11:00 かえでとすみれ 三越にて
※注意※
かえすみの百合でございます
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人であふれる銀座の一角にある百貨店、三越。
ある一定以上の上流階級が客層の殆どを占め、庶民には高嶺の花とされている店である。
しかし本物の上流階級の娘にとって、そんなことは関係の無い話。財閥の一人娘である神埼すみれは、
今日も上機嫌で店の品物を物色していた。
「この棚のここからここまで、全て頂けるかしら」
彼女が足を止めたのは、高級なものが揃う店の中でも特に値が張る棚。
しかも彼女はその中の一品ではなく、複数を一気に買い占めようというのである。
「さすがすみれお嬢様はお目が高い。すぐにお持ちいたします」
店に入って以降ずっと彼女の横に待機していた男の店員はそう言ってにっこりと笑うと、一礼の後に
すぐに店の裏へと下がっていく。するとすぐにそこから何人かの従業員が姿を現し、あれよあれよという間に
すみれが指し示した品物を全て運んで行ってしまった。
感心すべきことは、現れた従業員の全てが彼女に向かい深々と頭を下げたということだろうか。
この高級百貨店は、どうやら従業員の教育にも力を入れているらしい。
尤もすみれのようなプライドの高い客を相手にするには、腰が低くなければやっていけないのではあるのだが。
「相変わらず、豪快に買うわね」
ご満悦の表情を浮かべているすみれの後ろから、聞き慣れた心地よい声が響く。
彼女がゆっくりとそちらの方を見れば、常に従業員が張り付くのが煩わしいと言って別のフロアへと消えた
かえでの姿があった。
「あら、わたくしがいいと思った物を全て買って、何か問題があるんですの?」
うんざりした表情の彼女に向かい、すみれはそう問いかける。
幼い頃から今のような買い物の仕方しか知らない彼女にとっては、かえでの口から何故そんな言葉が
出るのかすらも分からない。
「ううん、私がこんな買い方したこと無いから……慣れないだけよ」
きょとんとした表情のすみれを見、かえでは深い溜息を吐いた後にそう呟く。
そして全ての品物を綺麗に装飾していく従業員達を一瞥した後、未だ不思議そうな表情の彼女に向かって
問いかけた。
「それで、あとどれだけ私はあなたに付き添えばいいのかしら?」
かえでの問いかけに、すみれは顎の辺りに人差し指を軽く当てて暫く思案する。
そしてふと壁に掛けられていた大きな時計に目をやると、そこから視線を外すことなくこう答えた。
「そうですわね……お昼も近いことですし、あとは貴金属のフロアだけに致しますわ」
買い物にはしゃぎ過ぎたが為に時間の経過を忘れていたすみれは、自身が思っていたよりも早い時間の
経過に少しだけ驚いていた。そして正確な時間を知るのと同時に、急速に空腹感が増しているのを感じる。
だがそうであるとはいえ、彼女は好敵手であるカンナのようにすぐに食に走りはしない。
それにかまけて必要なものを買い忘れてしまうほど、馬鹿なことは無いのだから。
「そう。まだ買うのね」
そんな彼女の言葉に、かえでは再び大きな溜息を吐く。
彼女自身も庶民とはまた違う家系の人間なのだが、やはり財閥の娘のような感覚は持ち合わせていない
ようだ。
「あら、少し足りないくらいではございませんこと? アイリスや織姫さん達とご一緒した時には、
中尉が抱えきれない程の品物を買っておりますのよ」
いけしゃあしゃと大神を荷物持ちに使ったことを話すすみれには、かえでの口から洩れた「……ご愁傷様」の
言葉は聞こえてはいない。
すみれが名前を出したメンバーは、誰もが名だたる名家の生まれ。
そんな彼らの買い物によく付き合わされる大神の役回りは、必然的にこうなってしまうのだった。
「まあ、今日は男手も無いことですし……これくらいにしておきますわ」
すみれがそう言ったのと同時に、どうやら包装が終わったらしく先程の従業員がすみれの方へと
近づいて来る。
しかし彼はこちらへと辿りつくよりも早く、いつの間にか現れた彼女の付き人岡村に呼び止められていた。
いくら大神が居ないとはいえ、自ら荷物を運ぶことはしたくない。
付き人の登場は、そのような場合の彼女の常套手段である。
「別に思う存分買ってもいいのよ。荷物なら運ぶの手伝ってあげるから」
テキパキと荷物を運んで行く岡村の様子を訝しげに見たかえでは、そう言ってすみれに譲歩する
素振りを見せた。だがすみれは口元に持っていた扇子をあてがうと、そんな彼女の肩をぽんと軽く叩く。
「そんな、かえでさん。あまり意地悪なことを仰らないでくださいな」
唐突な言葉とほぼ同時にかえでが目を見開くと、すみれはまるで内緒話でもするかのようにその耳元へと
唇を近付ける。そして先程よりも少しだけ声を抑え、こう彼女に囁いた。
「せっかくこれから二人で浅草に参りますのに、荷物を持たせるような野暮なことは致しませんわよ」
すみれはそこまで言うと、照れたように少しだけ頬を染める。
そう、今日は二人だけの休日。
恋人同士である彼らの、久し振りのデート日和なのだから。
「こちらも頂きますわ」
銀色に光る美しい指輪を見つめ、すみれはうっとりとした表情で言う。
「はい、お買い上げありがとうございます」
するとショーケースの向こうの女性従業員が、先程の男性と同じような笑みを浮かべ深々と一礼した。
その後ろでは何人かの従業員がテキパキイヤリングやネックレスなどを包んでおり、勿論それら全てが
すみれの購入したものであることはいうまでも無いだろう。
「で、もう気は済んだ?」
女性店員が梱包作業を手伝う為に離れたのを見計らい、今までショーケースの中を見て百面相をしていた
かえでがゆっくりとすみれの方に近づいて来る。
高級百貨店である三越の中の貴金属フロア。しかもその中でも特に値の張る一角である。
何も知らない本当の一般人であったのなら、その値札が示す額に卒倒することは間違い無い。
「ええ、幾つか新作を買うことができましたわ」
満面の笑みを浮かべたすみれは、そう言って先程手にした指輪を彼女の方へと向ける。
するとかえではその指を自らの手で包み、まじまじとその姿を見つめた。
そして既に切り取られた値札を手に取ると、驚愕の表情を見せる。
彼女の「ゼロの数が多いのよ……」という言葉は誰にも、勿論すみれにも聞かれることなく四散した。
「……あなたが満足するような指輪を贈るのは、私には時間が掛かるかもしれないわね」
大きく溜息を吐きながら、かえではふとそんな言葉を漏らす。
それは賑わう店内では小さな、あまりにも小さな一言。
しかし彼女のすぐ傍に立つすみれの耳はそれを確実に捉えたらしく、彼女は目を見開いて恋人の方へと
真っ直ぐな視線を向けた。
しかし彼女のすぐ傍に立つすみれの耳はそれを確実に捉えたらしく、彼女は目を見開いて恋人の方へと
真っ直ぐな視線を向けた。
「……かえでさん、今、何と……?」
途切れ途切れにすみれが呟くと、かえでは視線を指輪から彼女の方へと上げる。
そして真っ直ぐなその視線を受け止めると、その顔に悪戯な笑みを浮かべた。
「あなたに指輪を贈るまで、暫くの間はこれで勘弁してって言ったのよ」
「か、かえでさん! こんなところでお戯れになるのはよしてくださいな!」
瞬時に顔を真っ赤に染め上げたすみれは、すぐに自らの手を取り戻すと小さな声で叫ぶ。
恥ずかしさのあまり喚き散らしたかったのが彼女の本心ではあったものの、公共の場であるという自覚が
何とか彼女の感情の昂りを制御した。
「ふふっ、すみれ……顔真っ赤よ?」
もう一言文句を言おうと顔を上げたすみれに向かい、柔らかい笑みを浮かべたかえでが口を開く。
それと同時に彼女は慌てて自らの頬を両手で覆った。
しかしそんなことをしても、相手が目の前に居る以上この熱が治まる気配は無い。
「……し、失礼いたしますわ」
すみれは早口でそう言うと、すぐに踵を返し慌ててかえでの前から走り出す。
離れなければ、一刻も早く……!
その感情だけが、すっかり熱くなってしまったすみれの身体を突き動かしていた。
彼女の心臓は、今にもはち切れんばかりの強い鼓動を伝えてくる。
そして必死に忘れようとはしているものの、彼女の脳裏には何度も繰り返し先程の恋人の姿が映った。
舞いあがりすぎていることを自覚していながらも、すみれはその感情をコントロールする術を知らない。
そんな彼女にできることといえば、ただ繰り返し相手の事を思いながら、下を向いて店の中を歩き続けことしか
無かったのである。
こうしてかえでの姿は見えなくなっても尚身体に宿った熱を抑えることができなかったすみれは、一時間程
一人で店内を彷徨い続けた。
やがて心配したかえでによって彼女を呼び出す為の館内放送が三越の中に鳴り響き、彼女はこれまでの
人生で最大の恥を晒す羽目になったのである。
それは彼女にとってのデート日和が、もろくも崩れ去った瞬間であった。
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何気に次に続いたりする。
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