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息切れし始めた当方ですこんばんは。
くそう、見切り発車した当時の自分を殴ってやりたい!

というわけで昨日の続きです。
まだまだ序盤、明日も明後日も続いてしまいます。

……ポケモソ、やりたいんだけどな。

そうそう、まだ序盤だというのに早速拍手を押して頂きありがとうございました。
どうぞ今後とも、生温かく見守って頂ければ幸いです。

ではでは、注意事項をご覧になった上で続きへとお進み下さいませ~。

注意
・いつものように百合です。
・でもって今回はマリかえです。
・これは序盤の序盤の序盤であることを、心に留めておいて下さい。



+++++++++++++++


『私もあなたを探してる』


ピンと張りつめた空気が、その部屋の中を支配していた。


かえでの視線の先には、見るからに頑固そうな老齢の脚本家。

だがその鋭い視線が見つめるのは、かえでではない。
彼女の隣で同じ人物に視線を送る、後輩の大神であった。
 
ふと、老人の口から小さく息が漏れる。
やがてその鋭い眼光を湛えていた瞼を閉じた作家は、深くゆっくりと頷いた。

「貴殿方の熱意には負けました。そちらの言う通りの筋書きに致しましょう」

年老いた作家のその言葉は、果てしなく続いた重苦しい空気を一瞬で打ち砕く。

それと同時に、かえでと大神は顔を見合わせて微笑み合うと、勢いよく立ち上がり頭を下げた。

「ありがとうございます!」
「ありがとうございます、先生」

それぞれの口から、心からの感謝を込めた言葉と共に。
 

 
「あら、もうこんな時間」

緊迫したやりとりから解放されて暫くの間、ずっと支配人室のソファーにへたりこんでいたかえでが、
ふと壁の時計を見上げ呟く。
二本の針が盤面の上で重なるまであと十数分。かえでが部屋を訪れたのが朝の9時過ぎであったことを
考えると、彼女が驚くのも無理はない。

「あっ……あっという間でしたね」

正面にあるソファーで同じようにへたりこんでいた大神が、彼女につられて口を開く。
かえで達上官だけでなく隊員や風組にまで『しっかりしなさい』言われてしまう彼の顔がいつにも増して威厳無く
緩んでいるところをみると、どうやらすっかり気が抜けてしまっているらしい。


まあ、それも仕方がない。
息が詰まるほどの上官からの視線を受ける軍法会議や、下心丸見えの視線を感じる接待の場をいくつも経験
しているかえででさえ、先程の作家から受けるプレッシャーに疲れ果てていたのだ。
経験が少ない後輩の彼は、なおのことそれを感じていたことだろう。

「ええ……本当に。でも、納得して頂けて良かったわ」

かえではそう言ってにっこりと微笑むと、大神も安堵したような表情で深く頷く。
そうしてかえでの方を真っ直ぐに見つめると、彼女にこう礼を述べた。

「本当に、ありがとうございました。俺の意見を推して頂いて」

大神の言葉、そして真剣なその視線に、かえでは先程のやりとりを思い出す。
 
原作では悲劇的な結末を迎える筈の、今回の演目。
だがその指揮をとる大神はそのラストを大幅にアレンジし、主役の二人に幸福な未来を与えようとした。
このような大胆なアレンジは初めてではなく、また観客からの評判も上々である。

しかし脚本家は、悲劇的な結末こそこのが原作の醍醐味であると主張した。
勿論それは間違いではなく、悲劇だからこそ素晴らしい物語も存在する。
正直な話、かえでもどちらかといえば、自分達よりもずっと経験のあるそちらの意見の側であった。


だが最終的に、彼女は脚本家の主張に押され気味であった大神の側につき、彼を助けたのだった。

確かに脚本家が言うように、原作通りの展開に落ち着いた方が安定した評価を得ることが出来るだろう。

それでも彼女が大神についたのは、その『熱意』に押されたから。

既に出来上がり、その上人気のあるものを敢えてぶち壊すようなことをしてしまえば、それが駄作となる
リスクは大きい。
ましてその道に詳しい脚本家までもが反対しているのだから、その可能性は高いことは明白である。

それでも、大神の言葉はそのリスクをものともしない『熱意』に満ち溢れていた。
彼は経験も浅く、知識も殆ど無い。
それでも、彼とそして花組の仲間達ならば、新たな道が開かれるかもしれない……そんな期待がかえでを
動かし、果ては脚本家をも動かしたのだろう。

劇場を出た老人の口元が微かに笑っていたことを、かえでは確かに見たのだから。

「あら、私は何もしてないわよ。殆ど大神くんが進めてくれたんじゃない」
「そんな……かえでさんが助けてくれなかったらどうなっていたか」

恐縮し頭をかく大神の方を見つめ、かえでは優しく微笑む。

どこか頼りない弟のように思っていた彼は、かえでの知らない間に頼りになる男に成長していたらしい。
それは彼女にとって嬉しくもあり、少しだけ寂しくもあり……悔しくもある。
最後の感情は彼女の性格とその立場から。しかし残りの感情は、年下の兄弟が居る姉の感情だろうか……
二人で姉妹の末っ子にとって、それは永遠の謎である。

「それでも。カッコよかったわよ、大神くん」

様々な感情を抱きながら微笑んでいたかえではそう言って立ち上がると、大神の額を人差し指で軽くつつく。

彼女の行為に照れたのか大神がほんのりと頬を染めたちょうどその時、部屋のドアが二回音を立てて
鳴らされた。

「はぁい、開いてるわよ」

顔を上げたかえでがそれに答えると同時に扉が開き、廊下から二人の少女が顔を出す。

「邪魔するで~」
「失礼します」

1人目の少女紅蘭は三つ網を軽く靡かせながら、2人目の少女さくらは深々と頭を下げるというそれぞれの
形で、二人は支配人室へと足を踏み入れた。

「あら、あなた達どうしたの?」

かえではそう問いかけながらも、二人の返答を予測していた。

彼女が帝劇を訪れる前からずっと信頼し合っていた隊長と隊員達。
普段から一歩下がって彼らを見守る自分よりも、大神は彼女逹にずっと近い位置に居るのだろう、と。

そろそろ昼食の時間である。
結局朝食を食べ損ねたかえでの腹の虫は周りの雰囲気に呑まれたらしく、今の今までずっと大人しかった。
しかしすっかり普段のそれに戻っている今となっては、いつ鳴き出してもおかしくはない。


彼女らの返事を聞く前にそこまで考えたかえでの手は、自然にその腹部の辺りを撫で始めていた。
 
これだけお腹が空いているのだから、すぐに空腹になってしまうパンよりも腹持ちのいいご飯が食べたい。
それなら、食堂ではなく外食にしようか。
こうも空腹では銀座のお高いお店では懐が辛い。
そう考えると浅草か、銀座の中でも安いレストランか食堂にでも……1人では気が引けるから、誰かを誘って。
誰か、誰を……?
 
――彼女は、もう食事を済ませてしまったのかしら?
 
目まぐるしく動いていたかえでの思考は、そこでぴたりと止まった。

それと同時に、大神の元へと向かうとばかり思われていた二人の視線は、その予想に反して真っ直ぐに
彼女の方へと向けられたのである。

「どうしたの? やありまへんで、かえではん」
「えっ、私?」

まさかの展開に、かえでは目を丸くして二人を見る。
彼女の問いに答えたのは、紅蘭のすぐ後ろに立つさくら。

「そうです。この間、一緒に浅草でご飯を食べようって話していたじゃないですか」

その言葉に、かえでは確かに彼女逹と約束したことを思い出した。
 
数日前、サロンで劇場の何人かと聞いていた蒸気ラジヲ。
そこで何軒かの店が紹介され、噂好きの由里がその中の幾つかの評判をかえで逹に教えてくれた。

その流れでいつか一緒に食事をしようと話してはいたのだが――

「それっ……て、今日だったかしら?」
「やっぱし忘れてはったんやな。ほら、ウチの言うたとおりやったやろ?」

やれやれといった表情で紅蘭がため息混じりに呟き、さくらの肩をぽんっと叩いた。

さくらの不安気な視線と、紅蘭の呆れたような視線がかえでを射抜く。

「わ、忘れて無いわよ……」
「そう言う割に驚いとったみたいやけどな」

苦し紛れに言いきったかえでであったが、やはり彼らの視線に耐えきれず視線を逸らせた。

そんな彼女に、紅蘭の厳しい突っ込みが突き刺さる。

「……分かった、今から支度してくるから少し待っててちょうだい」

暫くの沈黙の後、かえではついに降参し両手を挙げた。するとすぐさま紅蘭が、かえでに向ける視線を
キラキラしたものに切り替える。
彼女の口から出てきた言葉が、今度こそかえでの予測通りであったことは言うまでもない。

「おごってくれはる?」
「はいはい、了解」

かえでが片手を振りながらその『おねだり』を受け入れると、彼女はぱあっと満面の笑みを浮かべた。
そして目を丸くして立っているさくらの手を取り、彼女を巻き込んでくるくると回りだす。

「そ、そんな、申し訳ないですよ……」

困ったような様子でかえでを見上げるさくらに、かえでは思わず苦笑を洩らした。

さくらはそのような気は無かったのであろうが、話が持ち上がった時からずっとそうしようと彼女は考えて
いたのである。
何よりも可愛い妹逹に、たまには姉らしいことをしてやりたい、と。

「遠慮しないで。毎回は困るけどたまになら、あなたたちにご馳走するくらいの手持ちはあるわよ」

にっこりと微笑んだかえでの言葉にもさくらは恐縮していたが、すぐさま紅蘭が何事かを耳打ちすると、
やっとその顔に笑みが浮かぶ。

そんな二人の様子を微笑ましく、正に姉のように見守っていたかえでであったが、ふとこの場に居たもう1人の
人物を思い出し、ぽんと軽く手を叩いた。
 
「そうだ、大神くんも来る?」
「いいっ…!?

振り返り様にかえでがそちらに視線を向けると、何故かかえでの後ろに身を隠すようにして立っていた大神は
驚いたような声を上げる。

会話の流れからこのような展開になることを予測することは容易である筈。
しかしそれにしては、彼の反応は大袈裟すぎるものであった。

「さっき頑張ってくれたから、そのお礼と成長したお祝いに……どう?」

かえではそう不思議に思ったものの、敢えて深くは追求せずにそう切り出した。

昨晩から何も口にしていない彼女の身体が、いつそれを訴えてもおかしくはない。
人前で腹の虫が鳴き出す前に一刻も早く昼食を摂りたいというのが、所謂『乙女心』というものだろう。

「そ、それじゃあ……」

暫くの沈黙を経て、やっと大神は口を開く。

しかし彼の言葉は、意外な人物によって打ち消されることとなった。

「大神さんもいらっしゃるんですか?」


聞き慣れている筈の声。だがそれの纏う空気は、まるで別人のように聞こえる。

ただならぬ雰囲気に、かえでは思わず声の主の方を振り返った。
声を掛けられた当人はといえば、背筋をピンと伸ばしてすっかり固まっている

かえでの視線の先には、にっこりと微笑むさくらが居た。
だがその微笑みが、普段とは違い寒々とした空気を纏っているのは言うまでもない。

「それは楽しくなりそうね、紅蘭」
「えっま、まぁ……せやなぁ……」

唐突に声を掛けられた紅蘭もそれを感じているのか、すっかり先程までの勢いを失っている。
確かに今のさくらに声をかけられたら、かえでも普段通り言葉を返す自信は無い。

「……すみません。俺はこの後事務局の手伝いがあるので、お気持ちだけ頂いておきます」
「あ、あら……そう」

すっかり冷えきった空気の中で大神が言った言葉に、かえではただそう返すことしかできなかった。

「そうなんですか。あたしも大神さんとお食事、したかったんだけどな」
「……」

自らの方に向き直りまたにっこりと笑うさくらに、大神はただ蛇に睨まれた蛙のように黙って固まるのみ。
事務局の人間も今日は休暇をとっている筈だったのだが、かえでにその矛盾を問いかける勇気が
あるはずも無かった。

「かえではん、地雷やで」

いつの間にかかえでの横に立っていた紅蘭が、小さな声で囁く。

「な、何かあったのかしら……?」
「こないだアイリスと二人で浅草行ったみたいでな、見事に喧嘩中や」

流石親友といったところか、かえでの問いにすぐに彼女から答えが返ってくる。
そこに至るまでには何らかの理由があるのは明白なのだが、誤解を招いてしまうのが彼ららしいということか。

かえでが頼もしいと思ったのも束の間、こういうことに対して優柔不断なのは変わっていないらしい。
尤も、原因が彼だけにあるわけではないけれども。

「そう……相変わらずね」

ため息混じりにかえではそう呟いて、準備をするためにゆっくりと後ずさる。
正直な話をすれば、彼女が一刻も早くこの空間から脱出したかったことは言うまでも無い。

「相変わらずやで、ホンマに」

同じくため息混じりに囁いた紅蘭はそんなかえでの視線に気付くと、早くしてくれとでも言うようにパタパタと
手を振った。
 
 

司令室から自室に向かう階段を駆け上がり、かえでは急いで自室に飛び込んだ。
そして荷物を詰める為にお気に入りの鞄を開けた時、ふと中入っていたかんざしが目に止まる。

それは以前恋人と浅草に行った時に貰ったもの。手に取れば、すぐに当時の情景が彼女の目に浮かぶ。

やがてかえでは、結局この時間まで恋人に会えず仕舞いであったことに気付いた。
お昼を一緒にとも考えたのだが、何処に居るのかも分からない相手を探すのには時間がかかりすぎる。
それまで紅蘭一人をあの空間に残しておくのは、あまりにも酷というものだろう。
 
……ごめんなさい。
 
かえでは心の中で相手にそう謝ると、手早く鞄に荷物を詰め始める。
そして入れ忘れが無いかを一通り目で確認すると、それを肩にかけて部屋を飛び出した。

秘密の外出に目くじらを立てない、そんな相手の性格に心から感謝をしながら。


+++++++++++++++
多分大神くんはくじ引きで花やしき辺りのチケットをペアで当てて、自分が行くよりはとアイリスにあげたの
でしょう。彼自身はレニ辺りと一緒に行くのかと予想していたのですが本人は『わーいデートだ!』みたいな。

うちの大神くんは、そっち方面には完全にヘタレな男でございます。
彼らが今後どうやって仲直りするかは、皆さんのご想像にお任せということで。
ううん、大さく可愛いと思うんだけどなぁ……初心で。

それでは皆様、また明日。
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