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03:00 かえでとレニ 遊戯室にて




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草木も眠る丑三つ時、そんな真夜中の時間を少しだけ過ぎた頃。

殆どの人間が寝静まり、ぼんやりとした灯りだけ辺りを照らす劇場の廊下を、ひとつの影がそろそろと
足早に走り抜けてゆく。

やがてそれは二階のある部屋の前で止まると、開けっ放しのそのドアをゆっくりと開けた。

ぎぎぃ……という音が廊下に響き影は一瞬固まったものの、辺りを見回し人気が無かったことを確認すると、
その身を部屋の内部へと滑り込ませた。

そして影は灯りも点けずに、自らの視力だけで部屋の中を歩き回る。
中央にある大きなビリヤード台や、壁際にあるチェス盤を通り抜けて部屋の奥へ。
そこにある棚の前に立ち影は幾つかあるうちのひとつの扉を開けると、手に持っていた小さな箱を
その中に入れた。

それと同時に、部屋が突然明るくなる。
当然灯りのスイッチを押した訳ではないその影は、その銀盤を煌めかせながらドアの方を振り返った。

「レニ?」

名前を呼ばれた彼女は、びくりと肩を震わせながらも落ち着いて先程開けた扉を閉める。

「かえでさん……」

そして入ってきた人物の名を呟くと、何かを入れたその扉を塞ぐようにして立ち上がった。

「レニ~? 今何を隠したの?」

にっこりと微笑んだかえでが、そんな事を言いながらレニの方へと近づいてくる。
しかしよりによって彼女にその答えを教える訳にはいかず、少女はすぐに視線を外してそっけなくこう答える
しかなかった。

「……別に」
「じゃあ、その扉を開けてもいい?」

彼女の目の前まで近づいたかえでが、微笑みを崩さずにまた問いかける。
レニが暫く無言のままで立ち尽くしていると、彼女の手がゆっくりと扉の方へと近づいた。

「だめ」

すぐにそれを振り払い、レニは初めて間近でかえでを見る。
すると焦りながらも無表情を保っていた彼女が、ふと一瞬驚いたような表情を見せた。

「レニぃ~?」

手を振り払われたかえでは、すぐに引っ込めた手で今度はレニの髪を撫でる。
彼女は一瞬だけ目を強く閉じたものの、再び瞼を上げると今度は瞳を反らさずに真っ直ぐかえでの目を
見つめた。

「今は、駄目。後からちゃんと話すから……。それより」

レニは少しだけ間をおき、自らの鼓動を抑える為に深呼吸をする。
そしてもう一度かえでの方を見て、漸くその言葉を口にした。

「かえでさん、泣いていたの?」

質問に驚いたのは、今度はかえでの方である。
彼女は一瞬だけ目を見開き、まるで何か言い訳を探すように少しだけ頭を掻いた。

「……どうして、そんな事を聞くの?」

逸らせた視線を再びレニの方へと戻し、かえではそう問いかける。

「少しだけ、目が赤い。アイリスが泣いた後と同じ」

彼女が表情を変えないままで淡々と答えると、フッとかえでは笑みを浮かべる。
レニにはその表情がどこか悲しそうに見え、その手をすっと相手の頬へと伸ばした。


しかし、それよりも一瞬早くかえではレニに背を向ける。

「そう……やっぱり、私は隠し事が下手ね」

レニの手が虚しく空を切ったのと同時に、かえではそう言いながら彼女から少しだけ距離をとった。


隠し事が下手なくせに、それでも彼女は自らの感情を隠そうとする。
そんなところはレニが彼女に出会った時から変わらない。

過去の彼女であれば気にも留めなかっただろう。
しかし人の想いを知り愛することを知った今の彼女には、まるで母親や姉のような人物であるかえでを
放っておくことなどできない。

「そんな顔しないで、私は大丈夫だから」

レニから少し離れたところでくるりとまた向き直ったかえでは、沸き上がる感情のせいで自然と表情を曇らせた
彼女に向かって微笑む。
しかしその距離をまた縮めようとしないのは、やはり自らの感情を知られたくないためなのか。

「でも……」

立ち上がったレニは必死に何か口にだそうとするものの、そんな経験が極端に少ない為言葉がなかなか
出てこない。

「ほら、早く寝なさい? まだ起きるには早すぎるわ」

「……うん」

そうこうしているうちに再びかえではレニに背を向ける。
正論であるその言葉に、彼女はただ頷くしか無かった。

レニは、必死に言葉を探す。

自分が落ち込んだ時、上手く感情を現せなかった時、あるいはその感情すらも分からなかった時……
彼女は、そして花組の仲間は自分に何をしてくれたか。
それによって、自分がどんな感情を覚えたのか。どれだけ、自身が救われたのか……。

俯いていたレニは、やがてゆっくりと顔を上げる。
そして部屋を出る寸前のかえでを追いかけ、その手を両手でぎゅっと握った。

「ボク……かえでさんの部屋で、寝てもいい?」

反射的にそちらを向いたかえでを見上げ、レニはおずおずと問いかける。

「えっ」
「駄目……?」

目を見開いたかえでに不安を覚え、彼女は少しだけ表情を曇らせ首を傾げた。

悲しい時、淋しい時、不安でたまらない時……人は一人で居るとその気持ちが余計に強くなる。
過去のレニはそんな時、確かにそれが大きくなっていったことを感じていたものの、それが何かすら
分からなかった。

だがそんな時はいつもかえでが、こちらに来てからは仲間が居た。
すると自らの中で大きくなっていった負の感情は、ゆっくりと溶けていったことを覚えている。

それは、きっと誰でも同じ筈。だから涙を流す程の感情を抱いているかえでの傍で、少しでも自分が力に
なることができれば……。

レニは、かえでの手を握る力を少しだけ強くした。


すると、彼女をじっと見つめていた相手の表情かほんの少しだけ変化する。
レニは相手の気持ちを読み取る力など持ってない為、彼女がそう感じただけなのかもしれないのだが。

「そんな事無いわ。少し散らかってるけど、そんなところでいいなら……」

心なしか柔らかくなった微笑みを浮かべ、かえではそうレニに答える。

「問題無い」

言葉は無機質なものであったのだが、そう呟いたレニの表情は優しい笑みが浮かんでいた。

 
 
「一人には、しないから。ボクが……」

二人が眠るには少しだけ狭いベッドの上。

お互いの体温を感じる程の距離で、レニは小さな声で呟く。

「何か言った?」
「ううん」

微笑んだかえでは彼女の頭を撫でて問いかけるものの、レニは同じように微笑んだままそう首を振るだけで
あった。
 

手渡す前に見つかってしまわないようにと、人気の無い部屋に隠したプレゼント。

そんな彼女の心には、決して相手に悟られないようにと、心に鍵を掛けた誓いがいつも眠っていた。
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