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00:00 かえでとすみれ 音楽室にて

注意
かえすみの百合ですのでご注意下さい




+++++++++++++++

普段より少しだけ早く入浴を済ませ、部屋で髪と肌を入念に整える。
普段はつけることの無い香水に、ほんの少しだけ体を潜らせて香りをつけて。
身に着ける服は寝る為だけのものであることに変わりは無いが、普段よりも気に入っているものを。
勿論、触り心地には気を使う。

そして下着は華美ではなく、また地味過ぎない程度に。
 
夜中に恋人の部屋を訪れる時、いつもすみれはそんな風に身支度に手間を掛けていた。
 
今日も今日とて、例外ではない。
トップスタアとして、また秘密部隊の一員として多忙な日々を送る彼女の限られた自由時間。
同じく、いやそれ以上に多忙な日々を送る彼女自身の恋人であり上官の相手と、その時間が重なるのは
ほんの僅か。

それを無駄にすることなどできないすみれは、何の約束も取り付けてはいなかったものの相手の部屋を
訪れようと考えていた。
それは必ずしも失礼な振る舞いなどではなく、相手との暗黙の了解。すみれが扉を開ければいつも、恋人は
部屋の中でにっこりと微笑み、彼女を出迎えてくれるのだ。
 
だが、今回ばかりはそうでは無かった。
きちんと準備を整えて相手の部屋の扉を叩いたのだが、待てど暮らせど返事無い。
元々気が長い方では無いすみれが扉を開ければ、部屋はもぬけの空であった。

何処へ行ってしまったのかしら……一瞬そう考えた後、彼女の中に『待つ』という選択肢が浮かぶことは
無かった。

まだ入浴をしているのかと考え大浴場の扉を開けたが、そこには誰も居ない。

もしや仕事をしているのかと支配人室を覗けど、居ない。
夜食を摂っているのかと考え食堂を覗けど、居ない。

比較的恋人が足を運ぶことの多い場所を虱潰しに探していったものの全くその姿は見られず、最終的に
彼女は隊員個人の部屋以外の全ての扉を開けることとなった。
 


「……あら、すみれ」

まさかと思い開けた最後の扉の向こうで、恋人は彼女を待っていた。

かえではにっこりとすみれに向かって微笑んだものの、すぐに背を向けてしまう。
もう外出してしまったのかとさえ思っていたすみれは、驚きつつもほっと胸を撫で下ろした。

肌寒くなってきた秋の夜長。
しかし小走りに劇場内を一周した形となった彼女の額には少しだけ汗が滲んでいる。
また時間も掛かってしまった為に、せっかく着けた香水の匂いも半減してしまっていた。


手間を掛けさせられた形になったすみれは、普段ならば臍を曲げるところなのだが、不思議とまだその感情は
湧きあがってきていない。
それ以上に不釣り合いな場所に彼女がいたことに対する純粋な驚きと、出会えたことに対する喜びの方が
大きかったのである。

すみれにとって大切な大切な恋人は、普段彼女が訪れる事は殆ど無いであろう音楽室で何故かピアノを
弾いていた。いや、弾いていたというよりは鍵盤をひとつひとつ押していたといったほうが正しいだろうか。

「どうして、こんなところにいらっしゃるんですの?」

ゆっくりとドアを閉めたすみれは、まずは純粋な疑問をかえでにぶつける。
かえでがピアノを嗜むという話は誰からも聞いた事が無い。当然、本人の口からも。
その為彼女はかえでがピアノを嗜むとは思っておらず、まさか音楽室に居るとは思っていなかったのである。

「織姫がお昼に『音がおかしい』から見てくれって言ってたの、すっかり忘れていたのよ。それで慌てて確認に
来たんだけど、どの音がおかしいのかあの子に聞くのを忘れてて……」

そう言いながら、かえではポロンと鍵盤を押す。すみれが聞く限り、この音のどこにも違和感は無い。

「普段弾くことが無いから音の違いが分からなくて……思ったより時間が掛かっちゃったみたいね」

かえではそう言ってふっとすみれの方を振り返り微笑むと、再びピアノへと向き直りこう呟いた。

「あなたが、痺れを切らす時間になっちゃったみたいだもの」

かえでの言葉に、すみれはぎゅっと奥歯を噛みしめる。
彼女の中に込み上げたのは、自分が相手の手の中で踊っていたという事実に対する悔しさであった。

 
痺れを切らす程、彼女は待つことすらもできなかった。
居ないと分かった途端に身体が動き、気付いた時には彼女を探し始めていたのだから。

扉を開ける度に増えていく、置いて行かれたのかもしれないという不安。
それを払拭するためにも、早く彼女に会いたいという焦燥感。


そして彼女の暖かさに包まれたいという想い。
だが彼女を見つけた今ですら、それは未だ叶ってはいないのであるが。

どんな時にも追い掛けるのは自分。普段追い掛けられることばかりのすみれにとって、それは初めての経験。
勿論、相手が常に優位に立っており、その手の内で踊らされているような感情も。

 
再び鍵盤を叩き始めたかえでの方へ、すみれは一歩足を踏み出した。

ポロポロとピアノが鳴る。徐々に上がっていく音階は全て正しい音を辺りに響かせており、それに合わせて
すみれの気分も昂っていった。
 
どうして、彼女の事を考えると居ても経ってもいられなくなるのか。
どうして、彼女は自分のように焦らず涼しい顔で居られるのか。
どうして、彼女が自分以外の者の名を呼ぶだけでこれほどまでに苛々するのか。

どうして、どうして、どうして……
 

ポロン、とその時鳴り響いた音に、すみれは違和感を覚えた。

織姫だけではなく彼女もピアノを嗜むのだ。微妙な音の違いを聞き分ける聴覚くらいは鍛えてある。

「今の音、半音下がっていますわ」

かえでは自分のすぐ後ろで呟いたすみれの声に驚くことも無く、ポロポロと何度もその鍵盤を叩く。
やがて三つの鍵盤を押して和音を響かせ、何度もそれを室内に響かせた。

「あら、本当。この音だったのね。ありがとう、すみ……」




01.jpg



かえでの言葉が遮られるのと同時に、ジャンとピアノが不協和音を響かせる。


彼女が振り返るのとほぼ同時に、すみれはその身体を抱きしめ唇を奪っていた……そのせいであった。

鍵盤の上を滑るかえでの指に合わせて、少しずつ違う不協和音が響く。
それが暫くして無音になったのは、彼女がすみれの背中に腕を廻したから。

深い口づけの後、銀糸を引いてゆっくりとお互いの唇が離れていく。

すみれが自らの体温の上昇を感じながら瞼を開けると、ほんのりと頬を染めたかえでがにっこりと
微笑んでいた。

「……積極的ね。どうしたの?」

彼女の笑みが少しだけ意地悪に思えるのは、すみれが結局形成を逆転されたせい。仕掛けたのは彼女で
あるものの、結局は相手に翻弄されてしまったのである。
最初だけでも優位を保てたということを考えると、どうやら意表を突くことには成功しているらしい。
それでも結局彼女は、かえでの手の平の上にいることに変わりはなかった。

「かえでさんが焦らすから、いけないのですわ……」

口元からだらしなく垂れてしまった銀糸を拭い、すみれは憮然とした表情でかえでを睨む。
だが相手はそれに怯むことなく微笑むと、その髪を撫でた後ふたたび彼女をぎゅっと抱きしめた。

彼女の甘い香りが、すみれの鼻をくすぐる。
その匂いと暖かさに包まれた彼女は、それ以上何も言う事なくぎゅっと強く目を閉じた。

暫くは、踊らされているのもいいか……そんなことを思いながら。


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久々にかえすみ~。たまには積極的でもいいと思うのですよ。
でもすみれ様何だかんだ振り回される側な気がする今日この頃。可愛いなぁもう! 
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