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私の中ではまだクリスマス……! ということでいちにち遅れのクリスマスネタでございます。
年末は行事が多くて大変ですね、本当に今年は師走してるなぁ。

1本目は、私の王道マリかえでございます。
普段通りガチな百合ですので、苦手な方はスルーして頂けるよう、宜しくお願い致します。

各種返信等、もうすこしお待ちくださいませ。
一応予定では3本上げる気でございますので、3本目の記事と同時に一気に返したいと考えております。
申し訳ありませんが、気長にお待ち頂ければ幸いです。

それでは、第一弾マリかえ版を読んで頂ける方は、どうぞお進みくださいませ。




+++++++++++++++


人々が聖なる夜に思い浮かべる幻想をふと信じてみたくなって、私があの人にほんの些細な悪戯をしようと
考えたのはついこの間のこと。
パーティーに浮かれる仲間達には気付かれないように、私はそっとあの人の服のポケットに紙切れを
忍ばせた。


周りと一緒に笑っているばかりのあの人も、それに全く気付いてはいない。

そう、それでいい……全ては、計画通り。
 

宴の賑やかさが嘘のように静まり返ったその日の夜。
私は誰に行き先を告げる事なく、たった一人で劇場から抜け出した。


あの人が、私からのメッセージに気付くことを信じて。
 
 
 
暖かな建物から出ると、耳が痛くなるほどの冷気に包まれる。
夏の暑さから秋の心地よい涼しさはもうとうに過ぎていて、今は逆に夏の暑さが恋しくなる程。
それでも、世界の全てが凍りつくような冬を何度も経験してきた私にしてみれば、このくらいの寒さは
逆に心地がいい。

しかし今日はこの冬一番の冷え込みらしく、公演を終えた皆もひたすら寒さを訴えていた。


それほどまでに冷え切った空気の中に、ほぅっとひとつ息を吐く。

真っ白い煙が立ち、やがてすぐにそれは闇に溶けた。

子供の頃には、それがやけに不思議に思えた。

いや、それは今でも変わらない……か。
 
そんな風に吐く息の白さに少しだけ故郷の匂いを感じながら、私は人気の無い銀座の街へと歩を進めた。
 
 
+++++++++++++++

 
一方、ここは大帝国劇場の一室。
宴の最中に酒を飲みすっかり眠ってしまったかえでは、他の誰かに起こされる事なく自分から目を覚ました。
半ば寝ぼけたままの頭で辺りを見渡し、自分がいつの間にか部屋に戻っていることに気づくと、
不思議そうに首を傾げる。
勿論、彼女の記憶は食堂で皆とパーティーをしていたところでぷっつりと途切れていた。


そうなれば、誰かが自室まで彼女を運んでくれたと考えるのが妥当である。

かえでの頭にそんなことをしてくれるような人物の顔が何人か浮かぶが、その中で最も可能性の高い人物を
思い出したところで、かえではまた首を傾げた。


彼女が思い浮かべた人物であるのなら、かえでを部屋に運んだ後強引に彼女を起こす筈である。
またそうでなくても、彼女が目を覚ますまで部屋に残っている筈……。


それはかえで自身の自惚れではなく、これまでずっと付き合ってきた経験の上でのこと。


しかし、室内には彼女ひとりだけ。他には誰ひとりとして存在しない。
それならば、彼女を部屋に運んだのはその人物ではない可能性が高い。


あの人で無いのなら、明日にでもお礼を言っておかなければ……かえでは酔いの覚めた頭で
そんなことを考えながらベッドを降りる。


そして彼女が床に足を付けて立ち上がった時、上着のポケットから小さな紙切れがはらりと床に落ちた。


見覚えのないそれを拾い上げたかえでは、それに書かれた内容を見て目を丸くすると
すぐにクローゼットから上着を取り出す。

「ああもうっ! 何でこんな事するのよ……!」


慌ててそれに腕を通しながら時計を見、彼女は小さな声で叫ぶ。

しかし当然それに答える人物がいる筈もなく、かえではやるせない思いを自らの胸に残したままで
部屋を飛び出した。
 
寒空の中で来る宛の無い自分を待つ、恋人の元へ。
 
 
+++++++++++++++

 
目的の場所に着いた頃にチラチラと降り始めた雪は、既に冷え切った地面に少しずつ積もり始めている。
あの人へのメッセージで指定した時間はとうに過ぎており、私が劇場を出てもう一時間になるだろうか。
 
正直な話、もう『待ち人来たらず』と判断する時間なのかもしれない。
 
何となく屋根の下に逃げる気にはなれなかった為に頭に積もってしまった雪を振り払い、
私は後ろにそびえ立つ教会を見上げた。

せっかくの聖夜なのだからという単純な理由でこの場所を選んだのだが、それでもヒラヒラと舞う雪の中に
ある十字架は、敬虔なクリスチャンではない私にとってもとても幻想的で美しく思える。

そして何より、しんと静まり返ったこの場所で、燦然と輝く星空が……
 
「マリア……!」
 
沈黙に包まれた空間から突如、私の名を呼ぶ声が響く。

その声の方へと振り向く私の口元が、意識をせずとも歪んでいるのが自分でも分かった。
 
振り向いた視線の先に、真っ白になった道をひとり走るあの人の姿が映る。
余程急いでいたのだろうか、その頬は子供のように真っ赤に染まっていた。

「もう、いらっしゃらないと思っていました。」

私のすぐ目の前に止まり息を整えている彼女に向かい、私はぽつりと呟く。


「……ッあんな風に、伝えるからよ。ちゃんと、言ってくれたら……待たせなかったのに。」

肩で息をする程に急いで自分の元へと来てくれたことが嬉しくて、私は彼女をぎゅっと抱きしめた。

「すみません。……少しだけ、試してみたくなったんです。」


呼吸を整えている彼女の負担にならないように抱き締める力を整えながら、私はゆっくりと言葉を紡ぐ。

「試す……って何を?」


まだ肩で息をしながら、彼女は訝しげに私の顔を見上げた。

「『聖夜の奇跡』、というヤツを」


彼女の問いに答えつつ、私はその頬に口付けを落とす。

「何よ、それ。」


自分でも恥ずかしいような台詞に、彼女は更に顔をしかめる。
それでもほんの少しだけ頬を染めたのは、きっと私の気のせいでは無いだろう。

「でも、気づいて頂けると思っていました。……なんとなく、ですけれど。」


彼女の赤い頬にすっかり冷たくなってしまった自らの頬を擦り寄せながら、私はその耳元で囁く。

その言葉は、紛れもない事実だった。

気づかれなければこの悪戯は失敗に終わる。私は寒空の下を、たった一人で戻らなければならない。
事の真相を知るものは誰もおらず、ただ私の中に残るだけ。
寒い思いをするだけ損であり、それならば普通に彼女の部屋で聖夜を過ごした方がよい。


だが、私には何の確証も無い勝機があった。

きっとあの人は、私のメッセージに気付きこの場所に来てくれる。
……どれだけの時間を要するかは分からないけれど。


それでも、そんな妙な確信が私の中に常に存在していたのは事実である。

「そんな事言って、もし私が気付かなかったらどうする気だったの?」


くすぐったそうに言う彼女の表情を見る限り、まだその中には不満が渦巻いているらしい。
だがそれは、自分よりも人を気遣う彼女の優しさの現れ。

その優しさが他の誰でもない自分自身に向けられていることが嬉しくて、私は彼女の背に廻した腕の力を
少しだけ強くした。


「もう、いいじゃないですか……現にあなたは此処にいらっしゃるんですから。」
「そんなこと言って、風邪ひいたらどうするの?」

子供を叱るような口調でそう言うと、彼女は私の頬を自らの手で包む。
手袋はしていないものの、ここまでの運動量のお陰か彼女の手はとても暖かい。

「……ほら、こんなに冷たくなってる。」


両手で頬を包んだままで私の顔を自分の方に軽く引き寄せて話すと、彼女の吐息が唇に触れ暖かい。

先程の触れた頬やこの手と吐息、そして何よりずっと抱き締めたままの彼女の身体
……それらの全てが暖かい。
 
どうしてこの人は、こんなにも暖かいのだろうか。
 
「かえでさんが、暖かいんですよ。」

彼女の身体をすっぽりと自分の身体で包み込むようにして抱きしめると、私はその首筋に顔を埋める。

「マリアが冷たすぎるのよ。」


すると彼女は私にすがり付くように、首に腕を廻してきた。
再び、お互いの頬が触れ合う。

私はその感触を存分に楽しむと、相手の頬にまた口付けを落とした。

「……それなら、暖めてください。あなたが。」


そう呟いて、彼女の唇に啄むようなキスをする。
二度三度それを繰り返し、やがてそれが深いものへと変わりつつあった頃、
不意に唇を離した彼女が私にこう問いかけた。

「……ねえ、聞いてもいいかしら?」


すぐ近くにあった唇を少しだけ離して、私はまた頬が染まり始めた彼女をの方を見下ろす。

「どうして、私をここに呼び出したの?」

その微かな問いかけに私は頬を緩ませると、もう誰にも渡さないつもりで彼女を抱く腕の力を更に強くする。

「劇場の外に出なければ、あなたを独り占めすることができませんから。」

彼女の耳元にわざと吐息が掛かるように呟くと、その耳までもが赤く染まる。

私はそんな耳元を軽く舐めると、先程までと同じように彼女の柔らかい唇を塞いだ。
 
もしもこの世に神というものが存在するというのなら、どうかこの聖夜だけは、
彼女を私だけのものにしてください。
 
十字架に背を向けたまま、私はそう心の中で強く願った。


+++++++++++++++
糖度15パーセント増(当社比) 
本当はもう少し先まで書きたいのですが……ヤバくなってしまうのでここで一区切り。

うちのマリアさんは何気に独占欲が強いのですよ。
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