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23:00 かえでとマリア マリアの部屋にて

注意
言うまでも無くマリかえです(笑)ご注意をば!




+++++++++++++++


劇場内の誰もが寝静まり、賑やかだったその名残さえも消えた夜。
入浴後に見廻りを兼ねて劇場内を歩いていたマリアは、ようやくその役目を終え自室へと向かっていた。

風呂から出たばかりの頃は暑いくらいに暖まっていた身体は時間が経って既に冷えきっており、
すっかり冷たくなった空気はその肌に染みる。
いくら北国の生まれといえどやはり寒ければ暖かさが恋しく、マリアは早くベッドに入って眠ってしまおうと
思いながら部屋のドアをガチャリと開けた。

彼女の視界に、若い女性としては殺風景な部屋が映る。

それはあまり華美な装飾を好まない、とても彼女らしい部屋であった。

マリアは肩に掛けてあったタオルと、手に持っていた入浴の際に使用する少々の手荷物を机の上に置き、
それを所定の位置に戻すこと無くすぐにベッドへと足を向ける。

湯冷めしてしまったことに加え最近の訓練や稽古の疲労が身体に蓄積されており、彼女は一刻も早く
ベッドに潜りたかった。


履いている靴を脱ぎ、いつものように掛布団を捲る。
そこには柄の無い真っ白なシーツだけが……いや、彼女の予想に反し全く考えてもいなかったモノがそこに
眠っていたのである。

「……かえでさん」

自分の目の前に突如現れた人物に、彼女はその名前を小さく呟く。

名前を呼ばれた恋人はごろりと寝返りをうちマリアの方を向いたものの、その瞼は閉じられたまま。
どうやら、すっかり熟睡してしまっているらしい。

何故かえでがここに居るのかさっぱり分からないため、マリアは呆然とした表情を浮かべたままじっと
その寝顔を見つめるしかない。

確かに、恋人同士である彼らは殆ど毎日のように夜の時間を共に過ごしている。
尤もその場所はここではなく、殆どがかえでの部屋であるのだが。

だが今日は彼女の仕事が夜遅くまで終わらず、睡眠の邪魔になってはいけないとかえでからマリアに
別々に眠ろうと言ってきたのだ。
彼女自身は少しくらいの光源など気にする性質ではないため、それよりもただ傍に居たいと考えていたの
だが、相手の厚意を無為にする訳にもいかず首を縦に振ったのである。

そのためマリアは風呂から上がり、まっすぐに自室へと戻ったのだった。
普段ならば荷物を持ったまま、かえでの部屋の扉をノックするところであるのに。。

しかし部屋に戻ってみれば、自室に居る筈のかえでがベッドに寝ている。

その上、不思議なことにマリアは彼女の姿を見るまでその気配に全く気がつかなかったのだ。

確かに今になって考えれば、消した筈の部屋の明かりは点いていたし、人が居ない筈のベッドは彼女の形に
盛り上がっていた。そこまでの事実が揃えば、大抵の人間は自らの部屋に何者かが侵入したと考えるだろう。

そして何より、彼女は人よりずっと気配には敏感なのである。
過去の苦い思い出のお陰といえば皮肉なのだが、恐らくそういった能力の高い人間が集まっている
この華撃団の誰よりもその能力は高いだろう。

そんな彼女が何故、無防備に眠るかえでの気配に気づかなかったのか。

そして何より、何故彼女が此処に居るのか……。

ふ、とマリアは柔らかい笑みを浮かべ、眠っている恋人の髪を撫でる。
そしてその手を顔の上で滑らせて頬の辺りまで移動させると、彼女は少しだけ開いたかえでの唇にそっと
口付けを落とした。

「ん……」

触れられたことに気付いたらしく、かえでは顔を顰めてまた寝がえりをうち仰向けの形になる。
やがてその瞼はゆっくりと開いたのだが、彼女は暫くの間呆然と天井を見つめるだけであった。


マリアはベッドの上に肘をつき、そんな彼女をじっと見つめている。
すると、いきなり大きく目を見開いたかえでは、それとほぼ同時に勢いよく身体を起こした。

「……よく、眠れましたか?」

ぎぎい、と錆びた金属がこすれる音が今にも聞こえてきそうなほど固くゆっくりと自らを見下ろしたかえでに、
マリアはにっこりと微笑んで問いかける。

「え、あの……その……ごめんなさい」

暫くの間口をぱくぱくと動かしていたかえでは彼女の問いかけにそう謝罪を述べると、申し訳なさそうに
かっくりと頭を垂れた。
どうやらマリアが思っていた以上に、彼女は相当落ち込んでいるらしい。

「どうして謝るんですか? わざわざ私に会いに来てくれたのでしょう? ……それとも、寝込みを襲いに来たと
でも仰るのですか?」

ベッドを取られた形となったことを全く気にしていなかったマリアは、首を傾げてそうかえでに問いかける。
勿論最後の一言の際には、その端正な口元に悪戯な笑みを浮かべて。

その言葉を聞いた途端、すぐにかえでは勢いよく顔を上げる。
その顔がよく熟れた林檎のように赤いことを、マリアは自らが口を開く前から知っていた。

「そ、そんな訳無いでしょう! 休憩がてらもし起きてたら少し話そうと思って……ドア開けたら居ないみたい
だったから戻ろうと思ったんだけど、ちょっとつまずいて明かりを点けちゃって。そしたらすぐに、寝不足の
せいでくらくらしてきちゃって……ごめんなさい」

羞恥心に後押しされて最初こそ勢いよく叫んだものの、話し続けるにつれかえでの声のトーンはだんだんと
落ちてゆく。
そして再びその口から零れた謝罪の言葉に至っては、先程のそれと大して変わらないくらいのものに
なり果てていた。

マリアは再び頭を垂れた彼女の様子を見、ふうとひとつ息を吐く。

憂いを帯びた恋人の表情は勿論美しいのだが、やはり彼女には暖かい笑顔が似合うのだ。

「だから、どうして謝るんですか?」

ずっとベッドの横に膝をついていたマリアは、そう問いかけてゆっくりと立ち上がると、かえでのすぐ横に
腰を下ろしてその身体を柔らかく抱きしめる。
突然のことに暫くの間かえでは身体を強張らせて目を見開いていたのだが、やがて落ち着いたのか、
その力を抜きすっかり彼女の方へと身体を預けてしまった。

「だって、これじゃどう考えても不法侵入じゃない」

マリアの胸の辺りに頬を当てたまま、かえでは小さく呟く。

「恋人同士なのに?」
「親しき仲にも礼儀あり、よ」
 
マリアの軽い問いかけに対しそう返したかえでは、深い溜息を吐いてマリアの胸に顔を埋める。
そんな彼女の背中に腕を廻し、マリア片方の手の平でかえでの髪を優しく撫でた。
その口元には、絶えず優しい笑みを添えて。

「かえでさんは礼儀を重んじ過ぎているくらいですから、たまにはこうやって不躾なことをされた方が……
私は嬉しいです」
 
暫くそうやって恋人を抱きしめていたマリアは、やがて子供に言い聞かせるようなゆっくりとした声で言う。

彼女の言葉通り、かえではあまりに気にし過ぎるのだ。

付き合い始めてもうかなりの時を経ているのだが、マリアはかなり打ち解けた今ですらかえでに非礼を
働かれたと感じたことはない。
それは当然彼女にとって悪いことでは無いのだが、どこか気を遣わせているのではないかと未だ思うことが
あるのは事実である。

だからこそ今回の件で、マリアは恋人が自らに心を開いてくれていることを、改めて実感できたのだった。

「でも……」
 
しかしそれでも納得がいかないのか、かえではすぐに顔を上げて再び口を開こうとする。
そんな彼女の口元を、マリアは自らの手の平で軽く塞いだ。

目を見開いたかえでのその瞳を、マリアは自らの瞳で真っ直ぐに見つめる。
そして真剣な表情のまま、ゆっくりと口を開いた。

「何なら本当に、寝込みを襲いに来て頂いても」
 
その言葉と同時に、かえでの頬が赤く染まる。
その色が先程よりも濃い色だと思えるのは、恐らくマリア自身が真摯な表情を崩さなかったから。
 
熟れたトマトのような顔の恋人をしっかりと見届けて、彼女はやっとその顔に満面の笑みを浮かべた。
その笑顔につられてか、それとも少しだけ気が晴れたのか……未だにほんのりと顔を染めたままのかえでに、
ようやく普段通りの笑みが戻る。
 
やはりこうでなくては、そんなことを思いながら、マリアは彼女の頬にひとつだけ軽い口づけを落とした。

「もう、そんなこと言ってると……本当に来ちゃうわよ」
 
24.jpg


くすぐったそうに顔を歪めた後、かえではそんな事を言いながら片方の手の指を獣のそれのように軽く曲げる。
本人はあくまで狼のつもりなのだろうが、まるで年上の妹を見ている気分のマリアにしてみれば子犬のように
しか見られない。例えたった今のように「がお」と可愛らしく鳴かれたとしても。

「それはそれは、光栄です。でも本当にそうなったとしたら、私はきっとあなたに食べられてしまうでしょうね」
 
マリアは片方の手で彼女の獣の方の手首を掴むと、彼女を抱いたまでゆっくりとベッドの上に倒れ込む。
唐突なことに目を閉じたかえでが瞼を上げると、彼女と丁度同じ目線の高さになったマリアは、その瞳を
真っ直ぐに見つめた。

「あなたの気配がいつも近くにある。それが当たり前になりすぎて……すぐ傍まで近づいてきても気付かない
ほどなのですから」
 
その気配を感じ取る事ができなかったのは、最早彼女がマリアにとって空気と同じ存在であるからだろう……
そうマリアは思っていた。
 
いつも隣に居て、話し、触り、キスをする。それが当たり前の関係。
しかし彼女が居なくなれば途端に均衡は崩れ、立ち上がることすらできなくなるだろう。
だからこそマリアにとって、彼女は空気のような、かけがえのない大切な人なのだ。
 
言い終えた口を閉じるが早いか、マリアはそんな大切な恋人の唇に先程と同じ優しいキスを施す。
かえではそれに応えるようにしてにっこりと微笑むと、同じように微笑んでいる相手の首に腕を廻し、
その唇に自らのそれを重ねた。
 
その後かえでの仕事が捗ったのかどうか……それはまた、別の話である。


+++++++++++++++
今更気づいたのですが、寝顔ネタ多いのね(笑)
ともかくもこれで一段落でございます。一遍でも読んで下さった皆様、本当にありがとうございました! 
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