09:00 かえでと織姫 テラスにて
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まだ朝も早い時間である大帝国劇場。
近々公演を控えているとは言うものの、休演日であることは代わり無く関係者以外の人影はない。
「かえでさーん! どこに居るですかー!」
そんな静かな時が流れていた劇場内に、突如テラスの辺りから大きな叫び声が響く。
羽を休めていた鳥たちがそれに驚き一斉に飛び立ったのだが、声の主である織姫はそれを気にすることなく
もう一度大きな声を上げた。
「隠れてないで出て来てくださーい! あなたは包囲されてるんでーす!」
どうやら彼女は副支配人であるかえでを探しているらしいのだが、如何せんこれでは騒がしすぎる。
しかし当の本人は人捜しで頭が一杯のようで、三度目の正直とばかりにまた大きく息を吸い込んだ。
そうしてまた彼女が世界トップクラスの女優たる声量を遺憾なく発揮しようとした時、背後から一対の手が
その口に伸びてくる。
それは開きかけた彼女の口を強引に鬱ぎ、その姿をテラスから建物の中へと引きずり込んだ。
「ちょいと織姫さん! 朝っぱらからバカみたいに大きな声を出さないでくださいまし!」
テラスへ向かう扉を閉めるのと同時に、騒音の元凶を連れ戻したすみれはもごもごと不平を漏らす織姫の口を
ようやく解放する。
だが彼女が相手に向かって放つ刺々しい言葉の音量もまた、最大であることはいうまでもない。
「ちょっと何するですかー!」
そして突然口を塞がれた織姫もまた先程と同じくらいの音量で叫び、劇場の中は一瞬にして賑やかになる。
しかしそんな二人の騒がしいやりとりは日常茶飯事であるため、わざわざ口を出すような人間など
居ないに違いない。
「まぁぁったく、あなたは着替えもせずに朝っぱらから騒がしいのですから。少しはわたくしを見習って静かに
優雅な朝のひとときを……」
ふんっと鼻を鳴らしたすみれは、腕を組んでそう織姫に向かってくどくどと言い放つ。
そんな彼女の言葉通り、織姫は未だネグリジェのまま。
対する彼女は、普段の紫色の振袖ではなく動きやすさを重視した稽古着である。
朝食を摂り暫くしたら、もうすぐに稽古の時間。すみれはまだ少し時間はあるものの、既に余裕をもって
その準備を整えていたのである。
そんなすみれの言葉を織姫は殆ど聞いていないのか、ふと彼女は相手の言葉の途中で唐突にポンと
手を叩いた。
「すみれさん、かえでさん知りませんかー?」
不意を突かれきょとんとしたすみれに、織姫はそう問いかける。
当然それは今の話題には全く関係があるものではなく、すみれはわなわなと震えながら額に手を当てた。
「……全く、人の話を聞かない小娘ですわね。大体さくらさんといいあなたといい……」
「何一人でぶつぶつ言ってるですかー? かえでさんですよかえでさん」
下を向いてしまったすみれの顔を覗き込み、織姫はしつこく問いかける。
やがて堪忍袋の尾の耐久性が誰よりも弱い彼女が、相手の態度にそれを破壊するまでそれほど時間は
かからなかった。
「しつこいですわねかえでさんかえでさんと! かえでさんならもうとっくの昔にお仕事を始められたのでは
ないんですの? こんな時間まで寝間着を着ている貴女と違って!」
怒りを爆発させたすみれはその声に思わず目を閉じた織姫の顔に、ずいっと自らの顔を近づける。
美しい容姿も相まってそんな彼女の迫力には凄まじいものがあるのだが、それに動じるような織姫ではない。
「だってかえでさんが居ないからいけないんでーす。さっさと出て来てくれたらワタシだってとっくに
着替えてましたよ」
恐れを自らの力に替える術が誰よりも長けているのか、彼女はすみれの声に負けず劣らず大きな声でこう
反論する。まさか自らの勢いを返されるとは考えていなかったのか、逆にすみれは驚いたように目を見開くと、
彼女から視線を外しこう吐き捨てた。
「ふんっ、どうだか」
勢いを喰われてしまったすみれにとってこれは最後の抵抗のようなものだったのだが、対する織姫は
不満そうに頬を膨らませる。
「むー! 相変わらず意地悪な人ですねー、嫌んなっちゃう。」
そう呟いた織姫は、暫くすみれと無言で睨み合っていた。しかし唐突に何かを思い出したかのような表情を
浮かべたかと思えば、ポンと再び手を叩き相手から視線を逸らす。
「……あ、でもすみれさんよりかえでさんでーす! かーえーでさーん!」
「い……ちょ、ちょいと話は終わっておりませんことよ!」
臨戦態勢であったすみれは再び不意を突かれ、駆け足でその場を去っていく相手に向かってそう叫んだ。
しかしそれが気まぐれな相手に届く筈もなく、彼女の声は反射的に伸ばされたその手と同様、
虚しく空を切ることとなったのである。
* * *
「かえでさーん!」
ノックも無しに支配人室を開けられ、反射的に顔を上げた大神は驚いた表情で相手を見つめた。
そこには未だ寝間着のままの、まだ少女の面影を持つ隊員の姿。
「おや、織姫くん。どうしたんだい?」
非礼を叱ることもなく声を掛けた彼であったのだが、対する相手は何故か落胆したような表情を浮かべ
ため息を吐いた。
「なぁんだ、中尉さんですか。何でも無いでーす。チャオ!」
「え……」
早口で紡がれたその言葉が消えてしまうよりも早く、唐突に開かれたドアはまた唐突に閉められる。
こうしてそこに残されたのは、あっけに取られた顔の大神のみとなった。
しかしもう開かれることも無いと思われていたそのドアは、無意識のうちに伸ばされた大神の手が再び
下ろされるよりも早く再び開け放たれる。
当然、顔を出したのはまた織姫。
「あ、中尉さんかえでさん知りませんかー?」
「か、かえでさんかい? さっき資料を取りに行くと言って図書館に……」
「もう、知ってるなら早く教えるでーす! あんまり意地悪言うとすみれさんみたいになっちゃいますよ!」
動揺しながらも律儀に彼女の問いに答えた大神であったのだが、何故か相手は不機嫌な顔になる。
そして彼に向かって舌を出すと同時に、彼女は勢いよくまたドアを閉めた。
再び、大神はひとりその場に残される。
当然理不尽であるとは思いながらも、彼の中はそれ以上に多くの疑問で一杯になっていた。
「え、す、すみれくんって……一体何なんだ?」
そんな大神の言葉に返事をしてくれる者はおらず、その言葉は静かな部屋に空しく沈んでしまったのである。
* * *
「かーえーでーさーん!」
普段は静かな図書館に響く場違いな声に、書棚の前で分厚い本を開けていたマリアは顔を上げる。
そして彼女は本を持ったまま入口の方へ顔を覗かせると、そこには未だ寝間着のままの織姫の姿があった。
「織姫、あなたまだ着替えてなかったの!?」
有無を言わせない強い口調のマリアの言葉に逆らえるものはなく、怖いもの知らずの織姫もまたビクリと
背中を凍らせた。その姿は、さながら悪戯が母親に見つかった幼い子供のようである。
「う……マ、マリアさーん……」
「何時から稽古が始まると思っているの? 早く稽古着に着替えてらっしゃい」
マリアは手にした本を閉じ、怯えた表情の織姫の方へと近づいてゆく。
元来の真面目な性格と副隊長という役目。そんな彼女が、稽古の時間が迫るこの時間になっても未だ
寝間着である織姫を見過ごす訳にはいかないのである。
こうして織姫に強い口調で指示を出したマリアであったが、普段ならば素直に従う相手がなかなか
動こうとしない。
その代わり、彼女は両手の手の平をマリアの方へと向けてこう懇願したのだった。
「あー……ちょっち待つでーす。かえでさんを探したら、ちゃんと着替えますから!」
その言葉の最後には、まるでマリアを拝み倒すように手を合わせ織姫は言う。
そんな必死な彼女の様子に、マリアはふっとため息を吐いてその表情を少しだけ柔らかくした。
いくら厳しい副隊長とはいえ、まるで妹のような年下の隊員にはつい甘くなってしまうのである。
「全く……かえでさんならついさっき廊下で見かけたけど、さくらに呼ばれて中庭に行ってしまったわよ。
何でも洗濯物がどうとか……」
彼女は暫くの間の後、織姫の探し求める人物についての情報を相手に伝えた。
それはまだマリアが此処を訪れる前のことで、現在のかえでがそこに居るとは限らないのだが。
「中庭ですか!ありがとで~す!」
しかし織姫はそんな曖昧な情報ですら嬉しかったのか、先程までの怯えたものからすぐに明るい笑顔へと
表情を変える。そしてマリアの言葉が終わるよりも早く、踵を返し部屋を飛び出した。
マリアは慌てて図書館から顔を出したものの、既に織姫の背中は遥か彼方。
「織姫! 早く着替えるのよー!」
マリアの再度の忠告はどうにかその耳に届いたらしく、織姫はそちらを振り返り笑顔で勢いよく手を振って
答える。
そして彼女はこう言い残し、階段の方へと消えていったのだった。
「大丈夫でーす! ドロ船に乗ったつもりで待っててくださーい!」
織姫から返されたその言葉に、マリアはある一抹の不安を覚える。
彼女は寝間着のままの少女が消えた方を見つめ、やがてため息混じりにこう呟いた。
「ドロ船って、それじゃ沈んじゃうわよ……」
* * *
日差しも徐々に高くなり、爽やかな秋の日差しが降り注ぐ劇場の中庭。
そこには幾重にもロープが張り巡らされ、一面が真っ白いシーツに覆われていた。
「さっくらさーん!」
丁度その中央に立ち、額に流れる汗を脱ぐていたさくらは、自らの名を呼ぶ声にはっと顔を上げる。
そして彼女が辺りをきょろきょろと見渡すと、干されたシーツの間からぴょこんと織姫が顔を出した。
「あれ、織姫さんその服……」
未だ寝間着姿の彼女を見たさくらは目を丸くし、思わずその姿に人差し指を向ける。
だが相手はそんなことなど気にも留めずに、さくらの言葉を遮って口を開いた。
「そんなことよりかえでさんでーす! どこに隠したですか!」
「えっ、どこにって……?」
ずずいっと自らの方へと迫る織姫に、驚いたさくらは思わず一歩後ずさる。
更に相手が距離を詰めようとすればもう一歩、更に二歩進めばもう二歩……。
だが不幸なことに、彼女の後ろに広がっている空間は無限ではない。
やがて彼女の背中のすぐ後ろには先程苦労して干したシーツが迫り、ついにさくらは追い詰められた
形になる。
「織姫、さくらはかえでさんを隠してなんかいないよ」
万事休すと思われたさくらに、ふと意外なところから救いの手が差し伸べられた。
その声がした方にさくらと織姫が視線を向ければ、そこには白い犬を従えたレニが、無表情で彼女達を
見つめていた。
「あ、レニ。そう言えばレニも今まで何してたですか」
昔馴染みの仲間に気を取られた織姫は、眼前まで迫っていたさくらの元から離れ、レニのすぐ傍に駆け寄る。突然の危機から脱することができたさくらは胸に手を当てると、ふぅっと安堵のため息を漏らした。
「フントの訓練」
そんなさくらの様子を気に留めることもなく、レニは抑揚の全くない一定のトーンで織姫の問いに答える。
彼女に名前を呼ばれたその白い犬は、わんっとひとつ嬉しそうに鳴いた。
だが何故か織姫は彼女の言葉にすぐには反応せず、何かを考えるように首を傾げたまま暫く沈黙する。
やがて何かを閃いたのか、ポンっと両手を叩いた。
「ああ、アルタイルの」
「フント」
嬉しそうに織姫が口を開いたのと同時に、レニが彼女の言葉を遮るように呟く。
すると再び白い犬は鳴き、そして憮然とした顔でレ二を見つめた織姫が甲高い声で叫んだ。
「アールーターイールー!」
「あ……えーっと……」
お互いに無言でにらみ合う二人を無視するわけにもいかず、さくらはおろおろしながらそれぞれを交互に
見つめる。そしてそんな三人のすぐ側で、また白い犬がわんと鳴いた。
この劇場に住むようになって数年。子犬であった頃に比べればかなり成長した、帝劇の看板犬。
しかし未だに、彼に決まった名前はない。あの命名争いの後もメンバーは自らの付けた名前を一歩も譲らず、
結局今日までそれぞれが好きなように彼の名を呼んでいる。
こうして八通りの名で呼ばれる彼であったが、メンバーの呼びかけに反応しなかったことはないため、
犬としてはかなり賢い部類であるのかもしれない。
「それで、かえでさんに何の用なの?」
これ以上睨み合っていても時間の無駄だとでも考えたのか、レニがため息を吐いてその沈黙を破る。
だが当の織姫はどうやら自らの目的をすっかり忘れていたようで、彼女はレニの言葉に一瞬だけ目を
ぱちくりと瞬かせた。
「あ、そうだかえでさんでーす! かえでさん何処ですか!」
「あ、あたしはさっきここで別れてからは……」
やがて目的を思い出したらしい織姫は、再びさくらにそう迫る。
だが彼女は確かに先程までかえでとシーツを干していたものの、その言葉の通り別れてからの彼女の
消息は分からない。
「サロン」
そんなさくらの言葉を遮ったのは、織姫ではなくレニであった。
「え?」
「サロンで見た」
唐突な言葉に目を見開いた織姫に、レニはもう一度ゆっくりとした口調で答える。
すると織姫の表情はみるみる変わっていき、やがて苦虫を噛み潰したかのような不機嫌なものとなった。
「あ~! さっきまで居たのに、結局無駄足だったですかー! もうッ!」
「織姫はもう少し考えて行動した方がいい」
そう言って地団駄を踏みはじめた織姫に、レニはそうぴしゃりといい放つ。
たとえ思っていたとしてもとても織姫には言える筈もないさくらは、そんなことを平気で口に出せるレニを
羨ましく思った。
「ちゃんと考えてまーす!」
レニの言葉に織姫はそう反論すると、その言葉が終わるや否や再び劇場の方へと駆け出してゆく。
「さくら、フントをお願い」
すると唐突にそうさくらにそう言ったレニが、さくらの返事を待つこと無く彼女を追いかけて走り出す。
白い犬はきちんと飼い主の言葉を理解したのかその後を追いかけることはせず、その顔はさくらを
じっと見上げている。
「……一体、何だったのかしら?」
さくらはその背中を見つめそう呟くと、利口な飼い主の頭を柔らかく撫でたのだった。
* * *
先程と変わらぬ朝の柔らかい光が差し込む、大帝国劇場二階のサロン。
その椅子に腰掛け次回公演の台本に目を通しているのは、主役を勤めることとなったすみれ。
そして彼女の正面にある椅子には、もう一つの人影が。
「いた―――ぁむぐぐ」
そんな静かな空間に突如現れた騒音の元凶は、彼女のすぐ後から現れた仲間によってその口を塞がれた。
「うるさい」
もごもごと不満を漏らす織姫の耳元で、レニは無表情のままで呟く。
普段通りの無機質な彼女の声は、心なしか少しだけ低いようにすみれには思えた。
「あら、おかえりなさいませ」
二人の来訪に視線を台本から外したすみれは、ゆっくりとした口調でそう語りかける。
その表情に、先程までの怒りは見当たらない。
「もう、何するですか!」
レニの手がようやく自らの口を離れたのと同時に、織姫は憮然とした表情で相手にそう訴える。
するとレニは唇に人差し指を当て、シ~っと音が響くように息を漏らした。
静かにしろという彼女のポーズに、織姫は渋々その口をつぐむ。
「せっかく眠ってるんだから、起こしちゃ駄目だよ」
やがてレニは小さな声で囁くと、その視線をすみれの目の前に座る人影へと向ける。
彼女の視線の先では、かえでが椅子に深く腰掛けぐっすりと眠っていた。
「レニの言う通りですわ。全くあなたは本当に騒がしいのですから。たまにはわたくしを見習って大人しく
していらっしゃいな」
むくれたままの織姫に向かい、すみれはやけに上機嫌な様子でそう言い放つ。やがて彼女は片方の手を
腰に当て、もう片方をその口元へ。
「……」
そして今まさにすみれが十八番である高笑いを披露しようとしたまさにその時、レニが彼女口元に
添えられた方の腕を強く引いた。
「な、何ですの」
気持ちよく笑おうとしたところを止められ、すみれは身体を傾けたままでレニをぎっと睨み付ける。
「いまは駄目」
レニはそんな彼女に全く動じる事なく、無表情のままそうきっぱりと言い放った。
そんな二人のやりとりを他所に、織姫はひとり眠っているかえでの方へと近づくと、その顔を下から
じっと覗き込む。彼女はそのままその寝顔を見つめていたのだが、ふとその両手がかえでの頬に触れた。
すると織姫は、にやりと含みのある笑みを浮かべる。
そして自らの手で触れているかえでの頬をさらりと撫でると、その柔らかい本を軽く摘まんだ。
「う……う~ん……」
安らかな眠りを妨げられたかえではそう呻き声を上げると、その手を振り払うようにして器用に寝返りをうつ。
そんな彼女の様子が可笑しかったのか、織姫は込み上げてくる笑いを必死で堪えていた。
「織姫、それで用事は何だったの?」
そうして彼女が再びかえでの頬に触れようとした時、やっとすみれの腕を解放したレニがふと彼女に
問いかける。
「えっ……」
その言葉に織姫はきょとんとした表情を浮かべた後、その人差し指を口元に当てる。
どうやら彼女は質問の答えを考えているらしい。
「……貴女、まさかあれだけ騒いでおいて忘れたなんて仰るんじゃ……」
やがて腕を組んで本格的に考え始めた織姫に、今度はすみれが震える声で呟く。
一方レニは驚愕の表情を浮かべる彼女とは対照的に、どこか冷めた目で付き合いの長い仲間を
見つめていた。
それぞれの視線を一心に集めた織姫が、暫くの沈黙の後に閉じていた瞼を開ける。
彼女は組んでいた腕をほどいて二人を見つめると、その顔ににっこりと満面の笑みを浮かべた。
そしてゆっくりと、彼女の口が開かれる。
「忘れちゃいました」
そんなあまりにも呆気ない告白の後、織姫はぺろりと舌を出す。
「全く、貴女という人は……!」
そうおどけて見せた彼女をレニは表情を変えること無く無言で見つめ、すみれは頭を抱えてそう吐き捨てた。
彼女が戸惑いの表情を見せた際に何となく予測していたものの、朝から彼女の騒動に振り回された
後者の落胆は特に大きい。
「あー、それにしてもつっかれたでーす。こう言う時は、シエスタするに限りますね」
だがそんなすみれの思いを知る筈もなく、織姫は自らの肩に手を当てながらそう言うと、手近にあった
ソファーにどっかりとへたりこむ。
そしてすぐにごろりと寝転がると、その言葉の通り眠ろうというのか、ぴったりと瞼を閉じた。
「ちょ、ちょいと織姫さん! 貴女何時から稽古が始まると……」
今後の予定を案じたすみれはすぐに椅子から立ち上がると、寝転がった織姫の肩を掴んでガタガタと揺らす。その衝撃に織姫は嫌々ながらも瞼を開けたのだが、こう言ってまたすぐにまたそれを閉じてしまった。
「大丈夫でーす。レニが起こしてくれま……」
「嫌だ」
織姫の言葉に、レニは冷たく言い放つ。
「そんなこと……いわ、ずに……お……」
連れない彼女の返事に織姫はもごもごと何かを言っていたのだが、やがてそれは安らかな寝息へと
変わった。
「……寝ましたわね」
心底呆れたような視線ですみれがそう呟くと、レニは何も言わずにこくりと頷く。
そしてすみれが壁に掛けられた時計を見上げれば、その針は稽古の開始三十分前を指し示していた。
やがて熟睡した織姫が、マリアにこっぴどく叱られたことは言うまでもない。
そして転寝をしてしまったかえでは、彼女を叩き起こしにきたマリアの声により二度目の目覚めの朝を迎えることとなったのである。
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姫を幼く書きすぎる病発症中!
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