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10:00 かえでと加山 支配人室にて




+++++++++++++++


ぼろん
 
秋の柔らかい日の光が差し込む支配人室に、ふと流れるギターの音色。

「女心と秋の空、先人は偉大なことを言ったモンだよなぁ……大神ぃ」

扉の方に背を向けてうっとりとその景色に思いを馳せているのか、窓の外を見つめる加山はやけに
饒舌である。
 
ぼろん
 
「変わりやすい秋の空と同じように、女性の心もまた変わりやすい」
 
ギターをかき鳴らした後、彼は未だ窓の外を見つめたまま、やけに大袈裟に両手を上げた。
 
ぽろん
 
「いやぁ、女性の心ってのは難しい。それでいて奥が深い。……だから俺達男は、彼女達に振り回されて
ばかりで……」

やがてその語りが佳境に入ったのがその口ぶりかやけに力の入ったものとなる。
そして最後の一言を最大の拳を込めて言おうというのか、加山はふと言葉を止め、身体をくるりと
ドアの方へと向けた。
 
こうして初めて、彼はこの部屋に入って来た人物と対面したのである。
幾つかの書類を抱えたまま訝しげな表情を浮かべた彼の上司、藤枝かえでと。

「加山クン、何してるの?」
「ふ、ふふ、副司令!?

かえでの問いかけは驚いた加山の叫びによってかき消されたためか、彼女の眉間に少しだけ皺が寄る。
不機嫌な上司程部下の負担にならないものは無く、加山もまた世の中に存在する大勢の部下と同じように
背筋をピンと伸ばして固まった。

「そうよ。大神クンじゃなくって、ごめんなさいね」

そんな加山の方へと近づいてきたかえでは、その目の前の机にどっかりと資料を乗せる。
そして不機嫌な表情のまま、つま先立ちになって彼のすぐ目の前まで自らの顔を近づけた。

「い、いえ……そんなことはありませんとも!」

まるで蛇に睨まれた蛙のような今の加山の状況なのだが、もしも彼らの関係を知らない男性が二人を
見たとすれば、彼のことを羨ましいと思うに違いない。

大帝国劇場の副支配人である彼女は、花組に勝るとも劣らないほどの美人。
そしてそのスタイルも、凹凸がはっきりとしているためこれまたスタアにも劣らない。


普段は華やかなスタアの影に隠れがちだが、それは裏方に徹する彼女の立場だからこそ。
実際、そんな彼女の姿を見るため劇場に通うファンも存在するというのが専らの噂である。だが悲しいことに、
彼女はそんな男達の視線に全く気づいていないのだが。

ともかく女性としてはとても美しい彼女に、全く色気が無いとはいえ目の前まで迫られては、加山は世の男性の
嫉妬の的となるだろう。

そして実際、彼が背中にかいている汗は全てが冷や汗という訳ではなかった。

目前にまで迫った美しい女性の顔。彼女からかすかに香るふんわりとした甘い匂い。
それらに晒されてなお何も感じない程、加山は枯れていないのである。

「ふぅん……それにしても、いくら後ろを向いてたからって私と大神クンを間違えるなんて……月組隊長
としては、どうなのかしら?」

加山の言葉に口元を笑みの形に曲げたかえでは、先程までとは違う柔らかい口調で問いかける。

「はっ、申し訳ありません!」

美人の微笑みというのは時に安らぎを、時に恐怖を与えるもの。現在の状況ではそのどちらも感じられる
加山は、身も氷る程の恐ろしさとくらくらする程のやましい心を振り払うように、やけに大きな声でそう謝罪した。

そんな相手の葛藤を知ってか知らずか、かえでは呆れたような表情を浮かべふっと息を吐く。
そして背伸びしていた踵を床につけ、少しだけ高くなった加山の目をじっと見つめた。

「平和な時間が続いているからって、気を緩めたら命取りなのよ。しっかりしなさい、隊長さん」

そう言ってぴん、と額弾かれ、加山は思わずそこを手で押さえる。

「は、はあ……」

そんな軍人とは思えない程の半端な返事を返したのは、緊張から解放された安堵のせいか、それとも……。

「それにしても……加山クンが間違えるなんて、あなた熱でもあるんじゃないの?」

かえではそんなどこか気の抜けている加山を見上げ、再び訝しげな表情を浮かべる。
確かに彼がギターを担いで現れるのはいつも大神の前のみで、実際今日も支配人室に近づいてくる足音を
大神だと思い込んでいた。


確かに彼自身も、大神とそれ以外の気配を間違えたことはない。
それは不思議ではあるものの、まさか自分が風邪など……。

「そ、そんな事はありません。俺はいつも健康なのが取り柄で……ッ!?

自らの見解を示す加山の言葉の途中、かえでの手が彼の額へと伸びる。
そして彼が抵抗するよりも早く彼女がその手を取り戻すと、目を丸くしてこう言った。

「ほら、やっぱり凄い熱じゃない!」
「え、そ……そんな筈は……?」

指摘されたのと同時に、加山は自らの手を額に当てる。
しかし既に暖かくなっているそれでは、自分の体温が高いかどうかなど全く分からない。
思えば確かに彼の動悸は普段よりも激しく、汗がやけに出ていた気もしていたのだが。

「いいから、今日の任務はもうおしまい。治るまで家から出ちゃ駄目よ、分かった?」

かえではすぐに加山の後ろに回ると、その身体を押して部屋から出そうとする。
予想もしない彼女の行為に暫く加山は何も出来ず、ただそのされるがままにドアの方へと押し出されていった。

「しかし、副司令……!」

やがて我に返った加山がドアの前で最後の抵抗を見せる。しかし、かえでの勢いは治まらなかった。

「返事は?」
「は、はい! 了解でありますッ!」

有無を言わさぬかえでの言葉に、加山は敬礼を付けてびしりと固まる。
そして自らドアを開けて一歩部屋の外に出たとき、彼の背中からこんな声が聞こえてきた。
 
「手が空いたらお粥か何か作りに行ってあげるから……ちゃんと寝てなさいね」
 
 
*    *    * 


「……かえでさんのお粥ッ!」

思わせぶりな美人の発言は、時に男を不幸にする。
かえでの言葉に胸を踊らせていた加山はチャイムの音を今か今かと待ち続けており、そして現れた親友の
姿に愕然とした。

「悪かったな、俺で」

劇場から持ってきたのであろう白いエプロンをつけた大神は、同じくそこから持ってきたであろうお粥を
土鍋に入れ、頭を抱えて叫ぶ病人の元へと運んだ。

彼が言うに、これはさくらの指導で彼が作ったものらしい。
味は保証されているとはいうものの、かえでのものではないという落胆は大きかった。

「べっ、別に悪いなんて言っとらんぞ俺は! 俺はいつもお前の事をだなぁ、大神!」

勿論大神には何の罪もない。それは加山自身にも分かっており、ベッドから叫んだその言葉も本心である。
何だかんだで急な出張で来られなくなってしまった上司の代わりにわざわざ見舞いに来てくれる親友の
存在は、彼にとって有り難いものに変わりはない。

全ては、最初に与えられた期待が大きすぎたことが敗因なのである。

「何でもいいから、早く食べてくれ。さくら君とアイリスの約束に遅れてしまう……」

心底鬱陶しそうな視線で加山を見た大神は、なかなか手に取ろうとしない土鍋を強制的に相手の膝の上に
乗せた。

すると唐突に視線を上げた加山は、今度はやけにきらきらとした視線を彼の方へと向ける。

「おお、流石は大神。今日もあいかわらむぐ」
「いいから、早くしてくれ」

普段のハイテンションな物言いに加え、熱に冒された頭。

そんな妙なテンションの親友の口に、大神は無理矢理お粥の入ったしゃもじを突っ込んだ。
 
そのあまりの熱さに、加山が一瞬で正気に戻ったことはいうまでもない。


+++++++++++++++
うちは完全に加山→かえでさんな感じである。
果たして4の問題のシーンを見て、私の趣向は変わるのだろうか!
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