。

「例えば大神君は、帝都と巴里の窮地を何度も救った華撃団の隊長。マリアは銃の名手で、軍人の中でも
あれほど正確に銃器を扱える人を私は知らないわ。カンナも空手で右に出る人は居ないし、さくらの剣は
何度も皆の窮地を救っている。……この子達は、みんな強いと思わない?」
 
相手の言葉に、レニは深く頷く。

かえでの挙げたメンバーは、彼女の評する通りとても強く頼りになる存在である。
勿論今姿の見えなかったメンバーもまた、それぞれ特化した強さを持っていることはいうまでもない。
そこは流石秘密部隊、といったところか。
 
しかし何故唐突に、彼女はメンバーの名前を出したのか。
レニは彼女の話に更なる興味を持ち、じっと次の言葉を待つ。
 
そんな彼女の考えていることを知ってか知らずか、かえでは微笑みを崩すことなく、ゆっくりと口を開いた。

「そんな皆が、何で強いのか。勿論日々の努力や経験っていうのもあるけれど、何より私は想いの強さだと
思うわ」
「想い……?」
 
予想だにしなかったかえでの言葉に、レニは首を傾げる。
するとかえではやはり笑みを崩さないまま、そんな彼女の銀色の髪を優しく撫でた。

「そう、想い。皆この街が好きで、人々が好きで、仲間のことが好きで。そんな想いが強いから、その全てを
護る為に最大限の力を発揮できる。だから、皆は強いのよ」
 
そんな持論を語りながら、かえではレニの髪を撫でていた手を降ろし、そのまま両の手で彼女の頬を包む。
その手のあまりの暖かさに驚いたレニは一瞬目を丸くしたものの、抵抗しようとは思わない。

ただその両の青い瞳で、じっとかえでのブラウンの瞳を真っ直ぐに見つめた。

「レニが好きなものは何? 大切なものは何? もしそれが分かっているのなら、もっともっとそれを
愛してあげて」
 
彼女の瞳から目を離すことなくかえでは言うと、頬を包んでいたその手に少しだけ力を入れる。
少しだけ顔を歪まされたレニが思わず目を閉じると、ふっとまた笑みを浮かべてその手を離した。

「その想いが強くなればなるほど、きっとあなたは強くなれる。少なくとも、私はそう思うわ」
 
言葉の最後に「ねっ」と付け加えて、かえではレニの額を軽くつつく。
思わずそこに手を添えた彼女であったが、相手に満面の笑みを浮かべる相手につられたらしく、
その顔には柔らかい笑みが浮かんでいた。
 
かえでの言うように、花組は皆強い。

そしてその想いの強さも、共に時を過ごしていれば分かること。
もしも彼らのように何かを深く愛することができたのなら、自分もまた彼らのように強くなれるのだろうか……。
 
レニは、帝都が好きだった。そしてそこに住む人々も。
時を共に過ごす仲間のことも好きだった。できることならば、ずっと一緒に居たいと思うほどに。

そしてそんな仲間達の中でも、レニは今目の前に居るかえでに深く感謝していた。

メンバーの中で誰よりも長く一緒に居る彼女。
欧州星組時代からずっと彼女はレニに気を掛け、常にその身を案じてくれていた……かけがえのないたった
一人の大切な存在。
もしも彼女が居なければ、今自分はこの場所に居ることなどできなかったのだから。

では、大切な存在である彼女をこれ以上愛するには、一体自分はどうしたらいいのだろう。


レニの頭に浮かんだのとほぼ同時に、つい最近読んだ一遍の詩集の一節が、彼女の脳裏に閃いた。
 

ふとレニの手の片方が、かえでの頬に触れる。

その時丁度立ち上がろうとしていたらしい彼女が驚いてもう一度椅子の上に腰を下ろす羽目になったのと
同時に、彼女は空いている手を同じように彼女の頬に添えた。


そしてその慣例のとおりにレニは目を閉じると、自らの唇でかえでのそれを塞ぐ。
唇の上ならば、愛情のキス――彼女の開いた詩集には、はっきりとそう記されていた。
 
 
「なっ、え、ど、どうしたのいきなり!?
 
目を大きく見開きその頬を真っ赤に染めたかえでの喉から、途切れ途切れに言葉が絞り出されてくる。
それとは対照的に平然としたままのレニは、そんな見たことの無いかえでの表情に首を傾げた。

「ボクは、かえでさんのことが好きだから」
 
普段通りのトーンで発せられた言葉は、紛れも無いレニの本心である。
彼女は時折そんなことをかえでに直接言う事があり、その際彼女はとても嬉しそうに笑いはしたものの、
ここまで気が動転したような様子を見せるようなことは無かった。

「え、そ、それは嬉しいけど……でもどうして?」
 
ようやく落ち着きを取り戻し始めたのか、上ずっていたかえでの声のトーンが普段の柔らかいものへと
戻り始める。
そんな彼女の問いかけに、レニは真面目な顔でこう答えた。

「唇へのキスは愛情表現。本に書いてあった」
 
彼女の純粋な瞳に、かえでは何故か額に手を当て困ったような表情を見せる。
そして暫くすると、彼女はレニの両手を掴み、諭すような口調でこう言った。

「で、でも、むやみにしちゃ駄目よ? こういうことは、将来本当に好きな人ができてからその人にして
あげなさい」
 
それはかえでさんだよ、という言葉が喉元まで出かかったものの、あまりに必死な形相のかえでを見たレニは
言葉を無理やりごくりと飲み込む。
 
そして彼女が素直にうんと頷くと、かえではやっと深い安堵の溜息を吐いたのだった。
 

「本当、なんだけどね」
 
やがてレニの口からふと零れたその声は、いつの日か彼女の耳に届くのだろうか。


+++++++++++++++
レニ→かえでさんが好きで好きでたまらないんですがどうすればいいですか!
絶対美人に成長するよレニ! 髪なんか伸ばしたら最高だと思うよレニ! 奪っちゃえ(笑)
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