19:00 かえでとアイリス サロンにて
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少女の美しいブロンドの髪を,かえでは優しく櫛で梳いた。
癖のあるその髪と頭皮を傷つけてしまわないよう、細心の注意を払って。
「えへへ、お姉ちゃんにリボンをつけて貰うの久し振り~」
サロンのソファーに腰掛けたアイリスは、嬉しそうにきらきらとした微笑みを浮かべる。
その手には今日かえでに買って貰った、白いレースのついた新しいリボンが握られていた。
日はとうの昔に沈んでしまい、もう夜であるといえるこの時間。
どこへ出かけるという訳でもなくアイリスがリボンをつけなおしたのは、ひとえにその新しいリボンを
早く身に着けてみたかったからである。
「そうねぇ……久し振りすぎて、上手くできるか少し不安だわ」
かえではそう言って苦笑を浮かべたものの、その手は慣れた手つきで幼いブロンドの髪を纏めている。
自身の髪が短いためになかなかリボンを着ける習慣が無い彼女であったが、ここに居るアイリスをはじめ
さくらや織姫の髪にもよく櫛を通していた。
特に口煩い織姫やすみれは下手をすれば二度と髪を触らせて貰えなくなる危険性があるのだが、
かえでは何度も彼女達の髪に触れており、そして彼女達もまた快くその申し出を受け入れていた。
彼女はそんな気位の高いメンバーにも気に入られる程、髪を梳くことが得意だったのである。
やがて彼女はブロンドの髪を纏め、あまり強く引きすぎないように注意しながらその髪を一度ゴムで縛る。
そしてアイリスからリボンを受け取ると、先程結んだゴムの上から丁寧にそれを結び始めた。
「かえでお姉ちゃんにしてもらうと、何だかあやめお姉ちゃんにやって貰ってるみたい」
目の前のテーブルの上に置かれた鏡を見つめ、アイリスがふとそんなことを呟く。
かえでは鏡の中のアイリスに一瞬だけ視線を移すと、その顔に柔らかい笑みを浮かべた。
「そう、ね……私も昔姉さんに髪を梳いて貰っていたから、それを覚えているのかもしれないわ」
そんな言葉を口にするかえでの脳裏に浮かぶのは、まだお転婆だったころの幼い自分。
今より少しだけ長かった髪が木の枝に引っかかって鬱陶しいと、自分で結べない頃はよく姉に一つに
まとめて貰っていた。
しかし大人になってからというもの、姉妹の立場は一変する。
「それに私も、よく姉さんの髪を結ってあげていたし」
「あやめお姉ちゃんの?」
かえでの言葉にアイリスが顔を上げた為、かえでは慌ててリボンを結んでいた手を止めた。
幼い頃から短いままのかえでに対し、姉はその髪を一度も短くした事はない。
そうなるとかえでが着けることのできる髪飾りは限られてくるのだが、髪の長い姉が着けられるそれは数多く
存在するのである。
士官学校に入る前まで、かえではいつも姉の誕生日になると決まって自分の気に入った髪飾りを買っては
それを姉に贈っていた。
そして彼女が自分以外の人の髪を結えるような歳にまで成長してからというもの、あやめは誕生日になると
いつもかえではその髪に自分の贈り物を着けたのである。
そんなことを繰り返しているうちに、彼女は人の髪を梳くことが得意なことのうちの一つになっていたのだった。
「ええ。だからアイリスの髪がもう少し伸びたら、もっと色んな髪型にしてあげられるわ……はい、出来上がり」
再びアイリスが正面に向き直ったのを見計らって再び動かされたかえでの手が、きゅっと少しだけ強くリボン
を引いたところで止まる。
そして彼女が完成を宣言した時には、少女の頭にはまるで一羽の蝶のようなリボンが添えられていた。
「うわぁ~、ありがとうお姉ちゃん!」
ほんの少しも歪んでいないそのリボンの形をいたく気に入ったのか、彼女は軽い足取りで椅子から降りると、
鏡の前でくるりと回る。
そしてスカートの淵を少しだけ摘まんでポーズを取ったのは、幼いとはいえやはり彼女もスタアであるという
ことだろうか。
こうして満面の笑みを浮かべたアイリスはかえでの方へと近づくと、きゅっとその身体に抱きついた。
「アイリスもあやめお姉ちゃんみたいに長~く髪を伸ばすから、その時は絶対、今よりずっと可愛い
髪型にしてね」
顔を上げたアイリスが首を傾げてそんなおねだりをすると、かえではその前髪を払いにっこりと微笑む。
そんな愛らしい少女の願いを無為に出来る人間など居る筈が無い。
「ええ、期待に添えればいいんだけど。……さ、皆に見せに行きましょうか」
「うん!」
彼女の言葉ににっこりと笑ったままで頷くと、アイリスはその身体から離れその手をぎゅっと握る。
そしてかえでもまた彼女と同じ柔らかい笑みを浮かべると、繋がれた小さな手をぎゅっと握り返した。
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かえでさんは2以前の姿が全く分からない(と思う)のですが、個人的にはショートのままかなぁと。
完全の彼女は『動』だと思っているので、小さい頃はお転婆さんだったに違いない!
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