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08:00 かえでさんとアイリス 支配人室にて




+++++++++++++++


「アイリス~! アイリス、どこにいるの!」

大帝国劇場の一階、入口に程近いエントランスの中央。
その場所で花組の副隊長であるマリアは、ひどく慌てた様子で最年少のメンバーの姿を捜していた。

「マリアさん、どうされたんですか?」

そんな彼女の方へと近づいてきたのは、アイリスの姉と言っても過言ではない程仲のよいさくらである。
手に洗濯物を入れる籠を持っているところをみると、どうやら中庭でそれを干していたらしい。

「ああ、さくら。アイリス見かけなかった?」

マリアはその声に振り返ると、そう彼女に助けを求める。
普段一緒に居ることの多い彼女なら、確かにどこかで見かけているかもしれない。
だが、そんな期待に反してさくらは首を横に振った。

「アイリス……いえ、見てませんけど」
「そう、困ったわねぇ……。さっき夜更かししたことを叱ったら拗ねちゃって、呼んでも出て来てくれないのよ。
稽古の時間も迫ってるっていうのに」

マリアは心底困っているという顔で、腕に巻かれた時計を見る。
それまでまだ1時間以上残っているものの、このまま見つからない可能性がないとも言えない。

先程マリアは、確かにアイリスを普段より少々強い口調で叱った。
発足当初ほど我儘を言わなくなった彼女をマリアが叱ることはもう殆ど無くなっていたため、久しぶりに
強く言われて驚いたのだろうか。
彼女にひどく反発したアイリスは、そのまま部屋を飛び出してそれっきり姿を見せようとはしない。

「そう、ですか。アイリスどこ行っちゃったのかしら……? あたしも一緒に探します」

酷く困った様子のマリアを見かねたのか、さくらは暫く考えた後に言う。
広い劇場にそれぞれが散ってしまっていたせいでずっと一人で捜す羽目になっていたマリアにとって、
彼女は大きな助けとなるだろう。

「ありがとう。じゃあ二階をお願いしてもいいかしら? 1階は私が粗方探したから」
「はい!」

さくらにそう指示を出し、マリアはすぐに劇場の奥へ。
彼女はそのまま劇場の地下へと捜索の手を広げるらしい。

マリアは少女を見つけ出す為早足で廊下を駆け抜け、やがて支配人室の前を通りすぎる。
すると、まるでそれを待っていたかのように、微かに開いていたその部屋の扉がゆっくりと静かに閉じられた。
 
 
*    *    * 


「アイリス、もう誰も居ないわよ」

ドアを閉めるたかえではそう言って部屋の中を振り返るが、彼女の視界に人影は無い。

「本当?」

しかし彼女以外誰も居ない筈の部屋の中に、そんな甲高い少女の声が響く。
同時にかえではふっと息を吐いてドアの傍から離れると、ゆっくりと部屋の奥に据えられた机へと近づいた。

やがて彼女はその立派な机の後ろに回ると、軽く椅子を引いてその下を覗き込む。

「ええ。マリアもさくらも、あなたを探しに行ってしまったわ。本当にいいの?」

そう言って苦笑を浮かべた彼女の視線の先には、身体を小さく丸めたアイリスがうずくまっていた。

「だって、アイリス悪くないもん。マリアが意地悪言ってるだけだもん」

かえでの問いかけにそう反論した彼女は、頭をぶつけないように四つん這いになって机から這い出すと、
立ち上がり膝と手をパタパタと払う。
その表情が憮然としたものであるところを見ると、彼女は相当マリアに対しご立腹であるらしい。

「あら、それはいけないわね。ねえアイリス、意地悪って何を言われたの?」

そんな彼女の視線の高さに合わせて屈んだかえでは、柔らかい笑みを浮かべてそう問いかける。
するとアイリスはよくぞ聞いてくれたとばかりに、身振り手振りを交えて大袈裟にこれまでの一部始終を
話し始めた。

「アイリス、昨日晩御飯を食べてからずーっと、次の舞台のお勉強をしてたんだよ。図書館の椅子に座って
ずーっと!そしたらさっき、マリアが夜更かしするな! ってアイリスに怒ったの。アイリスは遊んでたんじゃ
なくって、お勉強してただけなのに!」

語り終えた後もまだ怒りが収まらないのか、アイリスは腕を組んで憮然とした表情を浮かべたまま。

「そうなの。じゃあ、アイリスは何時のお部屋に戻ったのかしら。マリアが怒るくらい夜遅く?」

そんな彼女に、再びかえではそう問いかける。その表情は先程と変わらず、穏やかな笑みを浮かべていた。

「お部屋に? えーっと、えーっとね……あれ?」

相手の問いに反応したアイリスはすぐに口を開いたものの、その答えはなかなか出てこない。
暫く曖昧な言葉を発していた彼女は、やがて首を傾げたままで沈黙する。そして、

「アイリス、覚えて無いみたい……」

微かに頬を染めたアイリスは、そう言って恥ずかしそうな微笑みを浮かべた。

「じゃあ、今日アイリスは目が覚めたら……どこに居たの?」

かえではそんな彼女の髪を撫で、今度はそんな質問を相手に投げ掛ける。
すると今度は考え込むこともなく、反射的にアイリスは口を開いた。

「アイリスのお部屋だよ」
「あら、不思議ね。アイリスは図書館に居たのに、どうやって部屋に戻ったのかしら?」

一瞬たけ嘲るように目を丸くしたかえでにつられ、アイリスも同じように目を見開く。
しかしすぐに表情を笑顔に変えたかえでとは違い、彼女はなかなかその驚いたような表情を手放すことが
できない。

「えっ、うーんと……」

必死に問いの答えを探しているのか、アイリスはその目をくるくると動かす。
そんな表情にかえでは思わず吹き出してしまいそうになったものの、それではまた彼女がヘソを曲げてしまうと
必死に自らの感情を抑えた。

「教えて欲しい?」

やっと自身の感情が落ち着いたところで、かえではアイリスにそう問いかける。

「えっ……うん」

一瞬だけ不思議そうな表情を見せたものの、アイリスはこくりと頷いた。
自分にも分からない自分自身のことを、質問した本人であるかえでが知っているというのだ。彼女が戸惑うのも
無理はない。

かえではそんな彼女を柔らかい微笑みを浮かべて見つめたまま、ゆっくりと口を開いた。

「昨日ね。夜遅くに私がお風呂から出たら、マリアがあなたを抱いて図書館から出て来たの。この季節の夜は
とても冷えるから、風邪をひかないか心配だって言って」

彼女の口から出てきた名前に、アイリスはぴくりと反応する。
しかしかえではそれを知りながらも、その言葉止めることは無かった。

昨晩の状況を思い浮かべながら、かえではゆっくりとした口調で話す。
その時のマリアの表情、髪を撫でたその手の柔らかい手つき、まるで親子のような二人の雰囲気……
その全てを、少女が思い浮かべることができるように。

「それであなたを部屋のベッドに寝かせて、暫くの間ずっとあなたの髪を撫でていたわ。ようやく出て来たと思ったら、あの子私に何て言ったと思う?」

そう相手に問いかけたかえでが顔を上げると、その瞳にまたアイリスの顔が映る。

目にうっすらと涙を浮かべた彼女は、歯を食いしばったままでふるふると首を横に振った。

「あなたが風邪をひいたら、ちゃんと見ていなかった自分の責任です……って、マリアは私に謝ってきたのよ。
彼女は本当に責任感が強くて、仲間想いのいい子だわ」

かえでがそこまで言い終えると同時に、アイリスの腕が彼女の首に廻される。
膝を折りしゃがんだかえでは少女をしっかりと抱き止めると、その背中を柔らかく擦った。

「一緒に、謝りに行きましょうか」

そのブロンドの髪を撫でながら呟いたかえでの言葉に、アイリスは深々と頷いたのだった。
 

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母親って結構キツイ立場だと思うのですよ。
叱らなきゃいけないから叱るけど、そのせいで子供には「きらーい」って言われる。

来年の母の日はマリアさんを労わる回にするかな……。
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