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15:00 かえでとすみれ アンジェラスにて

注意
かえすみの百合です
11:00のかえすみ話の続きでございます




+++++++++++++++


お昼時から暫くの時間が経ち、人々が口寂しさを感じ始めた午後。
浅草にある喫茶店アンジェラスには、小腹を空かせた多くの人々が集まっていた。

名物のケーキや珈琲にそれぞれが舌鼓を打ちつつ、他愛ない会話を楽しむ憩いの時間。

テーブルのひとつひとつが様々な話題で盛り上がっている中、しかしたったひとつのそれだけが、
他とは一線を画しどんよりと静まり返っていた。
 
「ねえ、すみれ。機嫌直して」

注文したダッチコーヒに挿されたストローを持ったままで、かえでは先程からずっと憮然とした顔のままの
恋人にそう声をかける。

「別に、わたくしは怒っておりませんわよ」

紅茶の入ったカップに視線を落としたままですみれはそう答えたものの、その声に幾ばくかの刺が含まれて
いるのは明白であった。
 

三越で一時間程行方知れずになった時、かえでは仕方なく彼女を捜す館内放送を流した。
勿論すみれの名前を直接流すのではなく、あくまでかえでの連れという名目で。
稀代のトップスタアが訪れていると知られれば、店内が混乱することは必須である。

かえでにとっては広い店内を探し回った後にやむを得ずとった苦肉の策であったのだが、どうやら相手は
それが不服であったらしい。
再会した際に流石に喚きはしなかったものの、明らかに不満げな視線で彼女をじっと睨んできたのだから。
 

こうしてすっかりすみれはヘソを曲げてしまい、昼食後浅草に場所を移しても尚、彼女は憮然とした態度を
変えることは無かった。
機嫌の悪い彼女と対峙することには慣れている筈のかえでなのだが、さすがに二人きりで半日を過ごす
というのは初めての経験である。

その上完全な自分の過失ならば仕方が無いとはいえ、今回の件でかえでは自身が考える最善の策を
講じたのだ。半ば迷子扱いをされて不服だという気持ちは分からなくも無いのだが、ここまで悪者にされるのは
心外である。

「そう言う割に、ずっと眉間に皺が寄っているけど?」
 
これまではただひたすらにすみれを宥めていたかえでが、初めて彼女の神経を逆なでするような言葉を
漏らす。勿論かえで自身がそれに気付いていないということはありえない。

「こ、紅茶に砂糖を入れすぎたせいですわ」
 
これまでとは違うトーンの相手の言葉に一瞬目を見開いたすみれであったのだが、すぐに持ち前の負けず
嫌いが台頭したらしい。
かえでが指摘した眉間の皺が、更に深いものになる。
もし彼女の目の前に座るのが後輩のさくらや紅蘭であったのなら、背中を強張らせ委縮しただろう。

しかし今そこに座っているのはかえでである。
彼女にしてみれば自分よりも遥かに年下の部下が、最早十八番といえる天邪鬼な態度を取っているだけに
しか見えず、またそれは全く怖いものでは無い。

「あら、あなたいつも紅茶には何も入れないじゃない」
 
口元に笑みを浮かべ、ゆっくりとかえでは口を開く。

「今日は気分を変えてみましたの!」
 
更なる彼女の挑発に顔を赤くしたすみれは、カシャンと音を立ててティーカップをテーブルの上に乗せる。
盛大な音が辺りに響いたものの、幸いカップがその一生を終えることは無かった。

「ほら、怒ってる」
 
思わず身構えたかえでは、閉じた瞼を開けるのと同時に囁く。
当然その口元には、先程と同じような笑みが浮かんでいた。
 
そうして遂に、すみれのあまりにも細すぎる堪忍袋の尾が切れる時が訪れる。

「たった今かえでさんが、わたくしを怒らせるようなことを仰ったからてすわ! もうっ!」
 
眉間の皺をこれでもかという程に深くした彼女は低い声でそう叫ぶと、同時にバンとテーブルを叩き
立ち上がる。
そしてもう一度かえでをぎっと睨みつけ、店の外へと飛び出してしまった。
 
周りの視線を一挙に集めたテーブルで、かえでは深い溜息を吐く。
いくら不満が蓄積されていたとはいえ、流石にこれでは大人気が無いのは確かである。

「まだまだね、私も」
 
かえでは誰にも聞こえないような声でそう小さく呟くと、自らもまたゆっくりと席を立った。
勿論、出て行ってしまった恋人の後を追う為に。
 
――しかし何故このような時の彼女の背中は、こうもかえでに追って来て欲しいと言っているように
見えるのか。

「ごめんなさい、お釣りはいらないから」
 
財布から取り出したお札を店員に手渡したかえでの脳裏に、ふとそんな疑問が浮かぶ。

だがそれはやがて彼女が走り出すのと同時に、どこか彼方へと消えてしまったのだった。
 
 
 
いくら着なれているとはいえ晴れ着ではさすがに走る事ができないのか、かえではすぐにすみれの元に
辿り着く。

「もう、何をなさるんですの!」


16.jpg
 

後ろから気配を感じながらも逃げることは無かった彼女だったのだが、かえでが手首を掴むのと同時に
再びそう声を上げる。
そしてその手から逃れようとして腕に力を入れたのだろうが、武道の有段者であるかえではそれを絶対に
離そうとはしなかった。

「いいから、少しは大人しくしなさい!」
 
それでも尚も抵抗しようとするすみれに向かい、かえでは静かながらも強い口調で言う。
その迫力は戦闘時さながらであったため、普段ならばすぐに反発するであろうすみれも一瞬びくりと
背筋を伸ばし、その言葉通りに口を噤んだ。
 
その隙をつき、かえでは掴んでいた彼女の手を自らの方へ引き寄せると、もう片方の手の指をそれに
絡ませる。
そしてぎゅっと強く彼女の手を握ると、手首を掴んだ手を離した。

「さ、行きましょうか」
 
下に落とされた手を繋いだまま、かえではその言葉通りにすたすたと道を歩き出す。

「は、離して下さいなかえでさん! こんなところを人に見られては……」
 
暫くは呆然とかえでに引っ張られていたすみれであったのだが、我に返ったらしくすぐに声を上げる。
そんな彼女の頬は、ほんのりと赤く染まっていた。
勿論その感情が先程までと違うことは、彼女の言葉から火を見るより明らかである。

「あなたが喚かなければ、誰も気づきはしないわよ。もし見られたとしても、女同士なんだから
スキャンダルにはならないわ」
 
足を止めることなく早口でそう答えたかえでであったのだが、ふと足を止めてすみれの方を振り返る。
その口元には、先程と同じ悪戯な笑み。

そんな彼女の美しい唇に、一本の人差し指が添えられた。

「まあ、キスでもしていたら別だけど」
「き……」
 
かえでの言葉に、すみれの顔が一瞬で赤く染まる。その色はもう先程の比では無い。
 
そんな相手の様子に、かえではまたふっと息を吐いた。
どうやらすみれの機嫌は、一連の彼女の治療により回復したらしい。
尤も、強引な手法であったことは否めないのだが。

「それにね、私はあなたと手を繋いで歩きたいの。それはそんなにいけないことなのかしら?」
 
顔に浮かべた微笑みを普段と変わらぬ柔らかいものへと変えて、かえではそうすみれに問う。
その言葉は紛れもない、彼女の本心であった。
 
未だ体温が治まらないのか、かえでの手に直に伝わる相手の手の温度は高い。
そんな暖かい恋人の手をせっかく掴んだのだから、彼女はもう二度とそれを離したくはなかった。

「それとも、あなたは私と手を繋ぐのが嫌?」
「そ、それは……」
 
首を傾げたかえでが一歩すみれの方に近づくと、既に耳まで赤く染め上げた彼女の視線は徐々に地面へと
吸い寄せられていく。
こうなってしまうと、彼女の口から答えは望めそうにない。

「嫌なら、無理強いはしないけど」
 
かえでは最後の手段とばかりにそう言って、少しだけ自らの手の力を緩めた。

絡み合っていた筈の指はゆっくりと力を失い、少しずつバラバラになっていく。
あれほど身近に感じていた相手の体温も同じように薄れていき、遂に……
 
すると、ふいにすみれが自らの身体を少しだけかえでの方へと傾ける。
そして自らの手を彼女の腕と身体の間に滑り込ませると、ぎゅっと強くその手を握った。

勿論その指は、かえでのそれと絡ませて。

「うん、素直でよろしい」
 
そう言ってにっこりと嬉しそうに微笑んだかえでは、絡ませた手の指をぎゅっと柔らかく握る。

そしておずおずと顔を上げたすみれの頭を逆の手で軽く撫でると、こんどはゆっくりとした足取りで
浅草の街を歩き始めた。
 
そんな2人のデートは、まだ始まったばかりである。


+++++++++++++++
天邪鬼なすみれ様はとても可愛いと思います! まる!
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