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終わりそうだよ、なんとかなったよ! でも改めて昨日の長すぎるよ!
……そんな感じで、ようやく終わりが見えて参りました。順調にいけば、あと1話で完結です。

さて皆様、なぜ敢えて私が2周年という区切りで敢えてこの長編を載せたのか、お分かりになりましたか?
相方様ですら分からなかったそうなので、ちょっぴり心配でございます(汗)

しかしながらネタばらしはまた明日。
拍手ももりもり頂いております。ありがとうございますッ!

それでは、注意事項の後からどうぞ~。

注意
・百合です
・今回はマリかえです。書いている本人も不安になって参りましたがマリかえです
・上記の通り、今日を含めずあと1話で完結。本日は6話でございます



+++++++++++++++

『私もあなたを探してる』

最後の一針を生地にくぐらせ、解れないようにぐっと力を入れて引っ張る。
そして糸を巻き付けた後結び目ができるように針を抜くと、先程と同じように力を入れて引く。
こうして出来上がった小さな結び目の傍で余った糸を切り離せば、一応の治療は終わり。

かえではその指で少しだけ強く患部を動かし、白い部分や糸の解れが無いことを確かめた。

「はい、これでどうかしら?」
 
自らの目で確認した彼女はそう言って微笑むと、手にしていた熊のぬいぐるみを持ち主である少女に手渡す。
その一連の作業を見守っていた彼女は、ぬいぐるみの耳の付け根とかえでの顔を交互に見つめた後、
嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとう、かえでお姉ちゃん。ジャンポールを治してくれて!」
「はい、どういたしまして」
 
常に行動を共にしているぬいぐるみを抱きしめたアイリスを見つめ、かえでは柔らかい口調で呟く。
すると少女は笑みを崩さないまま、彼女のすぐ隣にあるベッドに腰かけていたもう1人の少女の方を
振り返った。

「レニもありがとう、ジャンポールのこと心配してくれて」
 
彼女の横顔をまるで姉のように微笑ましく見守っていたレニは、唐突なアイリスの言葉に目を見開く。

「ううん、ボクは何もできなかったから……。よかったね、アイリス。」
「そんなことないよ。いつも治してくれるマリアが居なくて困ってたら、レニがお姉ちゃんを呼んできて
くれたんだもん。」
 
自らを謙遜するレニの言葉にアイリスは首を横に振ると、そんな事をいいながら彼女のすぐ隣に腰を下ろす。
そして彼女が嬉しそうな表情で見つめると、レニもまたそれにつられるようにしてにっこりと笑った。
 
そんな2人の様子を見ながら同じように微笑んだかえでは、机上の裁縫道具箱の蓋を閉める。
そして楽しそうに会話する二人に感づかれないよう、ほっと小さく安堵の溜息を吐いた。

取れかけたボタンの付け替えくらいなら普段から行っていたものの、ぬいぐるみの修繕まではそう頻繁に
やった経験は無い。
幼い頃母や姉に見てもらいながらやった事を必死に思いだして繕ったのだが、余計なところまで縫い合わせて
しまわないかと彼女は内心ヒヤヒヤしていたのである。

そして手にしたぬいぐるみを見てみれば、今回のように縫いつけたのであろ箇所が幾つかあった。
アイリスの言葉通りだとすれば、それはマリアによるものだろう。

本当に、お母さんね……かえでは小さな声で呟き、そして微笑んだ。

「それにしてもレニ、よく私が厨房に居るって分かったわね」
 
やがて裁縫道具を元あった場所へと戻すと、アイリスと話していたレニに声を掛ける。
彼女の言葉は尤もで、サロンで出会って以降その姿を見かけていないのだ。唐突に決まったケーキ作りの
事を、彼女は知る筈が無いのである。

「織姫とすみれの声が聞こえたから。あんまり長く続くようなら、ボクも手伝おうと思ってたんだけど……」
 
レニの思ってもみなかった言葉に、かえでは思わず目を見開いた。
どうやら孤立無援であるとばかり思われていた戦いには、身近なところから救いの手が差し伸べられようとして
いたらしい。

「厨房? かえでお姉ちゃん、何かお料理してたの。アイリスも呼んでくれればお手伝いしたのに」
 
レニの言葉に続いて、アイリスも口を開いた。
二人して見かけなかった為にどこかに出かけているのだとばかり思っていたのだが、助けを求める相手は
かえでが思っていたよりも沢山、その上身近に存在したようである。

「ふふっ、今度は是非お願いするわね」
 
そんなことを言いながらかえでは椅子から立ち上がると、二人の頭を優しく撫でる。
心なしか『是非』という単語に力が入っていたように思われるのだが、立て続けに彼女に起こった災難のことを
考えれば、もはや述べるまでも無い。

冷ます段階でレニに呼ばれてしまったが為に、かえでは二人に型から外す作業以降をすべて任せざるを
得なかった。果たしてあれほどの苦労をして出来上がったケーキは果たして無事に食堂へと運ばれたの
だろうか。
不安ではあるのだが、もう時間が経ってしまった以上、かえでにはどうすることもできない。 
 
そんな不安を頭の隅へと追い払うと、かえではその視線をレニの方へと向ける。
そしてきょとんとした表情の彼女の両腕を優しく掴むと、にっこりと微笑んだ。

「それと、レニには私もお礼を言わなきゃいけないわね」
 
かえでの言葉に、レニと、そして隣に座るアイリスは首を傾げる。
そんな不思議そうな彼女達に向かい、かえではゆっくりと口を開いた。

「毛布、掛けてくれたんでしょう?」
 
彼女の言葉に、レニの頬が少しだけ紅潮する。

かえでが目覚めた時に、その場には無かった筈の毛布が掛けられていた。
劇場内には、いくら休日といえど多くの人間が居た筈である。
しかし彼女は何故か、そんな優しい心遣いをしたのがレニであると予測していた。
 
そして現在の彼女の反応に、かえではそれを確信へと変えたのである。

「風邪を引いたらいけないから。お礼を言われるようなことじゃないよ……」
「それでも。ありがとう、レニ」
 
伏し目がちになるレニの髪を、かえではもう一度優しく撫でた。
思わずくすぐったそうに眼を閉じる彼女であったが、その口元には微かな笑みが浮かんでいる。

そんな彼女を見つめながら、かえではその隣に座るアイリスと共に優しく微笑んでいた。

「さ、2人とも一緒に食堂に行きましょうか。さっきケーキを焼いたから、早く行かないとカンナに全部
食べられちゃうわよ」
 
やがてかえではそんな事を言いながら、彼らの目の高さまで屈ませていた身体をゆっくりと起こす。
こちらに来る前に言伝を頼んでおいたものの、カンナの食欲では全部たいらげられてしまってもおかしくは
ない。

「あ、それは駄目! 早く行こう、レニ。かえでお姉ちゃんも!」
 
跳ねるようにベッドから立ち上がったアイリスが、レニの手を引いて他の二人を捲し立てる。
大好物が食べられてしまうということは、いくらカンナ程食欲が旺盛でない彼女であっても一大事であるらしい。

「はいはい、ちょっと待って……」
 
かえでは足早に先程まで座っていた椅子の方へと近づくと、掛けてあった上着を手に取る。
そしていざ食堂へと向かおうとした時、閉じられていた部屋の中にノックの固い音が響いた。

「おう、かえで。居るか?」
 
低い男性の声に、かえでは即座に反応する。
それが大神のものではないとすれば、該当する人物は劇場内にたった一人だ。

「はい、今開けます」
 
かえではすぐに上着を羽織ると、手だけで軽くをととのえた後部屋のドアをゆっくりと開ける。
そこには、大帝国劇場の支配人であり華撃団司令である米田が、いかにも楽しそうな笑みを浮かべて
立っていた。
 
上官である彼の突然の来訪にかえでは一瞬焦ったものの、この様子では緊迫したものでは無いらしい。
尤も、何かあれば警報が鳴り響くことは確実なので、かえでは軍服を取り出すことも無かったのだが。

「米田のおじちゃん、どうしたの?」
「ん? ちょっとかえでに用事だ」 

ずっかり元通りになったぬいぐるみを抱え、アイリスが首を傾げて問いかける。
その頭にぽんとかるく手を置くと、米田はそう言ってにっと彼女に向かって微笑んだ。

「何か、緊急事態ですか?」
 
大事では無いと分かっていながらも、かえでは万が一のことを考え米田にそう問いかける。
すると米田は軽く片手を振り、軽い口調で彼女の問いにこう答えた。
 
「いや、そうじゃねぇから固くなるなよ。これから、老舗の料亭に花小路伯爵達と行くんだが……どうだい、
おめぇさんも一杯」
 
上機嫌にかえでを誘う米田は、利き手を御猪口を持つ形に丸め、くいっと酒を飲むジェスチャーをする。
そんな上司を見つめ、かえでは苦笑いを浮かべた。
 
「あ~、おじちゃんまたお酒飲むの?」
「アルコールの過剰摂取は、身体によくない」
 
一方子供には米田の誘いは不評のようで、2人の口から次々と彼を非難する言葉が飛び出す。
有事の際は頼れる司令であるのだが、そうで無い時は単なる飲んだくれの軍人。
それは相手を油断させる為のひとつの策略だとかえでは分かってはいるのだが、さすがに司令室で頻繁に
酒を煽っていては批判が出るのも仕方が無い。

何より自分以外から発せられるアルコールの匂いは、あまりいい気持ちがするものではないのである。

「んな固ぇこと言うんじゃねぇよ。ちょぉっと、飲むだけじゃねぇか」
 
米田は御猪口を持っていた筈の手であくまでも少量であるということを示すが、二人の視線は冷たいままで
ある。

「信用に値しない」
 
その上、レニには続けてそう評されてしまった。
皆に親しまれる上官というのは素晴らしいのだが、こうなってしまっては面目も丸潰れである。

「何だよレニは冷てぇなぁ。んで、どうすんだ? 帰りはここまで送ってやるから、時間は心配する必要は
ねぇぞ?」
 
娘だとも思っている隊員達にここまで冷たい目で見られては、流石に居心地が悪いらしい。
米田は助けてくれと言わんばかりに、かえでを更なる甘い言葉で誘った。

「あ~、やっぱり夜遅くまでお酒飲むんだ」
「……」
 
当然、2人の視線はさらに冷たいものとなる。レニに至っては、説得すらも諦めてしまっているようだ。
 
そんな両者の間に立たされた形のかえでだったのだが、彼女は既に腹を決めていた。
 
確かに、彼女は酒豪である。さすがに勤務中に飲酒をすることはないのだが、プライベートでは幾らでも飲む。
悪酔いすることもしばしばあり、その度に皆に小言を言われる辺りは米田とあまり変わらない。
 
そんな彼女にとってこれは嬉しい誘いに違いない。だが、かえではそれを断るつもりでいた。
 
米田や伯爵と飲むことは、仕事上の付き合いのような堅苦しい雰囲気ではない為とても楽しい。
その上わざわざ上官である劇場に迎えに来てくれたのだから、行かなければ失礼に当たるだろう。
尤も、彼らはそのようなことを気にする人間では無いのだが。
 
しかし、今日だけは状況が違う。
彼女は何よりも、それこそ酒よりも大切な恋人に、未だ出会えていないのである。
早朝、午前中、昼間、午後、そして今……劇場の人間とは何度もすれ違っているのに、何故かたった1人の
恋人だけはその瞳に映してはいないのだ。

出張などで離れている訳でもなく、まして今日は休日である。
そんな日に、丸一日会話もできないのでは悲しすぎる。

「その、支配人、今回は申し訳ないんですが……」
 
いつか劇場に現れるであろう恋人の姿を思い浮かべ、かえではゆっくりと口を開いた。
 
だがそれと同時に、米田もまた小さな声でこう囁いたのである。

「……何でも、伯爵が幻の銘酒を手に入れたらしいぜ」
 
それは、見事な悪魔の言葉。
かえでの目が、期待と興奮で大きく見開かれる。
そんな彼女の言葉の続きは、既に遥か彼方であることは言うまでも無い。

「しかも地元にしか伝わってねえ秘蔵モノ、だとよ。今を逃しちゃ、今度いつありつけるか分からねえが……
どうする?」
 
米田はそう言ってニヤリと笑うと、かえでのほうをじっと見つめた。
 
今しかありつくことのできないかもしれない、幻と謳われる秘蔵の酒。

ごくり、とかえでは喉を鳴らす。

思えば、ここ最近は安価な酒しか飲んでいない。探す暇も無いのだが、それ以前に買いに行く暇すらも
なかった。いつか予定が合った時にでもとマリアとは話していたのだが、結局まだ実現には至らない。
いや、もし近々実現したとしても、果たして米田がこれほどまでに勧めるようなものと同等なそれを味わうことが
できるかどうか。

そうなると、かえでの台詞は必然的に決まるのである。

「……是非」
 
言葉と同時に、かえではにっこりと微笑んだ。
 

こうして彼女は心の中ではマリアに謝りながらも、軽い足取りで米田の後を追ったのだった。
年少のメンバー二人の、冷たい視線と深い溜息に見送られながら。


+++++++++++++++
うちのかえでさんの優先順位は、有事以外では基本的にお酒です。
さすがにただの宴会だったらマリアを取ったでしょうが、幻と言われては……酒好きの名が廃る!
そんなかえでさんが……大好きです(笑)

それでは、また明日~。多分終わる筈。うん、多分(遠い目)
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