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タイトルには2つの意味が込められています。

まさかの3本同時上げ。
そしてまさかの『かえすみ』話ですよ。

上げていいんでしょうか、相方様……?

取り敢えず注意事項ですが、上記マリかえ記事と同様がっつり百合です。
更に『かえすみ』という未知のカップリングである為、キャラがもう別人になっているような気さえします。

その為観覧される前に、今一度よく考えてからクリックすることをお勧めします。




+++++++++++++++

(かえでさん誕生日 すみれver)

ついこの間まで暖かかった風を肌寒く感じるようになって早数ヶ月。

日本人ならば、虫の鳴く声に風情を感じる秋の夜。
そして、大人にとっては未だ眠ってしまうにはまだ少しだけ早いこの時間。

食堂やサロンで談笑している仲間から離れ、すみれはひとり自室に篭っていた。


彼女は特に何をするでもなく、ただじっと椅子に座ってある一点を見つめている。

その視線が注がれているのは、真っ白の液体が入った銀色のボウルであった。
それはもう穴が開くほど見つめ続けて、もうかれこれ一時間程度。

「……」


そんなに長い時間彼女が見つめるこの液体は、珍しいものでもましてや危険なものでもない。

単なる『生クリーム』である。

朝食や湯上がりに好んで飲む人の多い牛乳と、元を辿れば同じような物質のそれである。

ただ、彼女が買い付けたそれは市販されているものよりも少しだけ『お高い』のではあるが。

「……」


彼女はとある計画を実行に移す為、数日前にこれを取り寄せた。
しかし肝心の使い方が分からずあれやこれやと試してみたものの、未だにそれが解明できないで
いたのである。


そして今日もまた、彼女が考えた試案の一つが失敗に終わり、途方に暮れたすみれは呆然と
白い液体の入ったボウルを見つめていたのだ。

「……どうして、固まらないんですの?」


呆然としたままでひとり呟いたその言葉を、彼女が発したのはもう何度目だろうか。
彼女は生クリームを取り寄せてからずっと、試行錯誤を繰り返してそれを固めようとしていたのである。

とある大切な人の記念日を、自らが作ったケーキで祝う為に。


当初の予定では土台から作ろうと計画していたが、どうしても生地がうまく焼けなかった為に断念した。
その為既にスポンジの土台は市販のものが用意されているものの、それを彩る筈の生クリームが
ずっと液体のままなのである。


最初は鍋に入れて温めてみた。
しかし危うく火事になるという寸前まで熱しても、それが固まることはなかった。

次は逆に冷やしてみた。

冷蔵が駄目であったが為に更に温度を下げてみたものの、ガチガチに凍りついただけで
あの柔らかさを出すことはできなかった。


スポンジにかければ自然に固まるのではと、液体のまま流し込んでもみた。
しかしながら液体は液体のままで、無惨に床の上に流れ落ちるだけであった。

そして今回の常温作戦である。
敢えて温度を与える事なく放っておけば何かしらの反応が起きるかもしれない……と考えてのことであったが、
結果は先程述べた通りであった。


すみれはすっかり生ぬるくなってしまったクリームを見つめ、はぁ、とひとつ溜め息を吐く。
失敗する度に何度も吐いてはいたものの、今日のそれの深さは計り知れない。
何故なら、彼女の大切な人の記念日が今日であり、既にもう劇場の皆で祝ったパーティが終わりを告げて
しまったような時間であるから。


大切な人の記念日が終わるまで、あと数時間。

日付けが変わってしまっては、これまでの彼女の苦労は全て水の泡となる。

だが、できるだけ秘密裏にそれを行いたかった彼女はこのことを誰にも話してはおらず、結局はそれが
裏目に出てしまった結果となった。

これ以上、すみれの頭の中に生クリームを固められそうな方法など残ってはいない。
いや、もし残っていたとしても……

コン、コン
 
途方に暮れていたすみれの耳に、突然部屋のドアを叩く音が響く。
はっと我に返った彼女は素早くボウルを手に取るが、切羽詰まったこの状況ではすぐに隠し場所を
見つけることができない。

すると再び二度、ドアが叩かれる音が室内に響いた。

「すみれ、入るわよ?」


しかも今度は声付きで。一度目に返事を返さなかった為に、ノックの音も先程より大きい。

そしてその声は、彼女が今最も聞きたくない声であった。

彼女は直ぐに入るなという旨を伝えようとしたが、彼女が口を開くより早く声の主によって扉は開かれる。
慌てたすみれは手に取ったボウルを抱きしめたが、当然彼女の振袖で隠し切れるものでもない。


「ちょっと今度の公演の件で……って、あなたこんな所で何やってるの?」

書類を片手に入ってきたかえでは、ボウルを抱えたままのすみれを見て訝しげな顔をする。

「ど、どうぞと申し上げた覚えはありませんわよ!」

明らかに動揺した様子で叫ぶすみれであるが、その状態ではいくら怒りを示したとしても迫力は皆無である。
ましてや普段から彼女の高飛車な言動をものともしないかえでが、それで引き下がる筈も無い。

彼女は扉を閉めてつかつかとすみれの方へ歩み寄ると、抱えられているボウルの中を覗き込んだ。

「生クリーム……って、何でこんなところで料理してるのよ?」


流石に料理を趣味とするだけあり、かえでは一目見るだけで白い液体が何であるかを言い当てる。
更にそれを見た上で彼女はすみれを見ると、咎めるような口調で問いかけた。

「い、いけませんの?」
「駄目よ。部屋も服も汚れるし、下手をしたら菌が入って大変なことになるわ。」

クリームが固まりさえすれば、あとはスポンジ台に塗って終わりだと思っていたすみれの問いかけに、
かえでは溜め息混じりに答える。

「とにかく、今から作るなら厨房に行きなさ……いや、私も行くわ。」


衛生上の問題からすぐにすみれに厨房へ向かうようにと言いかけたかえでであったが、
何かを思い出したような顔をして、すぐに言葉を言い換えた。

「べ、別にかえでさんがいらっしゃらなくても……」


出来れば秘密裏に行いたい上、かえでにだけはこの作業を見られたくなかったすみれは動揺しながらも、
必死に同行を断ろうとする。

だがそんなすみれの言葉を、かえでは呑もうとはしなかった。

「この間鍋焦がしたのあなたでしょう? 一人でなんて置いておけないわよ。」
「う……」

かえでの言葉に、すみれは以前生クリームを熱した時の事を思い出す。
それはあれだけ白かった液体ですらも、あまりに長い時間火にかければ黒く変わってしまうのだと
彼女に痛感させた出来事であった。


痛い所を突かれた為に言い返す事が出来なくなったすみれからボウルを取り上げると、かえでは
無言で固まるという反応を是と取ったのかドアに向かって歩き出す。


そして取り上げられた本人はといえば、大人しく彼女の後をついていくしか道は残されてはいなかった。

 
+++++++++++++++
 
 
「で、ケーキを作るのね。土台があるなら後は形を作るだけだし……果物は私が切るから、
 生クリーム作ってちょうだい。」


洋服のかえではエプロン、和服のすみれはたすき掛けに割烹着という姿で厨房に立ち、
料理に慣れている前者がテキパキと指示を出す。

「これ、混ぜるんですの?」


結局相手に聞かれるがままかえでに全てを話したすみれは、泡立て器と生クリームの入ったボウルを渡され
呆然とする。

訝しげな彼女の言葉にかえではそちらを向くことも無く、すみれが買い揃えた果物をまな板に並べながら、
さも当たり前であるかのようにこう切り返した。

「そうよ、固まるまで。ちょっと重労働だけど、あなたなら大丈夫でしょ。」


彼女の言葉は、すみれにとって余りにも衝撃的なものであった。

「……」


彼女はじっと、液体のままの生クリームを見つめる。
このドロドロとした液体が、たかだか混ぜるだけで固まるとは彼女には到底理解できなかった。

だが、普段から料理を得意とするかえでの言葉が偽りだとも思えない。
その上、確かに彼女は未だ生クリームを混ぜるという実験は行なっていないのだ。
試してみる価値は十分にある。

「混ぜれはいいんですのね、混ぜれば。」
「そうよ、混ぜればいいのよ。」

慣れた手つきで苺を切るかえでの言葉を聞きながら、すみれは泡立て器をしっかりと握りしめた。
生クリームさえ固まってしまえば、後はそれを塗って飾りつけをするだけである。
果物を切るということはかえでに実行されてしまったものの、それ以降は自分でできると言い張れば
彼女はこれ以上無理に手を貸すことはしないだろう。
それくらいならば、これを自分で作ったと称して何ら問題は無い筈である。

そうすれば、これを贈り物として……。

すみれはそんなことを考えながらふと壁に掛かった時計を見つめた。
まだ今日の終わりまで一時間以上ある。
どうにか記念日のうちに贈り物が完成しそうだということにほっと息を吐いて、すみれはぱしゃぱしゃと
生クリームを混ぜる作業に没頭した。
 

だが、彼女はその時点では全く想像すらしていなかった。
生クリームを混ぜるという作業が、どれだけ重労働であるかということを……。


+++++++++++++++

 
「うわぁ、美味しそうじゃない。」
「……」

自らの掌を重ね合わせて感嘆の声をあげるかえでに対し、すみれは疲れきった様子で目の前のケーキを
見つめていた。

いくら普段から鍛えているとはいえ、生クリームを固める作業は、やはり彼女にとってかなりの重労働だった
のである。


卵を混ぜるくらいの時間では全く変化しなかった。
かえでが果物を全て切り終わっても、少しだけ手に重みが加わっただけでとても飾りに使えるような
固さにはならなかった。

しかしかえでが替わろうかと声を掛けても、持ち前の負けず嫌いがそれを許す筈が無く、結局彼女は
ヘトヘトになりながら生クリームを完成させたのである。

そしてその後の作業は、すみれにとって屈辱的なものであった。


不慣れな事に加えて利き腕の疲労感からすみれは中々上手くクリームを塗ることができず、それの手直しと
飾り付けを全てかえでが行なったのである。

彼女の手慣れた手付きを、すみれはただ魔法でも見ているかのような感覚で見つめているだけ。

そして今彼女の目の前にあるのは八割以上をかえでが製作したケーキであり、どれだけ見方を変えても
すみれが作ったことになる筈も無い。

その為彼女は、ケーキの完成を喜ぶかえでを横目で見ながら大きな溜息を吐く他無いのであった。

「でもこれ、一人で食べるには多すぎるんじゃない? 誰かにあげるの?」

最近全く作ってはいないとすみれに告げていたかえでは暫く久々のケーキの完成を喜んでいたが、
ふと我に返ったのか根本的なことを彼女に問いかける。

「……それを、今更仰るんですの?」


スポンジ台の大きさを見た時に気付くべき点であることに呆れながら、すみれは不機嫌そうな顔のままで、
はぁ……とひとつ深い溜め息を吐く。

そして調理台の隅に放置してある、スポンジの台が入っていた箱の中から一つの小さな袋を取り出した。
その中には幾つかのアルファベットの形をしたチョコレートが入れられていることが、外からでも見てとれる。


すみれは手にしたその袋をかえでの目の前で開封し、ふと壁に掛けられている時計を一瞥した後、
中から一つの文字を取り出した。

「H?」


出来上がったケーキ中央の空間の左端に置かれたその文字を、かえでは声に出して読み上げる。

「……」

すみれはそれに答える事なく、淡々とケーキに文字を並べていった。

Hの次はA、そしてPが二枚。次がY、下段に移りB、I、R、T、H……。


並べられていく文字を眺めていたかえでの頬が、文字が増えていくに連れて赤くなってゆく。
一方黙ったまま文字を並べていくすみれもまた、俯いたままではあるもののかえでの頬と同じ色に自らの
それを染めていた。


そして焦げ茶色だったその文字が淡いオレンジ色に変わると、アルファベットはある人物の名前をすみれの
代わりに告げた。

『KAEDE』


全ての文字を並べ、すみれは調理台の上に手を降ろす。
ケーキの中央に並べられた言葉……自らの誕生日を祝うそれを、かえでは暫くの間呆然と眺めていた。

「ああ……そういう事、ね。」

真っ赤になった頬の色は戻ることの無いままで、かえではぽつりと呟く。

「気づくのが遅すぎますわよ。」

同じく頬を染めながらも憮然とした表情のままですみれは呟き、ふいっとそっぽを向く。

「そっか、誕生日よね……私。」
「……ええ、まだ十分ほどは。」
「さっきパーティしたばかりよね、うん。」
「ここまでしないとお分かりにならないなんて、鈍いんじゃありませんの?」

呆然としたままで呟き続けるかえでと、不機嫌なままのすみれの淡々とした会話が続く。

すみれがこのケーキを贈りたかったのは、隣に居るかえで本人であった。

誕生日が近いことに気付いた彼女は、財力を駆使した物を贈るのではなく、何か自分自身の手で
作ったものを贈りたいと考えたのである。

悩んだ末に浮かんだのが、定番のケーキであった。

それを彼女の誕生日になった瞬間に、一番初めの『おめでとう』の言葉と同時にすみれは贈りたかったの
だった。

花組の全員で行う定番のサプライズパーティでも確かにケーキは出されるのだが、大人数で分ける為
どうしても個人の取り分は少なくなってしまう。
その為、夕方開催のその時にうんざりすることは無いだろうと予測してのことであった。

だが、生クリームに思いの他苦戦を強いられた為にあれよあれよと予定は遅れ、ギリギリの時間に
間に合ったかと思えば、贈ろうとしていた本人にケーキを殆ど作らせてしまうという体たらく。

完全に、今年のかえでへの誕生日プレゼントは失敗に終わってしまったのだ。

『……』


すみれの言葉が切れると同時に、かえでもまた暫く黙り込んだまま何も言わない。
そして当然、自己嫌悪で気落ちしているすみれに何か言う気力が残っている筈も無く、暫く気まずい沈黙が
辺りを支配した。

そしてこのままずっと沈黙が続くのなら、目の前にあるこのケーキを潰してしまおうかとまですみれが
考えた時、ふと彼女の身体が温かいものに包まれる。

驚いたすみれが目を見開けば、かえでが彼女の身体を強く抱きしめていた。

「……ごめん、気づかなかった。」

唐突な行動に固まってしまったすみれの耳に、かえでの囁きが響く。
その声のトーンは普段よりもずっと落ちていて、彼女が如何に申し訳なく思っているかということを
嫌が応にもすみれに感じさせた。

「本当ですわよ、最初に来るなと申しましたのに。」

抱きしめられたままで、すみれは彼女に向かい不満を漏らす。
それはまるで、母親に向かって駄々をこねる子供のようであった。

「ええ、そうね。」

かえではすみれの後ろ髪を撫でながら、彼女の言葉に相槌を打つ。

「そもそも、生クリームを持っている時点で気付くべきですわ。」
「ホントにね、さっき食べたばかりなのに。でも、まさかあなたが祝ってくれるなんて思わなかったんだもの。」

「失礼ですわね! 私は……」

かえでの言葉に思わず声を荒げたすみれは、顔を上げてじっとかえでの顔を見つめる。
そしてきょとんとした顔のかえでに向かい、その勢いのままでこう言い放った。

「私は大切な人の記念日を祝わない程、薄情な女ではありませんわ!」

その言葉を言い終えると同時に、かえでから顔を背ける。

「ホント、そうね。あなたは誰よりも優しいから……。」

すみれの言葉に暫く呆然としていたかえでであったが、すぐににっこりと優しい笑みを浮かべて
再び彼女を抱きしめる。

一方すみれの方はと言えば、勢いで言ってしまった自らの台詞の内容に再び頬を真っ赤に染めていた。
 
 
+++++++++++++++
 
「さ、ちょっと夜遅いけど食べましょうか、コレ。せっかくあなたに貰ったんだし。」

暫くすみれを抱きしめていたかえでがやっと彼女を解放した時、ふと調理台のケーキが目に入る。

「貴女がお作りになったんじゃありませんの。私は殆ど関わっておりませんわよ。」
「まあ、そんな事言わないで。」

このケーキにあまりいい思い出の無いすみれは着ていた割烹着を脱いでふんっと顔を背けるが、
かえではそれを宥めながらじっとそのケーキを見つめる。

「私はあなたと一緒にコレを作ることができただけで、幸せなんだから。」

ケーキの中央に並べられた文字のひとつに指で軽く触れると、かえではにっこりと言葉通りの幸せそうな
笑みを浮かべる。
その顔をチラリと見たすみれは、ふと自分が未だケーキの上の文字と同じ言葉を相手に告げていないことに
気付いた。

「……お」
「ん?」

気恥ずかしさからなかなか咽喉を通らない言葉を、すみれは無理やり絞り出す。

自らの想いの全てを、あと残り数分しか無い今日を祝う言葉に託して。

「御誕生日、おめでとうございます……かえでさん。」

その言葉の後には三度目の抱擁と、ケーキよりもずっと甘い口付けが待っていた。



+++++++++++++++
取り敢えず最初に浮かんだのが『液体の生クリームを見つめ呆然とするすみれ様』。
しかしそれが浮かんだだけで『イケる!』と思ってはいけません。
見切り発車は、見切り発車だけはいけません……。

ということで、きっとどこにも需要が無いであろうかえすみ版をお送りしました。
もしも読んで下さった方がいらっしゃったのなら……どうもありがとうございました。
こ、こんな風でごめんなさい(土下座)
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