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想定外でした。
まさか文字数が多くてエラーが出るとは……。

申し訳ありませんがこちらは後編です。
前編を読まれていない方は、すぐ下の記事をご覧下さい。

そして前編から来られた方は、「つづきを読む」からお進み下さいませ~


+++++++++++++++


『ハロウィンの夜』(後編)

 
「あ、さっくらさんはもう着替えたですねー。」

すみれの部屋を出てすぐに見かけたさくらに向かい、織姫が出会い頭にそう声を掛けた。

「あ、アイリスそれ知ってる。『天狗』だね。」

アイリスがさくらの顔の横につけられている面を指し、嬉々としてそう言った。

「うん、ちょっと下駄が高くて歩きにくいんだけど……。」

その言葉に一向が足元を見れば、彼女は一本歯の高い下駄を履いていた。
確かにそれは普段履きなれていなければ、彼女の言う通り歩きにくい代物である。

「でもカッコイイですよ?」
「えへへ、ありがとうございます。」

織姫の言葉に照れたような笑みを浮かべるさくらの格好は、普段の袴姿とは違う山伏のような装束。
そして手には木刀ではなく、葉でできた大きな扇子を持っていた。

織姫の言う通り、普段の可憐さとは違った勇ましさの漂う衣装である。

「織姫くん!」

そんなさくらを三人が囲んでいると、唐突に織姫を呼ぶ声が廊下に響く。

「あれ、お兄ちゃんだ。」
「大神さん。」

声のする方を見れば、和服姿の大神が彼らの方に駆け寄って来るのが見えた。
その様子は『必死』という言葉を具現化したそのものである。

「どうしたですかー?」

一方呼ばれた方の織姫は、彼とは逆にのほほんとした様子でその声に答えた。

「これ、君の仕業だろう?」

全速力で走ってきたのか肩で息をしている大神は、着物の懐から何かを取り出す。
それは人の顔の形をした面であったが、問題はその顔面であった。

「……っ!」
「あはははっ、変な顔~!」

それを見た瞬間、さくらは口を押さえて顔を背け、アイリスは心底可笑しそうに笑う。
一方レ二はあまり表情を変えなかったものの、額を押さえて本日何度目かの溜息を吐いた。

大神が示した面には、明らかに落書きと取れる眉、目、鼻、口が描かれていた。
更にはご丁寧に色を変えて、頬にはぐるぐると渦巻きが描かれている。

「えー、だって眉毛も目も鼻も口も無いなんておかしいじゃないですか。」

その落書きの犯人であるらしい織姫は、まるで自分に非は無いとでも言いたげな表情で大神に向かって
そう言い返した。

「隊長は『のっぺらぼう』だから、何も無くていいんだよ織姫。」
「なんだ、そうだったんですか。それなら早く言うでーす。」

そんな織姫に向かってレニはそうフォローするが、やはり彼女には効いていない様子である。

「君が落書きをしている時に俺が居る筈無いじゃないか……。」

がっくりと肩を落とした大神は、大きな溜息を吐いてうらめしそうに織姫を見つめた。

「……っ、でも、こ、これ落ちないんですか?」

やっと笑いを堪えることのできるようになったさくらが、面の落書きを指しながらそう問いかける。

「うーん、試したには試したんだが……洗剤で洗っても落ちなかった。」
「織姫、何で書いたの?」

大神の答えに、こちらもやっと笑いの治まったアイリスが織姫に問いかけた。

「えーっと……そんな昔のこと忘れました。」

腕を組み暫く考えた織姫であったが、ぱっと目を見開くとあっけらかんとした様子で問いに答える。
勿論、彼女に悪気は全く無い。

「衣装届いたの、昨日だよね。」

そんな彼女に、レニが的確にそう突っ込みを入れた。

「ああ、かえでさんに何て言えば……」

頼みの綱であった織姫にそう返された大神は、面を見つめて途方に暮れる。
衣装は保存されるかもしくは返却される為、このような状態になってしまっては上司であるかえでに
厳しく言われてしまうことは目に見えていた。

「と、とにかく落としましょう。私も手伝いますから!」

そんな様子を見たさくらがすぐに彼をフォローするかのように言うと、その手から面を受け取る。

「す、すまないさくら君……。」
「じゃあ、また後でね。」

どこか呆然としたままの大神の腕を取ると、半ば引っ張っていくようにしてさくらはその場を後にする。
その足取りは、履き慣れない下駄を履いているとはとても思えない。

「またね~。」

そんな彼女にアイリスはぱたぱたと手を振って、残りの二人はただその背中を見送るのみであった。

「じゃあ、あと会ってないのはかえでさんとマリアさんだけですねー。」

すっかり二人の姿が消えた瞬間、織姫は思い出したかのようにそう言った。
当然、彼女に罪悪感は欠片も無い。

「二人は何のオバケだったっけ?」

そんな織姫を見て溜息を吐くレニに対し、アイリスはきょとんとした表情でそう問いかけた。
同時に織姫もまた、レニの方に視線を向ける。

二人の視線を受けたレニは暫く腕を組んで考えると、やがて思い出したかのように顔を上げた。

「……確か……」


+++++++++++++++
 
 
「いけません!」
「そう言われても、私だけ出ない訳には……」
「駄目なものは駄目です。そんな格好で外に出たら……」
「そうよねぇ。さすがにこの季節じゃ風邪ひいちゃう。」
「そ、そういう意味ではなくてですね……」


三人がかえでの部屋の前を通りかかると、その扉の向こうから言い争うような声が聞こえてくる。
声の主はこの部屋の持ち主であるかえでと、その一番近くに部屋のあるマリアであった。

「マリアとかえでお姉ちゃん、喧嘩してるのかなぁ?」

普段あまり感情を表に出す事の無い二人の様子に、アイリスが怯えたような表情で扉を見つめる。

「でも、それにしては少し様子がおかしいような……」

一方レニは同じように扉を見つめながらも、言葉の内容に違和感を感じたのか首を傾げてそう呟いた。

「喧嘩なら止めなきゃ駄目でーす。マッリアさーん!」

すると唐突にそう叫んだ織姫が、中に居るであろう人物の名を大声で叫ぶ。
すると、それに気付いたのか室内の声が止み、やがて部屋の扉がゆっくりと開かれた。
 
そして部屋の中から現れたのは……青白い顔をした金髪の、『幽霊』であった。
 
「うわあああああ!」
「わあああああああん!」
「……」

そのあまりのおどろおどろしさに驚いた織姫は扉から遠のき、アイリスは泣きながらレニに抱きついて
その後ろに隠れる。
そしてそのレニは目をまん丸に見開いたまま、呆然とその姿を見つめていた。

そして、当の『幽霊』はといえば、 

「な、何、どうしたの?」

大騒ぎをする三人の様子に逆に驚いたような顔をして、呆然とその姿を見下ろしている。

「あら、あなたたちだったの。やっぱりマリア怖いわよねぇ。」

するとその『幽霊』の背後から、ひょっこりと馴染みの顔であるかえでが姿を現した。

「私よりあなたの方が問題です。」

彼女に名指しで怖いと評された幽霊、もといマリアは、憮然とした表情で溜息を吐く。

しかし彼女の姿は、死に装束の上に額には三角の布まで当てられており、その上病的な程青白い肌を
しているのである。

その為、かえでが彼女をそう評することも無理は無く、その証拠に三人は大いに驚いたのだ。

「あー、マリアさんは怖いですけど、かえでさんは可愛いでーす。」

そんなマリアの様子に暫く呆然としていた織姫であったが、すぐにいつもの調子を取り戻したらしく、
彼女達の方へと歩み寄る。
そしてかえでのすぐ傍まで来ると、その姿をまじまじと見つめた。

「それに、すっごくセクシーでーす!」
「そう? そう言ってくれると嬉しいんだけど……。」
「……」

織姫に絶賛されたかえでは照れたように頬を人差し指で軽く掻くが、マリアは憮然とした様子で
それを見つめていた。
すると、織姫の後ろに居たレニがひょこりと顔を出して、心配そうにこう囁いた。

「確かに似合っていると思うけど、そんな格好じゃ風邪ひいちゃうよ?」

その言葉に、マリアはまたひとつ溜息を吐く。

織姫には高評価でありながらもレニにそう評されたかえでの衣装は、『鬼』を模したものであった。
その証拠に彼女の頭には小さな二本の角が生え、きちんと虎の皮を模したものを腰に巻きつけている。

しかし、問題はそこではない。

彼女の身体は胸と腰の辺りにその虎柄の衣装を着たのみで、その他の部分は完全に露出していたのだ。

言うなれば夏場に海辺やプールで着る『水着』を着たような姿になっているのである。

これでは、いくら足に同じ柄のブーツを履いていたとしても何ら意味は無く、季節外れのその格好では
風邪をひいてしまうとレニは判断したのであった。

「そうよねぇ、やっぱり……。」

腕を組んでそう呟くかえでに続き、マリアが憮然とした表情を変えないままでこう言った。

「こういう露出の高い衣装の場合は、その下に肌色をした肌着を着るのが普通なんだけど……
 見当たらなかったのよね。」
「肌色、って……。」
「え、何か知ってるの?」

アイリスがふと何かを思いついたように呟くと、かえでがすぐにそう問いかける。
しかしそれに答えたのは、彼女ではなくレニであった。

「織姫。」
「うえっ! 私ですかー?」

唐突に名前を呼ばれた織姫は驚いたような顔をした後、腕を組んで暫く考え込む。
そして思い出したかのようにポンっと手を打つと、自ら着ている着物の袷の部分を少しずらし始める。

「あー、アレですか。それなら寒かったんで私がこの下に着ちゃいましたよ。」
「ああ、それよ。織姫が間違って着てたのね。」

袷の隙間から彼女の着ているものを見たかえでは、納得したように頷いてみせた。

「じゃあ、織姫が着ている服を返さなきゃいけないね。」
「えー、それじゃ寒いでーす。」

アイリスの言葉に、織姫が不満を漏らす。
かえで程では無いが、織姫も薄手の着物一枚の為、この季節の夜には不相応な格好をしているのは
確かである。

「そうねぇ、織姫の衣装も薄いから……可哀想よね。」
「まあ、そうですが……。」

かえでの言葉に未だマリアは不満そうではあるものの、否定をすることはない。
そんな打つ手なしといった状況の二人に、ふとレニがこんな提案をした。

「それなら、同じような肌着が衣装部屋にあったよ。確か前にすみれが着てた服だと思う。」
「本当、レニ? じゃあそれを着て行こうかしら。」

レニの言葉にかえでの表情が明るくなるが、一方では織姫は不満そうな声を漏らす。

「えー、このままの方がセクシーでいいですよー! ね、アイリス?」
「うん、とっても可愛いのに……。」

織姫の声にアイリスが頷く。どうやら、この二人にはこのままの露出が高い格好の方が好評らしい。

「う~ん、でもさすがにこの季節じゃねぇ。夏場だったらよかったのに。」
「夏だろうが冬だろうが駄目なものは駄目です。早く衣装部屋に行きましょう。」

苦笑いを浮かべたかえでを他所に、マリアはきっぱりとそう言い放つ。
普段のような冷静さを保ってはいるものの、どこかその口調は厳しく、焦りを含んでいるようにも聞こえた。
 
 
+++++++++++++++


「あなたたちも、時間になったら玄関に来るのよ。」

部屋の戸を閉めたマリアはそう言うと、かえでを伴い衣裳部屋へと向かった。

『はーい』

残された三人はそう返事をすると、二人の後姿を見送る。

「あ、そういえばお菓子貰うの忘れてたね。」

こうして二人の姿が完全に見えなくなった時、ふとアイリスがそんなことを呟いた。

「あー!」
「仕方ないよ。出発前だから皆バタバタしてるし。帰ってからゆっくり貰おう。」

大声で叫びかえで達の後を追おうとする織姫を、レニがそう呟いて制する。
彼女の言うことは最もで、恐らく今の状態の彼らにそれをねだってもすぐに渡されることは無いだろう。

「う~ん、仕方ないですねぇ。」

渋々、といった様子で織姫は呟くと、はぁ、と一つ溜息を吐く。

「そういえば織姫、お菓子貰う時に何て言うか知ってる?」

少しだけがっかりとした様子の織姫に、レニがふと問いかけた。

「え?」
「あ、アイリスさっき教えて貰ったから分かる!」
「そう、それを言わないとお菓子を貰えないんだよ?」

呆然とした様子の彼女を他所にアイリスが手を挙げながら言うと、レニが悪戯っぽい表情を浮かべる。

「えー、何ですか? 私もお菓子欲しいでーす!」
「ふふっ、それはね……」

騒ぎ立てる織姫を他所に、レニは唇に人差し指を軽く当てて微笑む。
そして彼女はアイリスと顔を見合わせ、二人は声を合わせてその合言葉を紡いだ。
 
Trick or treat.!
 
 
+++++++++++++++


一方、衣裳部屋ではかえでとマリアが肌着を探して部屋じゅうの衣装箱を開け放っていた。

「あ、あったあった。これよ。」

やっとの思いでそれを見つけたかえでが、まるで宝物でも見つけたかのように両手でそれを掲げる。

「すみれが着ていたなら、サイズもあまり気にしなくていいですね。」
「そうね、これなら着られそう。」

自らの開けた以上箱を閉じてマリアが呟くと、鏡の前でサイズを合わせていた相手は安心したような口ぶりで
そう答えた。

「でも、やけにこの衣装嫌がっていたけど……もしかして気に入らなかった?」

自分の方へと近づいて来るマリアに向かい、かえでは自分が着ている衣装を見ながら問いかける。

「いえ、そうではありません。ただ……」

マリアは彼女の問いかけにそう答えると、彼女の肩に腕を廻す。
そしてきょとんとしたままのかえでの耳元で、吐息混じりにこう囁いた。

「あなたに悪戯するのは、私だけでいい……それだけです。」
 
 
+++++++++++++++


その日の夜に行われたパレードは大盛況のままで幕を閉じ、その後は打ち上げと称した
お菓子のパーティが劇場内メンバーで行われた。

そして宣伝効果の方はといえば、劇場を出るまでずっと愚痴をこぼしていたすみれを含め、全てのメンバーが
普段通りの振る舞いで人々を魅了した為、その甲斐あってか次回公演の前売りは発売後一週間で完売。
年末の公演も連日満員御礼で千秋楽を迎えることとなる。


だが、そんな大成功を収めたこのイベントにも、二つだけ誤算があった。
 
「へぇ~、花組さん達のパレードか。こいつぁ華やかだねぇ!」
「おうよ。しかし、何で夏場でもねぇのに『百鬼夜行』なんだろうなぁ……?」
 
『ハロウィン』という行事を知らない人々の間ではこのようらやり取りが交わされ、街中では

『冬の公演は怪奇モノらしい』

という噂が広まったのである。
当然それは全くの勘違いであるが、その所為で舞台を見終えた人々の中には首を傾げて劇場を後にする者が
ちらちらと見られたそうだ。
 
そしてもう一つ。
パレードを終えた次の日、帝国劇場副支配人である藤枝かえでが風邪による高熱で一週間以上
寝込んでしまった。
原因は薄着で夜の街に出た為とされているが、本人曰く『その後に体力を使わされたのが一番の原因』
とのことである。

ちなみに、実は全く同時期に彼女の他にもう一人高熱を出していた人間がメンバーの中に居たとの話だが、
誰もそのような素振りは見せておらず、その真実は闇の中である。


+++++++++++++++
ハロウィン終了、読んで下さった皆様ありがとうございました。
やっぱりこういう行事ネタは、文字書きの身としては何をやればいいのやら悩みます。
きっといつかネタが無くなるでしょう……さて、次はどうしたものか。

相方様の描く絵のネタを考えた後、こちらはどうしようかということで出たのが『日本のお化け』。
しかし配役まで決めたのはいいものの、それで私は一体何を書けばいいのやら……。

という訳で、こんな形になりました。
何が難しいって、どんな服装なのかを文字で表すのがね……いっそ挿絵を描ければいいのですが、私に
そんな技術は無いのです。
取り敢えず、これだけを理解して頂ければ、後は読者の皆様のご想像にお任せします。

かえでさんの格好は、所謂『ラ○ちゃん』です。浮気したダーリンに電撃飛ばす彼女ですよ。
(そもそも彼女は鬼なのか? という疑問はスルーの方向でお願いします)

ね、そんな露出の高い格好じゃ……マリアが焦る訳ですよね。
だからマリアさんは姫が怖がる程の凄い形相だった訳です。
そもそも彼らはお化けを怖がるのか……きっと今回彼らが怖がったのは、やっぱり雰囲気のせいだと
思います。そういう事にして頂ければ幸いです。
では、お付き合い頂きありがとうございました!
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