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忙しいのに自分は何をやっているのか……。
いや、ね……来年とか絶対複数上げるなんて無理だと思ったので。
時間があるうちにやりたいことをやっておこうと思ったのですよ!
本命ですし、ほら……

……眠たさのせいで大分文章が乱れておりますので、さっさと本題に移りたいと思います。


かえでさん誕生日、マリかえバージョンです。
難産でした、本命のくせに難産でした……。

上記の記事とちがいがっつり百合ですので(別に年齢制限は無いんですが…)、観覧の際はご注意ください。




+++++++++++++++

(かえでさん誕生日 マリアver)

水道の蛇口を捻ると、勢いよく水が流れ出す。
その温度を冷たいと感じるようになったのはいつからだっただろうなどと考えながら、マリアは皿に付いた泡を
慣れた手つきで洗い流した。

流しには大小様々な大量の食器が、泡だらけになって並んでいる。
いくら成長期の子供と大食漢を抱えているとはいえ、普段からこれ程の量の食器が溜まることはない。


だが、今日だけは普段と違う。
血の繋がらない家族の一人が生まれた、大切な日。

そしてマリアにとってこの日は、自分の生まれた日よりも大切だといい切れる程の特別な日でもあった。

「マリア、みんな部屋に戻ったわよ。」


三枚目の皿を丁寧に洗い終えた時、唐突に名を呼ばれマリアは顔を上げる。
視線の先では少しだけ赤い顔をしたかえでが、彼女の方に顔を覗かせていた。
祝い事の日は決まって酒を大量に飲む筈の彼女としては珍しく、酒や騒ぎすぎた疲れで潰れていく面々を
他所に、彼女はマリアと同じようにしっかりと意識を保っていた。


しかし全くのシラフという訳では無い為、その名残が顔に出ているのであるが。

「あ、お皿洗ったんならこっちで拭くわよ。貸して。」


一人で食器を片付けている様子を見たかえではすぐにマリアの方へと駆け寄ると、濯いだ食器を片付けようと
掛けてあった布巾を手に取る。

だがマリアはすぐにかえでの手を制し、首を横に振った。

「いえ、今日の主役に手間を掛けさせる訳にはいきませんから。先にお部屋で休んでいて下さい。」


マリアの言葉の通り、今日の主役は他でもないかえでである。
年に一度しかない記念日にこんな雑用をさせるのは、いくら忙しいこの状況であったとしても気が引ける
というもの。

だがそんなマリアの心境を他所に、かえでは濡れたままのマリアの手を取ると、申し訳無さそうな表情で
こう囁いた。

「いいのよ。さくらを潰しちゃったのは私なんだし。」


かえでの言葉に、マリアはふと宴会での出来事を思い出す。


ほろ酔い程度に酒の入ったかえでは、飲める人間だけでは飽きたらずさくらに酒を勧めたのであった。
確かに以前酒を飲んで劇場を半壊させたアイリスや、お屠蘇程度で酔ってしまうすみれに勧めなかったことは
今となっては不幸中の幸いだと言えるだろう。
しかし、普段飲まない人間には勧める量が多すぎた為に、さくらは終盤には完全に机に突っ伏してしまった。

普段このような場で最後の片付けを行う事が多いマリアを手伝うのが彼女であった為、後片付けの手間が
倍になってしまったのは確かに事実ではある。

 
「元凶として、このままあなた一人に任せてしまう訳にはいかないもの。だから、手伝わせて。」

かえではマリアを見上げてそう言うと、彼女が持つ皿に向かって手を伸ばした。


これは、いくら休めと言っても動いてくれそうに無い。
普段の彼女の様子をよく知るマリアはそう考え、にっこりと相手に微笑みかける。

「では、御言葉に甘えさせて頂きます。」


この場で押し問答を繰り返しても仕方がないと、マリアは素直に彼女の行為に甘えることにした。
そうなれば、仕事は早く終わらせてしまうに限る。

――できるのなら、まだ記念日であるうちに。

「はいはい、甘えて下さいな。」


差し出された皿を受け取ったかえではにっこりと微笑み、慣れた手つきで皿の水気を丁寧に拭き取った。
 
 
+++++++++++++++

 
「でも、みんながこんなパーティーを開いてくれるなんて思わなかったわ。」

他愛のない話をしながら二人が最初にあった量のうちの半分程の量を洗い終えた時、唐突にかえでが呟く。
マリアは皿を濯ぐ手を止めずちらりと彼女を一瞥した後、その言葉に耳を傾けた。

「昨日の夜もあなたと一緒に居たのに、全然気づかなかったもの。」


隠し事が上手いわね……と笑って、かえではマリアを見上げる。

「みんなの計画を、私がバラしてしまう訳にはいきませんから。」

昨晩の記憶を反芻しながら、マリアは再び相手をチラリと見る。

仮にも役者である彼女は確かに隠し事が上手いといえるが、それでもかえでに皆の計画を悟られないように
彼女は細心の注意を払った。


プライベートな時間を彼女と過ごすことが最も多いのは、他でもない彼女である。
その上、彼女マリアが二人で過ごす時間は……他のどんな時間よりも安らげる『恋人の時間』。
緊張の溶けたその時間にうっかりと口を滑らせてしまうことが、いくらマリアであっても無いとは断言できない。

「ふふっ……ホントに驚いたわよ。それに嬉しかった。」


マリアから手渡される皿を受け取りながら、かえでは目を細めて呟く。
頬に赤がみかかったままで話す彼女の心を、マリアは勿論読み取ることなどできる筈も無い。


しかしそうであっても、相手の言葉に全く偽りが無いことだけは彼女にも分かった。

満員御礼で迎えた千秋楽の舞台を見つめている時や、誰も負傷することなく戦闘に無事勝利した時……
決まってかえでは今のように、とても幸せそうな顔をする。
そんな眼差しを湛えて彼女はマリア達を出迎えると、幼いレニやアイリスを抱きしめ、他の少女達に労いの
言葉をかけるのだ。


そんな表情のかえでをまるで母親のようだと横目で見ていたマリアは、ふとかえでが自分の方を見た事に
気づき視線を彼女の方へと移した。

「ありがとう、マリア。」


彼女の口から紡がれた感謝の言葉を、マリアは今日だけでもう何度聞いただろう。
それでも彼女は不思議と、その心地よい声音で紡がれるその言葉を何度聞いても飽きることはないのだと
思えた。

「それは、皆におっしゃって下さい。」

にっこりと微笑んでまた視線を皿へと戻したマリアは、再び皿を手に取り水に潜らせる。

「言ったわよ、沢山。だって本当に嬉しかったんだもの。」

それにつられるようにしてかえでもまた、手にある皿に視線を移す。
濡れたままの皿を丁寧に布巾で拭く彼女の表情は、その言葉通りのものであった。

「でも、誰よりも最初にプレゼントをくれたのはマリアだから。」


かえでがその言葉を呟いたのと同時にマリアが手に取ったのは、あれ程の量があった皿のうちの
最後の一枚。
その泡が皿の縁を流れて流し台に落ちた時、マリアはそれを持ったままかえでの方を見つめた。

「今日最後のありがとうも、私はあなたに言いたいの。」


見つめられた方のかえでは、手渡された皿の水気を拭き取り先程までと同じ手順で重ねると、手が止まった
マリアの顔を見上げた。

「……気づかれていたんですか?」

悪戯がバレた子供のような表情を一瞬だけ見せたマリアは、手に持った最後の皿を水の中にくぐらせる。

「ついさっき、ね。時計を気にしていたみたいだから。狙っていたんでしょう?」

かえでの言葉を聞きながらマリアは蛇口の水を止めると、最後の皿をかえでに手渡した。
くすくすと笑いながらかえではそれを受け取り、また水気を布巾で拭き取る。そしてそれを重ねたところで
彼女がふとマリアを見上げれば、相手の顔は自らのそれのすぐ目と鼻の先にあった。

「敵いませんね、あなたには。」

吐息のかかる程の距離でマリアは囁くと、目を見開いたかえでの額にひとつ口付けを落とす。

その唇は瞼、頬へと徐々に降りていき、最後にマリアはかえでの唇に軽くキスをした。

……日付が変わった瞬間に施した、彼女への最初の祝福と同じように。

そしてくすぐったそうに目を閉じたままのかえでの身体を、ぎゅっと強く抱きしめる。

「じゃあ、今日最後のプレゼントも……私から差し上げます。」
「今これだけ貰ったのに?」

マリアが耳元で囁くと、かえでは彼女の胸元に顔を埋めたままで問いかける。
ちらりと垣間見える彼女の頬が赤く染まっているのは、恐らく酒のせいだけではない。

「はい。私の気持ちは、いくらあげたとしても足りませんから。」

ゆっくりと言葉を紡ぎながら、マリアはかえでの後ろ髪を撫でる。
すると彼女は埋めていた顔を上げ、まだ頬に赤みを湛えたままでにっこりと微笑んだ。

その笑顔は先程までの『お母さん』のようなそれとは、少しだけ異質なものであった。

「じゃあお礼は、来年のあなたの誕生日でも構わない?」

小首を傾げて問いかけるかえでを見下ろしながら、マリアもまた口元に笑みを浮かべる。

そしてその問いかけには、彼女は少しだけ意地の悪い答えを返した。

「……もしも今すぐに頂きたいと私が言ったら、どうしますか?」

マリアの言葉に一瞬だけきょとんとした表情を浮かべたかえでであったが、すぐにそれを苦笑とも取れる
微笑に変えると、マリアの首に腕を廻す。

「もう、我侭ね。」

少しだけ背伸びをしたかえでは小さくそう呟いて、マリアの唇にひとつ、お礼の口付けを施した。
 

記念日が終わりを告げるまで、あとほんの数時間。
皆と過ごすそれとはまた違った幸せを噛み締めながら、恋人達は二人だけの夜へと誘われた。


+++++++++++++++
自分は本当にギャグしか書けない人間だと思い知りました。
カッコイイマリア……難しい(泣)
精進しようと思います、ええ、もう5年くらい妄想だけ排出したいくらいですよ……ああ……。

 
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