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こちらは同日のすぐ下のネタ、そしてその前の2月13日のネタの続きとなります。
お読みになる際はそちらを読んでからの方が楽しめるかもしれません……。

それでは、全て読まれた方はどうぞ先へお進みくださいませ~。




+++++++++++++++


【7.すみれの場合】
 
その時すみれはじっと椅子に座り、テーブルの上にあるひとつの箱をじっと見つめていた。

テーブルの中央に鎮座するそれは、ちょうど彼女の細い身体の幅と同じくらいの大きさで、
高さはその半分程度。
しかし彼女がファンから贈られたお菓子の類いよりも、ずっと大きなものであることに間違いはない。

彼女は無言でその箱を手に取ると、そのまま椅子から立ち上がろうとする。
だが次の瞬間にそれはテーブルの上へと戻され、すみれもまた椅子に腰を降ろした。

こうして、再び彼女は先程までと同じ体勢に戻ったのである。

やがてすみれの口から大きなため息が吐き出されると、彼女はテーブルの上に
突っ伏してしまったのだった。

顔を上げないままで、彼女は暫く身じろぎをする。
そして彼女が再び顔を上げたその瞬間、大きな音と共に招かれざる客が姿を現したのだった。

「すみれさーん、悟空でーす!」
「ひいっ!」

突然の声にすみれは驚き、思わず背中を強ばらせる。

バンッと勢いよく扉を開けて彼女の部屋へと飛び込んできたのは、意味のわからない言葉を室内に
響かせた織姫と、呆れたような表情のレニであった。

「織姫、それを言うなら御用だよ」
「あれ、そうでしたかー?」

ずかずかと部屋に入っていく織姫の背後で、レニが彼女の言葉を冷静に訂正する。

すると織姫が一瞬だけ彼女の方を振り返り、その隙を見計らってすみれは箱を自分の体の後ろに隠した。

「な、なんですの貴女たちはノックも無しに人の部屋に入って……」

すみれはぶつぶつと文句を言うものの、それに普段のような覇気は無い。

「問答無用でーす。信憑にしてさっさと出すがいいでーす」
「それは神妙」

レニの訂正を聞き流しながら織姫は再びそう叫ぶと、ジリジリとすみれの方へとにじり寄っていく。

「な、なんのことですの!?

ついにすみれは部屋の隅へと追い詰められ、半ば叫ぶようにして非難の声を上げた。

しかし、織姫それに怯むことなく更にすみれの方へと近づいてくる。

「さっき後ろに隠したモノを出すでーす!」

そして遂に目と鼻の先まで距離を詰めた織姫は、すみれに飛び付くようにして彼女の背後にある箱を
強引に奪い取ろうと手を伸ばしてきた。

「ちょ、ちょいと何をなさるんですの!」

突然の相手の行動に驚いたすみれは一瞬怯んだものの、すぐにそう叫んで抵抗しはじめる。
彼女は背中に廻される両腕から無理矢理抜け出すと、織姫はそれを追いかけて背中の方から
すみれに飛び付いてきた。

「さっさと出せば何もしませんよー!」
「な、何で私が貴女の言いなりにならなければ……っ!」

箱を取られそうになったところですみれは織姫と向かい合う形をとると、彼女の頭を片手で
押さえつけるようにし、それとは逆の手で箱を自分が腕を伸ばすことができる最大限の位置まで持ち上げる。

「あ~、持ち上げたら届かないじゃないですかー! 無駄な抵抗はやめるでーす!」

背の高さの関係から最大に手を伸ばしても箱に手の届かない織姫は、すみれの肩に手を伸ばして
跳び上がり、無理矢理にでも箱を奪い取ろうとした。

「ちょっ、ちょいとそんなコトをしたら……」

相手の身体が床から離れる度にその全体重を支えることになったすみれの身体は、
必死にバランスをとってはいるものの不安定なことに変わりはない。

そしてこのままでは危ないと思ったレニが織姫を引き離そうとしたまさにその時、相手の勢いに負けた
すみれの身体が大きく揺れた。

「きゃあ!」
「うわっ!」

そのまますみれが織姫に押し倒される形となって、二人はもつれ合いながら倒れていく。


そしてすみれの目は、自らの手から離れた箱が飛ばされていくのをまるでスローモーションのように
捉えていた。

振袖を靡かせながら倒されていく彼女は、その行く末を予測し強く目を閉じる。

だがまっ逆さまに床に激突すると思われていたその箱は、間一髪でレニによって受け止められた。


それとほぼ同時にもつれあった二人の身体も、たまたま倒れた先にあったベッドの上へと投げ出される。

「レニよくやったでーす!」

ちょうどすみれの胸の上に乗った形になった顔を上げ、織姫は感嘆の声を上げる。

「いたた……ちょいと、何をなさるんですの!」

一方のすみれはといえば、箱が無事であったことに胸を撫で下ろした後、自らの後頭部の辺りを撫でながら
そう織姫に非難の声を上げた。

「……」

そしてレニは、手にした箱の天面をしばしば見つめる。

「さあこっちに渡……あれ?」

そして彼女は近づいてきた織姫が差し出した手には目もくれず、まっすぐすみれの方へと歩いてきた。

「はい。ごめんね、すみれ」

そう謝罪を述べて、レニは箱を持ち主の方へと差し出す。

「全く、本当に何を考えていらっしゃるんですの?」

それを一瞬だけ驚いた様子で見つめたすみれであったが、すぐにそう不満を漏らすとレニから箱を
奪い返した。

しかし、それに納得しないのは、必死に箱を奪い取ろうとしていた織姫である。

だが、そもそも何故彼女がすみれの手にある箱を奪い取ろうとしたのか、被害に遭った当人には
全く見当がつかない。

「あ~レニ駄目でーす! アレを食べたら死人が出るでーす!」
「はぁ!?

織姫が箱をすみれに手渡したレニにそう言って詰め寄るのを見、すみれは素っ頓狂な声を上げた。

その顔には、困惑しきった表情が浮かんでいる。

だが織姫に詰め寄られた当人はといえば、取り乱すこともなく落ち着いた様子でこう言って相手を制した。

「大丈夫だよ織姫。すみれが持っているのは食べ物じゃないから」

その言葉に意外そうに目を見開いた織姫は、暫くの間相手とすみれを交互に見つめる。

そして暫く考えた後、何かを理解したかのようにポンと手を打った織姫は、にっこりと微笑んでこう言った。

「何だ、じゃあ安心ですね」

織姫の言葉に、レニもこくりと頷く。

「ちょ、ちょいと一体何の話ですの?」

そしてすっかり会話から取り残されたすみれはもう奪われることはない箱をテーブルの上に戻すと、
今度は逆にそう言って二人に詰め寄る。


すると織姫が鞄からチョコレイトを取り出し、彼女の目の前でパチンと手を合わせた。

「すみれさんごめんなさいでーす。ちょっと勘違いしてました。お詫びにコレあげるでーす」

彼女なりに深い謝罪の意を表明したらしく、織姫はそう言って無理矢理すみれにチョコレイトを押しつける。

「……な、何なんですの一体」
「じゃ、レニ行くですよ」

出された物を受け取らざるを得ない形になったすみれはポカンとして相手に問いかけるが、
その言葉はどうやら当人の耳には全く入っていないらしい。

「じゃあ失礼しましたでーす!」

レニが頷いたのを見た織姫はそう宣言して手を振ると、来たときと同じようにずかずかと部屋を後にした。

「……」

取り残されたすみれは、呆然と彼女の後ろ姿を見送るのみ。

「すみれ」

彼女の脳裏に幾つもの疑問符が浮かぶ中、織姫が行ってしまっても尚部屋に残っていたレニがが
声をかける。

「ま、まだ何かあるんですの?」

まだ何か自分に言うことがあるのかと思わずレニを睨み付けたすみれであったが、
彼女の口から紡がれた言葉は、彼女にとって思いもよらないものであった。

「……頑張ってね」
「なっ……!」

そう言ってにっこりと微笑んだレニの顔を見て何かを悟ったのか、すみれは慌ててテーブルの上の箱を
見つめる。
その面はついさっき彼女が見ていた場所そのもので、改めてそれを見つめたすみれの頬は
みるみるうちに赤く染まっていく。

見られてしまった……そう痛感したすみれは再びレニの居た方へと視線を向けたが、なかなか重い腰を
上げることができない彼女にエールを送った年下の仲間の姿は、既にそこから消えた後であった。

 

【8.かえでの場合】
 
その時、藤枝かえでは紙袋を小脇に抱え劇場の入口へと続く階段を登っていた。

既に辺りは暗くなっており、仲間達はもう夕食をすっかり食べ終えてしまった頃だろう。
就寝が早いアイリスなどは、もう部屋のベッドの中にいるかもしれない。


既に夕食を摂っていたかえでは、迎えは誰もいないと予測しながらゆっくりと劇場の扉を開ける。

だがそんな彼女の予想は外れ、扉の向こうでは二人のメンバーが彼女の帰りを待っていた。

「おっかえりで~す!待ってたですよかえでさん」

彼女を見るや否や飛び付いてきたのは、メンバーの中でも特に元気な織姫。

「おかえりなさい、かえでさん」

そしてその後ろから彼女を見上げ微笑んだのは、織姫とは対照的に物静かなレニであった。

「ただいま。どうしたの、二人とも?」

性格が全く真逆でありながらも一緒にいることが多い二人に迎えられたかえでは、
後ろ手にドアを閉めながらそう問いかける。
勿論、メンバーの中でも最も付き合いの長い二人に向けた表情は、柔らかい微笑みであった。

「かえでさんにこれあげるでーす! バレンタインのプレゼント」

するとすぐに抱きついていた織姫が彼女から離れ、手にある鞄からひとつチョコレイトを取り出して
彼女に差し出す。

「あら、ありがとう織姫。自分でつくったの?」
「はい!」

思ってもいなかったプレゼントにかえでが驚きながら問いかけると、織姫は元気にそう返事をして
得意そうな笑みを浮かべた。

「……」

そんな彼女の様子にレニは何かを言いたげな様子であったものの、そのまま黙ってことの行く末を
見守るに留まる。

一方かえでは受け取ったチョコレイトを見つめ嬉しそうに微笑むと、織姫に向かってこう囁いた。

「よくできてるじゃない。……それじゃ、私もホワイトデーに腕によりをかけなくちゃいけないわね」
「ホワイトデー?」

かえでの口から出た聞きなれない単語に、織姫は首をかしげる。


するとすぐに、レニが横からフォローを入れた。

「日本ではバレンタインにチョコを貰った人が、ホワイトデーにお返しをするんだよ」
「そう、丁度一ヶ月後に。これは日本だけだから、織姫は知らなかったのね」

レニに続いてかえでが補足すると、みるみるうちに織姫の表情が変わる。

「じゃあ、今日あげた人みんなから貰えるですかー?」

目を輝かせた彼女が再びかえでに飛び付いて問いかけると、相手の顔が少しだけ困ったような表情に変わる。

「う~ん、その人が覚えてたらだけど。」

バレンタインと対になるような形で存在するこの日であるが、プレゼントをあげたからといって
全ての人間が律儀にお返しを贈るとは限らない。
かえではその現実を危惧して織姫にそう説明したのだが、当の本人の耳には全く入っていないようである。

「じゃあ、今日あげた人皆から貰えるですねー! やったでーす!」

その証拠に、織姫はかえでがそう説明を付け加えても尚、そんなことを言いながら嬉しそうに
跳ね回っているのだった。

「聞こえてないみたいだよ」

ほうっとため息を吐いて、レニがそう呟く。

「そうみたいね」

それに苦笑いを浮かべてそう返したかえでであったが、彼女はふと表情を変えると、
レニの髪をさらりと撫でた。

突然の彼女の行動に、レニは驚いて目を見開く。

「レニも今日はありがとう。三月になったら、あなたにもお返ししなきゃね」


微笑みを浮かべて言うかえでの方を、ゆっくりとした動作でレニは見上げた。
その頬は薄い赤色に染まり、顔には照れたような笑みが浮かんでいる。

レニはかえでの言うとおり、彼女が劇場を出ていく前にバレンタインの贈り物を手渡していた。


普段最もお世話になっている大切な人にお返しをしたい、そんな気持ちで彼女は今年初めて
かえでにバレンタインの贈り物を渡したのであるが、その時にもかえでは今と同じような微笑みを浮かべて
レニの頭を撫でてくれたのである。

普段もよくかえではレニの頭を撫でることがあるのだが、彼女はまるで子供をあやすような
柔らかいその行為が好きであった。

「さ、あとはマリアさんですよ~! レニ行くでーす!」

かえでの暖かい手の感触を感じていたレニの耳に、織姫の大きな叫び声が響く。


するとレニは表情をまたいつもと同じものに変え、ため息混じりにこう呟いた。

「はいはい」

早速駆け出した織姫の後を、レニはマイペースに歩きながら追いかけていく。

「こ~ら織姫、あんまり走らないの」

かえでの言葉にレニが足を止めて振り返ると、困ったような表情をしたかえでと視線がかち合った。


二人はほぼ同時に、にっこりと微笑みを交わす。

そしてすぐにレニは再び織姫が走っていった方へと向き直ると、彼女が向かったであろう方向へと
再び歩き出した。


暫くしてかえでもまた、彼女から視線を外して手にしたチョコレイトへと向ける。

そうしてまたにっこりと微笑んだ彼女は鼻歌を口ずさみながら歩き出し、やがて厨房へと消えていった。
 
 
 
【9.マリアの場合】
 
その時、マリアは手に本を持ったまま机に突っ伏して眠っていた。

普段そんな風にうたた寝をすることなど滅多に無い筈の彼女であったが、何故かこの日はぐっすりと
寝入ってしまっている様子である。

「マッリアさ……」

織姫がそう言って扉を開けた瞬間にそれを察知したレニは、すぐに織姫の口を塞いだ。

「……ん」

しかし流石に最初の声で起きてしまったのか、マリアはそう声を漏らして瞼を上げる。

「織、姫……?」

普段よりずっと張りの無い声で呟いた彼女は、目を擦りながらゆっくりと身体を起こした。

「ごめんね、起こしちゃった?」
「ごめんなさいでーす……」

せっかく眠っていたところを起こしてしまった形になった二人は、申し訳無さそうにそう謝罪する。

「ううん、いいのよ。ここで眠ってる訳にもいかないから」

しかし、マリアは小さな欠伸を噛み殺すと、しゅんとしてしまった二人に向かって
にっこりと優しい笑みを浮かべた。

「それで、私に何か用?」

座っていた椅子ごと彼らの方に身体を向けたマリアは、突然部屋を訪れた二人にそう問いかける。

「あっ、そうでーす! マリアさんにコレあげるでーす! いちばん上手くできたんですよ」

彼女の言葉にすぐに頭を上げた織姫は鞄からチョコレイトを取り出して彼女の方へと駆け寄ると、
ついに最後のひとつとなってしまったそれをマリアに向かって差し出した。

「ふふっ、ありがとう」

嬉しそうな笑みを漏らして、マリアは相手の髪を撫でる。
すると織姫はまるで子犬がじゃれつくように、彼女の首に腕を回してマリアに抱きついた。

「そういえば、マリアさんあんなに沢山プレゼント貰って、全部食べるですか?」

マリアの胸の辺りにべったりと頬を擦り寄せた織姫は、ふと首をかしげて相手にそう問いかける。
マリアはそんな彼女が落ちてしまわないように相手の腰の辺りに手を廻すと、
片手を自らの顎に添えて考え込むような仕草を見せた。

そんな彼女達の様子は傍から見れば恋人同士のそれそのものである。

だが実際は、単にはじめのうちは驚いていたマリアが何度もやられるうちにすっかり慣れてしまった
というだけなのだった。
もしかしたら、彼女にとってはアイリスを抱きしめているのと感覚的にあまり変わりはないのかもしれない。

しかしあまり人に見られるものでもないと思ったのか、扉のすぐ傍にいたレニは静かに
開け放たれたままのそれを閉めた。

「沢山……ああ、あれは私宛てになっているけど、全部が食べ物という訳ではないから」

織姫の意図したことを理解したマリアは、すぐに彼女の問いに答える。
どうやら今年もカンナとは違い、彼女に贈られてきたものの殆どが食べ物では無かったらしい。

自らの問いに対するマリアの説明を、織姫は黙ったままこくこくと相槌を打ちつつ聞いていた。

そんな彼女に向かってにっこりと微笑んだマリアは、自らの解答に更にこう補足を加える。

「それに、食べ物の殆どは『皆さんでどうぞ』っていうメッセージを付けて頂いているし
 ……だから明日から暫くの間、皆のおやつにでも並ぶと思うわ。」
「え~じゃあマリアさんは食べないんですか?」

マリアが善かれと思って言った台詞に対し、織姫は非難の声を上げた。

それもその筈で、彼女自身もチョコレイトを贈った相手にそれを食べて欲しくてそれを
プレゼントしているのである。
そんな心のこもった贈り物を相手が一口も味わう事なく他の人間にあげてしまったとしたら、
その事実は織姫にとってあまりにも辛いこと。

そして自らにマリアのファンを投影した織姫は、それを目の前の、しかも彼女が大好きな仲間の1人が
しようとしているということに我慢できなかったのだ。

だがそんな織姫の非難に対し、マリアはにっこりと微笑む。
そして手にしたチョコレイトを机の上に置くと、その手で彼女の頭を撫でた。

相手のその反応に、織姫はきょとんとした顔をする。

そんな相手を諭すように、マリアはゆっくりとした口調でこう言った。

「ううん。とてもじゃないけど食べきれないからっていうだけで、ちゃんと一口ずつは頂くわよ。
 せっかく、私に贈って頂いたんだもの」

ね、と付け加えてマリアが笑うと、織姫は目を耀かせて再びマリアに抱きつく。
すると一瞬だけ彼女はバランスを崩したものの、すぐに体勢を立て直してその身体に腕を廻した。

「それはいいでーす! せっかく作ったのに食べてもらえないのは悲しいですもんね」

にこにこと嬉しそうに笑いながら言う織姫の目に、マリアが先程置いたチョコレイトが映る。

「あ、でも私のチョコはちゃんと全部食べてくださいね」
「ええ、勿論」

それを手に取って織姫が念を押すと、マリアは笑いながらそう彼女に誓いをたてた。

すると、マリアの目には部屋に入った当初から一言も発していないレニの姿が映る。
織姫1人にかまけていたせいでほったらかしになってしまった彼女を気に掛けた。

マリアは、レニ向かって何の気なしにこう問いかけた。

「ねえ、レニ。織姫のチョコレイト、美味しかった?」
「……」

その言葉に、ふと未だマリアの腕の中にいる織姫の身体がぴくりと震える。
しかしそんな小さな相手の反応に、マリアは全く気づかなかった。

そんな彼女に向かって、レニが口を開く。

「僕は……」
「あ~~~~~~~!!」

だが彼女の言葉を遮って部屋中に響き渡ったのは、織姫の叫び声だった。

「ッどうしたの織姫?」
「……」

耳元で叫ばれてしまったマリアは、片方の耳を押さえながら織姫問いかける。

一方のレニは無表情のままで、再び口をつぐんでしまった。

「ちょ、ちょっとごめんなさいでーす。私、大変なコトを思い出しました」

織姫はカチカチに固まった笑みを浮かべてマリアから離れると、ゆっくりと後ずさる。

「じゃあマリアさん、おやすみなさいでーす! レニはついてきちゃ駄目ですよ!」

そして入口へと辿り着いたところでそう叫ぶと、ドアを開けて一目散に何処かへと消えてしまった。

「……」
「……まさか、あなたまだ貰ってなかったの?」

そんな彼女の後ろ姿を目で追っていったレニに、マリアが未だ呆然としたままで問いかける。

「忘れてたみたい、だね」

するとレニはあっけらかんとした口調で、相手の問いにそう答えた。

その答えに、マリアの表情が曇る。

彼女が今日一日で会ったメンバーは、皆織姫からチョコレイトを貰ったと、
それぞれがそれぞれの表情で言っていた。

ということは、今日彼女からチョコレイトを貰っていないメンバーは、よりにもよって一番仲の良い
レニだけだということになる。

「それは……」
「ううん、織姫がうっかりなのには慣れてるから」

表情を変えないままで声を掛けようとしたマリアの言葉を遮り、レニはにっこりと微笑む。


そんな彼女に、マリアには掛ける言葉が無かった。

「じゃあ、僕も部屋に戻るよ。おやすみ、マリア」
「……ええ、おやすみなさい」

そう言って部屋を出たレニに向かい、マリアもそう挨拶を返す。
それを聞いたところで彼女はドアを閉めようとしたが、ふと何かを思い出したかのようにもう一度マリアの方を
振り返った。

「あんまり夜更かしすると身体によくないよ?」

自分が今の今までうたた寝をしていたことをすっかり忘れていたマリアは、唐突な彼女の言葉に
暫くきょとんとした顔をする。

だがすぐにそれを思い出すと、ふっと苦笑いを浮かべた。

「ありがとう、大丈夫よ。」

マリアの言葉にレニも微笑んで、彼女は静かに扉を閉める。


つい先程まで心配していた相手に逆に自分が気遣われては、元も子もないではないか。
そんなことを思いながらマリアは再び机の方へと向き直ると、備え付けられた引き出しを開ける。

そこには、彼女が今日うたた寝をしていた元凶が静かに眠っていた。

「今日で、それも終わりだから。」

彼女はそう呟いてそれを取り出すと、ふと窓の外に広がる星空を見上げる。

どうか彼女に幸あらんことを……マリアは律儀に自らの寝不足を指摘した少女のことを思い、
心の中でそう呟いた。


+++++++++++++++
はい、どうみても続きます本当にありがとうございました。
(いや、間に合わなかった訳じゃなくて狙ったんです信じて……!)

では取り敢えず、ここまでの言い訳。

さくらさん:
姫といいすみれ様といい、うちではもしかしたらこの方が一番苦労しているかもしれない。
その分大神クン編ではっちゃけさせてみました……。
いや、彼女のああいうところ大好きなのですよ。ハイ(可愛いじゃないですか! え、駄目?)

カンナ:
カッコ良いカンナさんは皆のヒーロー。男女問わず子供からチョコを貰うイメージがあります。
なんか他に比べてマトモに終わってしまいましたが……彼女についてはゲームを終えてカッコイイイメージ
がついてしまったので。
いい姐さんだと思います、うん。

大神クン:
まず最初に、全国の大神ファンの皆様誠に申し訳ありません(土下座)
何か、結局私の中ではこういう人に落ち着きそうです。
さて、そんな彼がニヤニヤしながら見つめていたチョコ。ひとつは姫からとしても残りは一体誰からのもの
だったんでしょうね?
……再び、全国の大神ファンの皆様誠に申し訳御座いません(土下座)

紅蘭:
せっかく1でヒロインになったのに、えらく短くなってしまってごめんよ。
でも、紅蘭はチョコ云々ほっぽり出して機械いじりをしていそうな気がしたので……。
完成直前の剣幕だけなら、某ロシア人並みかもしれません私の中で。
(でも短かったのは書いておいたデータが全部吹っ飛んだからでry)

アイリス:
いやぁ、ロリって難しい! 
やっぱり私は彼女をどうしても子供として扱ってしまうようです。これじゃ2でもヒロインにできそうにないなぁ。

すみれ様:
織姫のいちばんの被害者は彼女かもしれません。
そして私の中での彼女は殺人料理を作るとインプットされているのですが……まだ目撃してないんですよね。
どんなもんなんでしょう、絶対食べたくないですけど。
そしてそんな彼女が織姫から必死に守っていたモノは、一体誰の手に渡るんでしょうね?

かえでさん:
マリアと織姫が案外いい雰囲気だったので、彼女とレニももっとベタベタさせればよかったなぁと
書いた後に後悔しました。
いやぁ、いいですよねレニかえ。大きくなったらマリアから奪っちゃえ!(マテ)

マリアさん:
ええ、割とマリ姫がいつもよりベタベタしていたのは記事にあったみかんのせいです。
愛媛県、恐るべし……。
そして彼女の落とした爆弾によって姫は重大なことに気付くのですが、果たしてどうなるんでしょうね?

では皆様、ここで一旦切ろうと思います。暫くお待ちくださいませ……。
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その上最近はCPが節操無し状態になっておりますので、より一層ご注意願います。

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