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20:00 かえでと織姫 かえでの部屋




+++++++++++++++


空を真っ赤な色に染め上げていた日の光が、その姿を隠して早数時間。
夕食を摂り終えた華撃団の面々は、それぞれがやがてベッドに入るまでの時間を自由に過ごしていた。

それはメンバーの一人である織姫にとっても同じこと。
彼女は大抵この自由時間を、自室か音楽室で一人過ごしていることが多かった。

だが今日の彼女の足はそのどちらにも向く事は無く、階段を上った彼女が足を止めたのは自室のある廊下
よりも手前にある部屋のドアの前。
しかし彼女はドアを開けることもノックをすることもせず、ただじっとその扉を見つめている。

まだ眠る時間には早い。その為未だメンバーの殆どは一階や二階のサロン等に居り、この通路を通る人の
姿は無い。
静まり返ったその空間で彼女はじっとそのドアを見つめていたが、やがて意を決したのかその拳がその前に
振り上げられる。

しかしそれが遂にドアに触れることは無く、織姫は静かにそこを立ち去ろうと踵を返す。
だがすぐにその場を離れようとした彼女の前には、いつの間に現れたのかその部屋の主の姿があった。

「織姫、私の部屋に何か用?」

にっこりと微笑んだその手には、幾つかの太い書類の束。
どうやら部屋に戻り、残りの仕事を片付けるつもりらしい。

「べっつに、ただ通りかかっただけでーす」

そう言ってふんっと鼻を鳴らした織姫はそっぽを向き、部屋の主であるかえでから目を逸らす。
そしてそのまま彼女の横を通り過ぎようとした時、その手がかえでによって掴まれた。

「そう。それじゃあ私から招待させて貰うわ……入って」

片手で荷物を抱えたかえではにっこりと微笑み、そちらの手で器用にドアを開ける。
その体勢が明らかに無理をしているように見えるところを見ると、捕まえた手を離す気は無いらしい。

「な、ワタシは忙しいんでーす! こんなトコに寄る暇なんて……」
「はいはい、いいからいいから……」

織姫は掴まれていない手を振り回しながらぎゃあぎゃあと喚く。
しかしかえでは有無を言わさずズルズルと彼女を引きずり、とうとう自らの部屋の中へと無理やり彼女を
招き入れたのだった。
 
そんな、半ば強引な二人のやりとり。
 
それは今に限ったことではなく、かえでがこの劇場を訪れてからは、時間こそまちまちであるとはいえ
日常茶飯事のことであった。

尤も、それを知るのは当人達だけなのだが……。
 
 
 
「相変わらず地味な部屋ですね~、超つまんないって感じ」

かえでの部屋をぐるりと見渡した織姫は、腕を組んだままふっと息を吐く。

確かに華美である彼女には似合わないのかもしれないが、それでも落ち着いた雰囲気の彼女の部屋は特に
散らかっている訳でもないため、少なくとも酷評される程ではない。
そのため年下の、その上部下である彼女にそこまで言われては、立腹まではせずとも不機嫌な顔くらいは
見せるというのが普通だろう。

だが、かえではそんな素振りすら見せずにっこりと微笑んだまま。彼女は抱えている書類を机に乗せると、
つまらなそうな表情を浮かべる織姫にこう問いかけた。

「あんまり派手なのは私の趣味じゃないのよ、知ってるでしょう?」

怒りを見せることのない、穏やかな声。

織姫はつまらなそうな表情を変えること無く、何の断りも無しに部屋のベッドにごろりと寝転がった。

織姫の視界に映るのは、彼女が地味と感じる真っ白な部屋の天井。
怒りを誘発するためにわざとそう言ってはみたものの、やはりかえで相手にそれをするのは無駄であるという
ことだろうか。

長い付き合いになる姉のような友人に、織姫は再び視線を向けた。

「まあ、蒸され縁ってやつですからねー。趣味はぜんっぜん合いませんでしたけど」
「くされ縁、よ。」

紙の束に視線を落としたまま、かえではすぐに織姫の言葉を訂正する。

「かえでさんは趣味だけじゃなくって性格も悪かったみたいですねー。失礼しちゃう」

ムッとした織姫はベッドの上から起き上がるとすぐにそう反論したのだが、彼女の言葉の最中に顔を上げた
相手の顔に浮かんでいるのはやはり微笑み。

敵わない、と織姫は悟ったのか、彼女は部屋に入って初めてその顔に笑みを浮かべた。

いや、彼女が威圧的でない笑みを浮かべたのは、以前にこの部屋で笑って以来であったかもしれない。

「そう言う割に、あのメンバーの中ではいつも私に懐いてくれたけど?」

ベッドから降りた織姫は、再びそう問いかけたかえでの方へと近づき、ぎゅっとその身体を抱き締める。
するとすぐに、その髪が柔らかい彼女の手によって優しく撫でられた。

織姫が賢人機関の命を受けて素直に日本を訪れたのは、あくまでも自分自身の為。
話にしか聞かない場所を護るためでも、自分より遥かにレベルの低い劇団と共演する為でもない。

そのため馴れ合う気など更々無い彼女は、だから高圧的な態度で周りから距離をおいた。

だが彼女の予想に反し、メンバーは柔らかい態度でいつも彼女に接してくる。

元来は人懐っこく、まだまだ年相応の子どもっぽさを持ち合わせている彼女。
今すぐにでもその手を取りたいのだが、複雑な父親への想いが邪魔をする。
 
素直になりたい、だがそれは自分自身が許すことができない。

そんな葛藤に襲われる度、織姫はかえでの部屋を訪れた。
そして自分の本来の姿を知る彼女は、いつも暖かく彼女を迎えてくれる。

たとえ素直になれない自身の心のせいで、今日のようにそのドアを叩くことを迷っていたとしても。

「ま、かえでさんはまだまだ子供っぽいところがありますからねー。ちゃんとワタシが見ていないと」

かえでに髪を撫でられながらそう言った織姫の表情は、まだ十と半分にも満たない年相応の少女そのもの。
どこか子供のようなその姿こそが、本来の彼女の姿であった。

「ふふっ、それはどうもありがとう」

かえではにっこりと微笑むと、髪を撫でていたその手を相手の背に廻す。

そしてまるで母親のように、ぎゅっと彼女の身体を抱き締めた。
 
  
決して気を緩めることの許されない少女が、本当の自分をさらけ出せるほんの僅かな時間。
それはやがて彼女自身が自らの壁を打ち破るまで、確かに心の支えとなっていたのだった。


+++++++++++++++
時期的には2の姫パパンとの話直前でしょうか。まだまだツンツン期な姫でございます。
あの超扱いにくそうな面々が揃う欧州星組で、かえでさんに一番懐きそうなのは個人的に姫だと思います。
次点でラチェット。昴はなんとなくとっつきにくそう(なイメージ)だし、レニは無関心だろうし。

2ではレニのことを気にかけている描写はあったのですが姫は無かったので……何となくこんな風だったら
いいなぁと。
しかしマトモな姫難しいな! 困った!
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