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07:00 かえでとさくら 更衣室にて




+++++++++++++++


彼女が剣を振り下ろすと、美しい黒髪がサラサラと空に舞う。
それが再び元の場所へと落ちるより早く振り上げられた剣は、今度は真横に凪ぎ払われる。
そして彼女は身体の向きを変え、払った剣をまた図上へ。

「はあッ!」

気合いと共に再び剣が振り下ろされると、空を切る音と共にまたその髪が舞い上がる。


華麗な舞を見ているようだと、そんなさくらの姿に見とれていたかえでは思い、その口からは自然と
感嘆のため息が漏れた。
 
 
*    *    *   


朝早くからの修行を終えた後、かえでは一緒に中庭で身体を動かしていたメンバーと共に風呂で汗を流した。

「ふぅ……やっぱり朝早く身体を動かすのは気持ちいいわね」

いくら寒くなってきたとはいえ、激しく身体を動かせばすぐに身体は暑くなる。
こうしてまるで真夏の昼間のようにぐっしょりと汗に濡れた身体を洗い流した快感に、かえでは爽やかな
笑みを浮かべて呟いた。

「おうよ。それで腹を空かした後の朝飯が美味ぇんだって!」

未だ衣服に袖を通しているかえでに答えたのは、もうすっかり服を着終えたカンナ。
手にはもう既にまとめてしまった荷物を持っており、朝食の待つ食堂へと飛び出せる準備は万端のようである。
いや、今にも飛び出そうとしていたのかもしれないが。

「全く、カンナはホントに食べ物のことしか頭に無いのね」
「ふふっ、でもカンナさんはそうでなくちゃ」

食い意地の張ったとても彼女らしい一言にかえでは苦笑いを浮かべ、その隣から顔を出したさくらが笑う。
確かに彼女の言うとおり、カンナが食事のことを言わなくなるのは、恐らく天変地異でも起こった時に違いない。

そこまで考えたかえでは流石に大袈裟だろうと自分自身に突っ込んだのだが、そう揶揄されるくらいの
大事であることは確かである。

そんな彼女の思いを知ってか知らずか、カンナは憮然とした顔で篭の衣服をかき集める。
そしてそれらを手に持つと、つかつかと入口の方へ近づいていく。

「へっ、うるせえや。さっさと来ないと、おめぇらの分まで全部喰っちまからな~!」

振り返り様に二人に向かってそう宣言したカンナは、ペロリと舌を出して更衣室を飛び出した。
本気で言っている訳ではないことは分かってはいるものの、口に出したのは帝劇チの大食漢。
万が一という可能性も捨てきれない。

そして何よりせっかくの食事が冷めてしまうということもあるため、どちらにせよ二人がうかうかしていられない
のは確かである。

「はいはい、もうすぐ行くわよ~」

かえでは着替えるスピードを早めつつ、外に出てしまったカンナに向かってそう叫んだ。

「早くしないと、カンナさんにホントに食べられちゃいそうですね」

どうやらそんな危機感を覚えたのはかえでだけでは無かったらしい。
そう言って苦笑いを浮かべるさくらもまた、袴を着る手つきが心なしか早くなっている。

「その時は、代わりになにか作って貰わないと」

かえでは白いジャケットに袖を通すと、彼女と同じような微笑みを浮かべて呟く。
さくらはそれに頷くと同時に、袴の紐をぎゅっと縛った。
そして手を伸ばして剣を取れば、もう出ていける準備ば万端である。髪は後でゆっくり結んでしまえばいい。

「さくらは、本当に剣の型が綺麗ね」

同じように荷物を持って部屋を出る準備を万端にしたかえでは、剣を手にした彼女にふと先程の面影を重ね、
何の気なしに話しかける。

「えっ……そうですか?」
「うん。ひとつの舞を見てるみたいで、見とれちゃった」

唐突な彼女の言葉に目を丸くしたさくらに、かえではにっこりと微笑んでそう答えた。

力任せに振り回すのでは無く、まるでひとつの芸術であるかのように舞うさくらの剣。
姉から受け継いだ宝刀を持つかえでもまたそれを操る者の一人だが、どちらかと言えば拳法に力を入れている
彼女は、さくらと同じようにはいかない。

しかし同じように扱う者であるからこそ、彼女の剣技が素晴らしいものであるということが分かる。

「そんな、あたしなんてまだまだですよ。お父様の足元にも及びません」

さくらは少しだけ頬を染めながら、その綺麗な黒髪に覆われた後ろ頭を軽く掻く。
その手が離れた途端に舞い上がった数本の髪を、かえではすぐに持っていた櫛で整えた。

「そうかしら、私なんかよりずっと綺麗だと思うけど」
「へへっ、ありがとうございます」

頬を赤らめたままで紡がれたさくらの言葉は、恐らくかえでの言葉と髪を解かしているくれたことに対して。
そして綺麗と彼女が言ったのは、剣の腕とと解かしている黒い髪に。
髪の色素が薄い彼女にとって、さくらのような美しい黒髪は憧れの的であった。

「でも、かえでさん。褒めて貰って嬉しいんですけど、あたしはあんまりこの剣を使いたくは無いんです」

やがてかえでが髪をすいていた手を止め、やがて二人が食堂の方へと足を向けたその時……ふとさくらが
そうおずおずと口を開く。
きょとんとしたかえでが彼女の方を見ると、その目はじっと手にした剣を見つめていた。

「あたしがいつかこの剣を使いこなして、どんどん上手くなっていくということは……帝都にそれだけ多くの
危機が訪れたということ。その度に多くの人が、傷ついたということ」

ゆっくりとした口調で、さくらは淡々と自らの思いを紡ぐ。

達人の剣は、それがいかに美しいものであっても、その域に達するまでに多くの血が流れている。
いくら修行を重ねようと、最終的に勝負を左右するのはやはりいかに敵を倒したか……自分を倒そうと
襲いかかる相手を、どれだけ倒しその血を浴びたのか。
そのような血生臭い経験が、やがて剣の腕を上達させていくのである。

「だからあたしは、この剣を使いこなせないままでいたいんです。あたしがこの剣を二度と握ることの
無いような、平和な日々が訪れて欲しいって思うんです」

ある程度の腕を持った人間の剣を更に伸ばすには、実戦を多く積み重ねること。
そうなれば必然的に、自らの倒すべき敵が数多く存在するということ。
平和を愛するさくらにすれば、それを脅かす敵が帝都に蔓延っているということになる。

しかし、そんな世の中をさくらはよしとしてはいない。
だがらこそ彼女は、その言葉のとおり自らが剣を握ることのない世の中を望むのだ。

そうしてふと足を止めたさくらは、まるで祈るように目を閉じると、手にした剣を両手で強く握る。

「でも、その時が来るまであたしは帝都の人々の剣となり、この剣を振るい続けます。いつかこの剣を
封印する、その時まで」

そう呟いた後に瞼を上げたさくらは、凛々しい笑みを浮かべ、かえでを真っ直ぐに見つめた。

彼女につられて足を止めたかえでは、その純粋な美しさに思わず目を奪われる。
そして同時に彼女は、その剣舞の魅力が何であるかを思い知らされた。

どこまでも清らかで純粋な彼女の心、かえでにはどうしたって得ることの出来ないものである。

敵わないわね、と心の中で呟いたかえではふっと息を吐き、そしてにっこりと微笑む。

「あなたが剣を、すみれが長刀を、マリアが銃をそれぞれ捨てて……そしていつしかこの戦闘部隊がただの
『帝国歌劇団』になれば、どんなに嬉しいことか」

さくらの目を真っ直ぐに見つめ、かえではゆっくりとした口調で言う。

この戦闘部隊で戦う乙女たちが、いつしか武器を捨てる時。それこそが本当の平和であるといえるだろう。

だがもしもそんな時が訪れたとしても、軍人である彼女がそれを忘れることはない。
彼女はまた新たな戦いに、身を投じることになるだけだ。

この道を選んだ彼女に、さくらの言うような平和な時はもう二度と訪れないのである。

かえではいつの間にか、視線をさくらから外しじっと自らの手を見つめていた。
人と人ならざるもの。その多くの命を奪った、血塗れのその手を……。

「いつかそんな日が来るって、あたしは信じています」

そんなかえでの隣でさくらは呟き、再びかえではその声に顔を上げる。
すると彼女は、空いている方の手でかえでの片方のそれを包んだ。

「その時は、かえでさんも一緒に舞台に立ちませんか? きっと素敵だと思いますよ」

目を見開いたかえでに、さらに相手は追い討ちをかける。
彼女はじっとその目を見つめたが、柔らかく微笑むその表情に裏などあるはずが無い。

やがてそんなさくらの笑顔は、かえでの口元を自然に笑みの形に曲げた。

「そうねぇ……考えておくわ」

かえではそう小さく呟いて、さくらの手をぎゅっと握り返す。
暖かい互いの体温を感じると、叶わないだろうと思いつつ吐いたその言葉にも不思議と希望が
持てる気がした。


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さくらは大神クンの前以外では完全にいい子だなぁ(笑) 
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