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 皆さまおはこんばんちは! 月末のサクラジヲのゲストに狂喜乱舞している当方でございます。

いやあ、こちらの予想通り! しかしこんな幸せな的中のし方でいいのかしら……!
某所で発見して以降、脳内がずっと祭り状態でございます。
今月はかえでさんの中の人のイベントもありますし、レディボイスの無双っぷりが素晴らしいでございますよ!


とまあ、そんな血迷った前書きはともかく。
この久し振りの更新の理由、皆様はもうお分かりですよね?

はい、盛大に遅刻しましたが『すみれ様誕生日おめでとうございました』更新でございます(土下座)

多忙だったり風邪ひいたり色々ありましたが、何はともあれ言い訳は致しません。
ごめんなさいすみれ様、取り敢えず一カ月越さなかったことだけでも褒めて……ッ!

新年早々こんな感じで、誠に申し訳ございません。拍手も沢山頂いているというのに!
皆様、本当にありがとうございます。

では今回は特にカプ指定もありませんので、興味のある方はお進み下さいませ~。

【本日の戯言78】
サクラジヲ、どうやって一般人を装って質問メールを送ればいいのかと日々考えております。
そりゃ勿論あからさまなのは出しませんが、聞きたいことは沢山あるよ浪漫堂閉店イベントとか(今更)
しかしまあ、取り敢えず『太正桜に浪漫の嵐!』と声を合わせて言ってくれるのと、アップされる恐らく隣り合っているだろう写真に胸の高鳴りがMAXです☆
マリかえ楽しみ過ぎるぅぅぅぅ~!!!





+++++++++++++++


※この話はすみれ様引退後の妄想の産物です
今後の公式の動きによっては、多少矛盾が出るかもしれません。ご容赦下さい
(まあ、何を今更! という感じではございますが・笑)


*    *    *   
 

「レニ、アイリス」

賑やかだった正月も明け、浮き足立った人々がまた日々の生活へと戻ったある日。
祖国から日本を訪れた両親の元から劇場へと戻りレニと共に中庭で飼い犬と遊んでいたアイリスは、自らの
名を呼ぶ声に顔を上げた。
振り返った視線の先に、劇場の副支配人であるかえでがひとり。普段から明るく微笑んでいることの多いその
顔は、今日はいつも以上に輝いている。
近づいてくるかえでの方を見つめたまま立ち上がったアイリスは、何かあったのかとかえでに問いかける。
すると彼女は笑みを崩さないままで二人を見下ろすと、その言葉にこう答えた。

「ええ。これを見れば、あなたたちにも分かるわ」

言葉と同時にかえでが持っていた書類の中から彼女に差し出したのは、薄い黄色で彩られた少し厚い紙。
隣のレニには、濃い青色の紙。どちらも中心でふたつに折り曲げられている。
手渡された二人はほぼ同時にそれを開け、中身を見ると同時に顔を見合わせた。
そしてアイリスは嬉しそうに微笑み、レニもまた口元に穏やかな笑みを浮かべ、声を合わせてこう言った。
勿論、声の大きさはそれぞれなのだが。

『すみれの誕生日会の招待状……!』

二人の言葉に、かえではまたにっこりと優しい笑みを浮かべて頷いた。
 
 
 
時は一月八日、すみれの誕生日当日。
その晴れの日に彼女の邸宅で行われるという華やかなパーティーに招待され、花組の面々はかなり
浮き足だっていた。特に豪勢なパーティーに参加した経験のあまりないさくらは、薄い桜色の招待状を受け
取っただけで緊張し、ガチガチに固まってしまっている。一方赤い招待状を受け取ったカンナは、すみれ直筆の
追記に口で悪態をついていた。最も、その口元にはうっすらと笑みが浮かんでいるのだが。
緑色の招待状を受け取った紅蘭は早速そのお礼にと発明品をプレゼントすると言い出し、白の招待状を
受け取った大神が慌ててそれを阻止するという一幕も。
そんな様々な表情を見せた面々の中、比較的落ち着いた反応だったのが黒い招待状を贈られたマリア。
だが彼女も同じトッフスタアとして花組を引っ張ってきた思い出が蘇ったのか、すみれがよくティータイムを
楽しんでいたサロンの椅子に腰掛け、じっと招待状を眺めている。

 
そして中庭のベンチに腰掛けそれぞれの招待状を眺めていたアイリスとレニの元に、濃いピンク色の招待状を
かえでから受け取った織姫が加わり、花組の中で年少組の3人はお互いのそれを眺めながら話に花を
咲かせていた。
どんなパーティーになるのかという想像から始まったそれは、すみれが花組に所属していた頃の思い出話に
なり、やがてどんなプレゼントを贈ろうかという話へと変わる。三人の口からそれぞれ出てくる品物を受け取る
すみれの姿を想像したアイリスは、やがて考え込むように腕を組んで首を傾げた。
苦楽を共にした仲間であったこともあり、彼女を含めた三人の考えるプレゼントはどれもすみれに相応しいもの
である。彼女に似合う髪飾りやアクセサリー、シンプルに花束、またさくらやマリアに教わり既に自分たちだけで
作ることができるようになった手作りの品等々。
どんなものをあげたとしても、きっとすみれは喜んでくれるだろうとアイリスは思う。
たとえ、口ではどんな皮肉を言っていたとしても。

だが、アイリスにはその全てにおいて何かが足りないように思えた。それは恐らく相手であるすみれではなく
送り主である彼女自身の気持ちの問題であるということに当人も薄々勘づいていたのだが、しかしどうしても譲ることはできない。
すみれが帝劇を離れてから初めての『誕生日プレゼント』を、アイリスは妥協したくなかったのである。

「すみれさんは何でも自分で買えますからね~。ワタシもちょっち苦労しました」

織姫はそんなことを言い、そして「まあ、ワタシもそうですけど」と付け加えた。

「プレゼントは値段じゃない。どんなにささやかな物でも、贈る人の気持ちでその価値は高まる。人の気持ちは
お金では買えないよ、織姫」

レニはそう静かに、しかし力強く囁いて織姫を見つめる。
すると織姫は心外だというように眉を吊り上げ「そんなこと分かってまーす!」と叫び頬を膨らませた。

レニの言うとおり、アイリスがどうしても納得できない理由はそのものの値段が問題という訳では無かった。
織姫と同じようにアイリスもまた欲しいと言えば与えられる環境に在るのだが、高価なプレゼントよりももっと
価値のあるものがあるということは自らの経験でよく知っている。織姫もそうだからこそ、レニの指摘に声を
荒らげたのだろう。

では、一体何を贈ればいいのだろうか。
ふりだしに戻ったことを告げるアイリスの言葉に、レニは少しだけ眉をひそめ、織姫は盛大に溜め息を吐いた。

「アイリスは、今までどんなものをプレゼントしてたの?」

レニからの問いかけに、アイリスは目を見開く。彼女の言葉に興味を惹かれたらしい織姫もまた、キラキラと
した視線をそちらへと向けた。

そんな二人の視線を感じながら、アイリスは自らの記憶の海に思いを馳せる。

初めての誕生日、彼女がすみれに贈ったのは花束。さくらと共に外出した際、花屋で見つけたものであった。
次の年はすみれの花の刺繍が施されたハンカチーフ、その次はマリアを手伝いパーティーに出される料理を担当。その後次々と彼女の口から出てきたものは、どれもささやかな、しかし彼女の気持ちが込められたもの
であった。

アイリスの脳裏に、プレゼントを渡した当時の様子が浮かぶ。そこに現れる思い出の中のすみれは、彼女から
のプレゼントをいつもどこか優しげな表情で受け取っていた。

そして形の残る物は、いつも彼女の部屋の目立つところにずっと飾られていたこともアイリスは知っている。
彼女に呼ばれて一緒にティータイムの時間を過ごした時、「貴女に差し上げますわ」と言って何かをプレゼント
される時……アイリス自身がその部屋に招かれ、そして目にしたのだ。勿論そこには、他のメンバーからの
贈り物も大切に飾られてあったことを彼女は覚えている。

とうの昔に荷物は全て運び出され、がらんとしてしまったすみれの部屋。そこにかつてはそんな情景が
広がっていたことを思い出し、アイリスはその目頭が少しだけ熱くなるのを感じた。

扉を開けた先で自らに向かい微笑む彼女は、もうここに居ないのだ。
 
パチン
 
唐突に響いた乾いた音に、アイリスははっと我に返る。
音の方へと視線を遣れば、織姫が満面の笑みを浮かべているのが目に映った。

このような表情を浮かべた織姫が次に発する言葉は、大概が思いもよらないこと。
それはアイリスだけでなく花組の皆が痛感していることであった。

「こうなったら、すみれさんに何が欲しいか聞きに行くでーす!それがイチバン手っ取り早いし」

予想通りとも言える突飛な発言に、アイリスはぽかんと口を開ける。
プレゼントを贈る相手に何が欲しいのかを聞くというのもさることながら、遠く離れた場所に居るすみれに会いに
行こうと言うのだ、彼女は。

二重の意味で驚かされるその意見を聞き呆然としたアイリスは、溜め息を吐いたレニをぼんやりと見つめながら、ふとすみれに最後に会った日はいつだったかと数え始めた。

「……川崎まで?」

新年、大晦日、クリスマス公演……時を遡るアイリスの目の前で、訝しげな表情のレニがそう織姫に
問いかける。

「もっちろん。明日は丁度お休みですから、皆さんにはナイショで」
「どうやって?」

にっこりと微笑んで唇の前に人差し指を立てた織姫に、レニは再び問いかける。
一カ月前までの記憶の中にすみれの姿を見つけられなかったアイリスの意識は、今度は過去の公演を
遡り始めた。

「前に行ったことがありますから、大丈夫てすよ!」

ふんぞり返る織姫に、レニはまた溜め息を吐く。
確かに過去すみれの見合いを止める為に押し掛けたことはあるものの、それは何年か前の出来事。
更にはその当時帝劇に居た全員が共犯者、つまりは皆で行ったきりなのである。
今ここに居る三人だけで川崎を訪れたことは無い。

しかしどこからそんな自信が沸き上がってくるのか、織姫がレニの忠告に怯むことは無かった。

暫くのやりとりの後、ついにレニは相手の提案を飲むことにしたらしい。
だが勿論その表情には、仕方が無いという彼女の心情がありありと現れているのではあるが。

すると織姫は満足げな笑みを浮かべた後、視線をアイリスの方へと向ける。
そして目を見開いた彼女に、パチンとウインクを投げかけた。

「もっちろん、アイリスも一緒に行きますよね?」

織姫の声に、アイリスは答えない。
だがその代わりに、彼女はゆっくりと深く頷いた。
 
彼女は、思い出したのである。
大切な大切な仲間に、もう三ヶ月も会っていないということを。

そして、気づいたのだ。
彼女はすみれに会いたくて、どうしようも無くなってしまったということに。
 
 
*     *     * 


朝食を摂ってすぐにさくらに浅草へ行くと言伝て劇場を出た三人が、地図と記憶を頼りに川崎へと着いたのは
昼過ぎのこと。言いだしっぺである織姫が予想通りに寝坊したせいもあり、到着時間が予定よりも大幅に
遅れてしまっていた。
浅草に行っただけで帰りが日没以降になる訳にはいかない。普段行き慣れたその場所で長居をすることなど
皆無であり、周りに怪しまれることは目に見えている。特に、最近は少なくなったものの、ことにアイリスには
口煩く小言を言っていたマリアが、彼らのそんな違和感に気付かない筈が無いのだから。

そんな焦りからか昼食を摂ることも忘れ普段よりもずっと早いペースで歩いた三人は、どうにかすみれの邸宅
へと辿り着いた。その広い敷地は恐らく劇場以上のものであり、当然一般的な帝都の住宅の何十倍もの広さ
なのだが、すみれと同じように高貴な生まれであるアイリスや織姫がそれに殊更に驚くことはない。
そしてレニは元々感情を大げさに表現する性格では無いため、三人はこの年齢にしては淡々とした様子で
神埼邸の門の呼び鈴を鳴らしたのである。

『こちらは神崎忠義様の御屋敷にございます。どちら様でございましょうか』

すぐに聞こえてきたのは、無機質な女性の声。勿論すみれ本人ではない。恐らく神崎家の女中のひとりと
いったところだろうか。

「帝国歌劇団花組でーす! すみれさんに会いに来ました」

そんな姿の見えない声に向かい、織姫が片手を上げて威勢よく答える。先程まで空腹を訴えていた彼女で
あったが、久し振りにすみれに会えるということもあって気持ちが高揚しているらしく、現在はそんな様子は
全く見られない。

そんな彼女を呆れた様子で流し見た後、レニもまた目の前にある大きな門を見つめる。
それに続き、アイリスもまた緊張した面持ちでじっと同じ方向を見つめた。

今まではすぐに会うことのできた仲間。しかし今となっては、そんな些細なことですらかなりの時間が掛かる。
だからこそ、貴重になってしまったその時間を大切にしよう……アイリスはそんなことを思いつつ、じっと
すみれの姿を待った。

しかし、それぞれが思い思いに目的の人物の登場を待ちわびていた三人に、無機質な声は冷たくこう
言い放つ。

『生憎すみれお嬢様はこちらにはいらっしゃいません。失礼ですが、お約束はございますか?』
「お約束……?」

意味が分からないといった様子で織姫が呟き、隣に立つレニに視線を向ける。

「すみません。ボク達は、何の連絡もしていないんです」
『誠に申し訳ありませんが、お約束の無い方をお通しすることはできません。また日をお改め下さいませ』

すぐさまレニが助け舟を出したものの、再び響いた声は少し強い口調でそう告げた後、がちゃりという機械音を
立てて途絶えた。

その途端に、期待に膨らんだ自身の身体が急に重くなるのをアイリスは感じる。

今、すみれに会うことはできない……聞き慣れない固い言葉、それも数少ないやりとりだけでそれを理解できる
程度に、彼女は成長しているのだ。

「あ、ちょ、ちょっと待つでーす! あ~~~!!」

恐らくもう中には通じていないのだろう呼び鈴に向かい織姫は叫ぶ。だが再びそれを鳴らすことは無い。
出会った当初なら何度もそれを押し続けるくらいのことはしたのだろうが、いくら猪突猛進なその性質が昔から
変わっていないとはいえ、彼女ももうそんな無茶ができる歳ではないのだ。

「やっぱり、いきなりじゃ駄目みたいだね」

地図を握りしめ呟いたレニは、少しだけ悔しそうな表情を浮かべる。
織姫とは逆に全く感情を出さない性質であった彼女も、もう人並みにそれを出せるようになっていた。

「あーもう全く、ややこしいですね! 少しくらいすみれさんに会わせてくれてもいいじゃないですかー!」
「仕方ないよ。連絡しなかったボク達が悪いんだ。それにすみれはここには居ないみたいだし、今度また
出直そう。……誕生日には、間に合わないけど」
「あーもうっ、せっかくここまで来たのにぃ!」

落ち着いてきた織姫と素直に感情を出すようになったレニの会話を、アイリスは静かに聞いていた。
そしてレニが踵を返し、織姫が屋敷に向かって舌を出した後にその背中を追ったのに続き、彼女もまた
歩き出す。

そして彼女は、自らもまた泣いて我儘を言うどころか涙が出る気配さえ感じないことに気付いた。
更に自身がこの状況を仕方が無いと割り切っているということも――

それに気付いた時、初めてアイリスは実感したのだった。
時は止まってなどおらず、皆が日々刻々と変化していることに。
ここに居る三人だけではなく、今劇場に居る仲間達も全て。
 

すみれが引退したのとほぼ同時期に、風組と薔薇組が劇場から去った。
名実共に娘役トップスタアとなりその重さに苦悩していたさくらは、もうずっと前から皆を引っ張っる立場にある。
紅蘭の発明は完全な失敗が殆ど無くなり、光武は勿論他の発明品の精度も着実によくなっている。
マリアはアイリスにあまり小言を言わなくなり、また彼女自身も今まで以上に帝国華撃団の根幹に関わるような
仕事を任されるようになっていた。勿論、男役のトップスタアとしての輝きはすみれが在籍していた時以上の
ものだと観客に噂されている。
そしてすみれの引退を一番惜しんでいたカンナの口から、彼女の名前が出されることが少なくなっていた。
時折淋しそうな表情を浮かべているのをアイリスは垣間見ているのだが、カンナがそれを口に出すことは無い。
支配人と帝国華撃団総司令という肩書を託された大神も、未だ見習いと謙遜しているとはいえどんどんその
風格を漂わせているし、それを見守るかえでにもまた前副司令である姉あやめの面影を感じる程になって
いる。

普段一緒に住んでいる為に殆ど感じる事が無いが、ふと立ち止まって振り返れば皆少しずつ成長している。
そして遥か未来に思いを馳せれば、今よりもずっと成長した彼らが更なる活躍をするのが目に浮かぶ。

それを理解した時、唐突にアイリスの中にひとつの影が過った。

彼女はそれを内に秘めたまま、もう一度すみれの居ない屋敷を振り返る。
高い扉、その更に奥に大きなドアがある。当然、彼女の手は届かない……。

兄弟が居ないアイリスにとって、花組の仲間は皆姉や兄同然の存在。その中ですみれは、マリアやカンナの
ように年が離れている訳でも無く、またレニや織姫のように近すぎる訳でも無い。またさくらや紅蘭のとは違い
生い立ちや過去が似ている為、アイリスにとっては他の仲間以上に本当の姉のような人物であった。

そんなすみれが彼女の手が届かない場所に行ってしまったのは、使い続けた霊力の減退。
アイリスが日本を訪れた年齢と殆ど変わらない時から彼女はずっと霊力を使い続けたこと、それが原因だと
言われている。
もしそれが本当だというのなら、今後また彼女のように花組を引退するメンバーが次々と現れるということ。
そして恐らく、現在最年少のアイリスはその全てを見送る立場になる可能性が高い。
帝国華撃団に所属するより以前から、皆どこかしらで霊力を使っていた。更に現在のメンバーで最も霊力が
高いのは、他でも無いアイリスなのである。

次にすみれと同じ運命を辿るのは、最年長のマリアか、それとも欧州星組に属していた二人か、それとも
最も霊力の低いとされる紅蘭か。

誰も彼もが、アイリスにとって大切な仲間、大切な家族。
そんな存在が、最後には皆今のすみれのように手の届かない存在となってしまうのか……!
 

「アイリ~ス、置いてくですよー!」
 
織姫の声にはっと我に返ったアイリスは、そこで初めて自分の目頭が熱くなっているのを感じた。
以前ならば大声で泣き、皆を驚かせているところ。
しかし今の彼女はぐっと目を閉じて首を左右に振ると、遠く離れた二人の後を追いかけて走り出した。

二人は彼女が追いつくまで足を止めて歩き出そうとはしない。
それは、仲良くなってからはずっと変わらない姿。
そんな背中が、徐々に大きくなる。レニの優しい笑みと、口を尖らせた織姫の姿がはっきりと見えてくる。
変化の渦中にありながらも変わらない景色にアイリスの表情が緩み、同時にまた自身の目頭が熱くなるのを
感じた。

そんな三人の横の道路を、黒い色の高級車がゆっくりと通り過ぎる。
どこかで見たことのあるその姿に三人は目を奪われ、やがてアイリスが足を止めた。それと同時に車もその
動きを止め、そして冬の日の光を反射して光るその黒いドアが開く。

「貴女たち、ここで一体何をしておりますの?」

そこから降りて来た人物の声が、アイリスにはもう何年も聞いていなかったと思う程懐かしく思えた。

レニと織姫が口々にその名を呼ぶ声を背景に、彼女はあまり見慣れないスーツ姿の相手に駆け寄る。
そして勢いを殺すことも忘れ、その胸に飛び込んだ。

唐突な衝撃に小さな叫び声を上げた相手から、懐かしい匂いと感触をアイリスは身体全体で感じる。
別れてもなお変わらない暖かさに安堵した彼女には、もう溢れ出る涙を止めることができなかった。

「暫く会わないうちに、また少し背が伸びましたのね」

アイリスの耳元で響く、優しい声。
彼女がこうして抱きつく頻度はそう高くは無かったのだが、たまにそうする度に囁かれるすみれの言葉は、
いつもこんな風に暖かく心に響く。
それに思わずしゃくり上げそうになるのを必死で堪えるため、アイリスは更に強くすみれに縋りつく。
その足は彼女の言葉のとおり、昔のように膝で折り曲げられてはいなかった。もうとうの昔に、アイリスに
視線を合わせる為に彼女がしゃがみ込む必要は無いのだ。

「全く、久し振りに会ったとはいえそんなに甘えて……何だかんだ言ってもアイリスはまだまだ子供ですね」

いつの間にか二人に駆け寄ってきた織姫が、普段と変わらぬ調子で言う。

「久し振り」

同じく普段と変わらぬ抑揚の無い声で言うレニの表情は、それとは違い少しだけ明るいもの。
そんな彼女たちもまた、久し振りの再会が嬉しいことに変わりは無いのだろう。

「ええ、本当にお久しぶりですわね。それより、わたくしに何か用事ですの?」

アイリスの背中を優しく撫でながら、すみれもまた笑みを浮かべてそう問いかける。
すると一瞬だけ織姫の動きが止まり、彼女はそのままレニの方へと視線を向けた。どうやら、ここに来る目的を
すっかり忘れてしまったらしい。

レニが盛大に溜息を吐いた後長い付き合いになる友人に代わりすみれの質問に応えようとした時、彼女では
ない別の高い声が三人の耳に響いた。

「お誕生日……すみれは、何が欲しいの?」

そう言ってすみれの肩から顔を上げたアイリスの顔は、涙ですっかりぐしゃぐしゃになっている。
それを押しつけられた肩の辺りもまた同じように濡れてしまったものの、すみれはそれを意に介することなく
相手に向かって微笑む。そしてずっと手に持っていたバッグからハンカチを取り出し、まるで優しい姉が
泣きじゃくる妹にするようにアイリスの涙を拭き取った。

「ほら、レディがあまり涙を見せるものではありませんわ」

彼女の美しいブロンドの髪は以前会った時よりも少しだけ伸びており、すみれはそれに柔らかく指を通す。
何度かそれを繰り返してアイリスの髪を撫でたすみれは、ようやく落ち着いたのを見計らってそっと彼女から
離れた。

今まですぐ傍にあった温もりが消えたことに不安を感じ、アイリスがぎゅっと手渡されたハンカチを握りしめる。

そして彼女がまたすみれを見上げた時、その肩を織姫が抱き、そしてレニがその手を取った。
また自身に注がれた温もりにアイリスが目を見開くと、二人は彼女を見つめ柔らかく微笑んでいるのがその
視界に映り込む。

「淋しくないですよ。アイリスには私達が居ますから」
「そうだよ……ボク達はずっと一緒に居るから」

囁かれた二人の言葉に、また涙が溢れそうになる。
しかしアイリスはそれをぐっと堪え、レニの手をきゅっと強く握った。そして肩を抱いた織姫の腕にそっと頬を
寄せる。

あれほどまでに大きくなった不安が、今確かにその温もりに溶かされた瞬間であった。

「……ま、貴方達に準備できるものなんてタカが知れておりますから、別に何でもよろしいですわよ」

そんな三人の姿をどこか満足げに見守っていたすみれは、ふっと息を吐いた後にそう呟く。
その言葉には以前までの彼女と同じ小さな棘が入っていたのだが、三人にはそれが単なる照れ隠しであり、
棘も柔らかくくすぐったいものであることが分かっていた。

「お茶くらいお出ししてもよろしいのですが、生憎わたくしもあまり時間がございませんのでこれで失礼
致しますわ。ああ、そうですわね……列車の駅まで送らせますから、これにお乗りなさいな」

すみれのそんな誘いに織姫はすぐに反応し、彼女の後を追っていき蒸気自動車へと乗り込む。
レニとアイリスは顔を見合わせたのだが、遠慮するなというすみれの言葉にやがては甘えることにした。

「今度いらっしゃる時は、きちんと連絡を入れて下さいまし」

開けられた窓から三人の顔を覗きこみ、すみれは柔らかい口調で言う。
そして車から離れる直前、微かな微笑みを浮かべてこう囁いた。

「また、いらっしゃいな」

手を振る彼女の微笑みが、アイリスにはどこか淋しそうなもののように思えた。
 
 
 
「ほ~んと、すみれさんはイヤミですね。結局欲しいものも言ってくれなかったし」

運転手に礼を言い駅へと降り立った織姫は、ぐんと伸びをしながら開口一番にそう呟く。彼女の言葉は最もで、
すみれは結局アイリスの質問にはっきりとした答えを示さなかったのである。

「分かったよ、すみれの欲しいもの」

だが織姫に続いて車を降りたアイリスは、小さな声で、しかし力強くそう囁いた。

「えぇッ!?」
「織姫、すみれは天邪鬼なんだよ」

驚いた顔の織姫に、最後に降り立ったレニが答える。彼女は織姫の方に顔を向ける事無くもう一度礼を言って
ドアを閉めると、隣に立ったアイリスと共に去っていく車に手を振った。

「そんなことず――――っと前から知ってまーす!」

別れのクラクションが辺りに響いたのとほぼ同時に、一人状況が分からない織姫の声が響く。
その音量に思わず目を閉じたアイリスであったが、彼女はそれに構うことなく言葉を続けた。

「何てったってすみれさんは、花組で一番淋しがり屋で天邪鬼で意地っ張りで……」

仲間内には知れ渡っているすみれの性格を指折り数えながら挙げていった彼女であったが、その言葉は徐々に勢いが無くなり、遂には消えてしまう。
その代わりに織姫は何かを思いついたように目を見開くと、ぽんっと拳で自らの掌を叩いた。

「ねえねえ、アイリスいいこと考えた!」

成程、という織姫の反応を確認したアイリスは、二人の方を見上げてそう声を掛ける。

「でも、きっと今度のお誕生日には間に合わないから……来年のすみれのお誕生日まで、二人に手伝って
欲しいの! いい?」
「うん」
「ま、アイリスのアイデア次第ですねー!」

少しだけ不安げな妹の言葉に、二人の姉は力強く頷く。
アイリスにとって誰よりも近い存在の二人は、同時に彼女にとって頼りになる仲間でもある。

「ふふ、ありがとう!」

満面の笑みを浮かべたアイリスはそう二人に礼を述べると、手に持ったままのすみれのハンカチを
ぎゅっと握った。
 
 
誰よりも淋しがりやで、誰よりも意地っ張りで、誰よりも優しい姉へ。
アイリスの胸には彼女への感謝の気持ちを込めた『贈り物』の構想が、はっきりと浮かび上がっていた。
 
 
*     *     * 


賑やかだった正月も明け、浮き足立った人々がまた日々の生活へと戻ってから暫く経ったある日。
大帝国劇場の楽屋では、ささやかなパーティーが開かれていた。
主役は花組の元トップスタアであり、神埼重工の取締役でもあるすみれ。引退してから二度目となるその
記念すべき日を、彼女は古巣であるこの場所で迎えたのである。

昨年のような盛大な催事は、前日に神埼邸で行われた。それは花組の全員が参加した時のそれと同じように、
豪華絢爛の素晴らしいパーティーであったと噂されている。
しかし花組のメンバーは彼女の誕生日の当日という特別な一日を祝う為の準備に追われてその催事には
出席しなかった為、真偽の程は定かではないのだが。

クラッカーの響く音と共に劇場内へと招かれたすみれは、どこか安心したような面持ちで「ありがとう」と小さく
呟いた。
晴れ着では無く見慣れた紫の着物にカチューシャという以前と同じスタイルで現れた彼女は一瞬だけそんな
普段とは違う笑みを浮かべていたのだが、しかししおらしかったのはそこまで。
その後はといえばこれまでと変わらず、さくらに先輩風を吹かせ、紅蘭が準備した『宴会クン』の想定外の祝福を受け、照れる大神の杯に熱燗を注いでいた。
勿論カンナとの普段通りの舌戦も盛大に演じ、マリアに怒鳴られていたことも付け加えておこう。

やがて賑やかなパーティーが中盤を過ぎた頃、既に出来上がっているかえでに無理やり酒を勧められていた
すみれの背中に、織姫が勢いよく飛び付いた。

「すっみれさーん! ちょっとこっち来るでーす!」
「きゃあ! な、何なんですの! 全く貴女はいつも騒々しいんですから……ちょいと、あまり引っ張らないで
下さいまし!」

グラスを持たされていたすみれはあわやそれを床に落としそうになりながらもなんとかこらえ、失礼な相手に
向かいそう不平を漏らす。しかしそれに聞く耳を持つ織姫である筈も無く、彼女は袖口を引っ張られながら、
やがて皆が囲むテーブルの前へと引きずり出された。

それと同時に、会場から一斉に拍手が巻き起こる。

「ど、どうしたんですの改まって……」

呆然とするすみれの背後に居た筈の織姫はいつの間にか仲間の方へと消え、すぐ傍に立っていたレニに
向かいそう彼女は問いかける。しかしレニは口元だけで笑うと、こう彼女に呟いただけであった。

「あのままじゃ酔っぱらって、潰されちゃうでしょう? ……その前に」

レニの視線の先を、すみれは真っ直ぐに見つめる。
そこには、手に四角い包みを持ったアイリスが立っていた。

「すみれ、お誕生日おめでとう。……去年は、間に合わなくてごめんなさい」

ぺこりと一礼をしたアイリスの姿を見、すみれはふと昨年の今日に思いを馳せる。

賑わっている会場の中で、アイリスは自らが大切にしているトレードマークのリボンを彼女に差し出した。
来年の誕生日には必ず間に合わせるから、それまで代わりにあずかって居て欲しい――という、謎の言葉を
残して。

そのリボンが一番のお気に入りであることを知っているすみれは最初こそその申し出を断ったものの、
彼女は頑としてそれを認めず、半ば無理やりそれを押しつけたのだった。

その後何度か会う機会のある度すみれは綺麗に畳まれたリボンを返そうとしたものの、彼女がそれを受け取る
事はついに無かった。

「そんなこと、別に気にしてはおりませんわ」

頭を下げたままのアイリスに向かい、すみれは柔らかい口調でそう言って顔を上げさせる。
すると相手はにっこりと微笑み、自らが抱えていたその包みを彼女へと差し出した。それと同時に盛大な拍手
が巻き起こり、どこからかまたクラッカーの音が響く。

「ここで開けても、よろしくて?」
「うん、勿論! 花組のみんなに手伝って貰ったから!」

満面の笑みを浮かべるアイリスの表情につられたのか、すみれの口元にも笑みが零れる。
そして彼女は高揚する気持ちを必死に抑えながら、ゆっくりとその包みを開いた。

そしてそれを目にした瞬間、目頭が熱くなる。

アイリスが彼女に渡したのは、額に入ったメッセージボードであった。

真ん中にはすみれの花。その周りを囲むのは、それぞれの隊員を象徴する花々。さくら、タチバナ、アイリス、蘭、カンナ、そしてあやめにかえで。名前に花を持たない織姫はそのドレスにあしらわれた薔薇、レニは
アイリスと共によく冠を編んでいたシロツメクサと四葉のクローバー。そして、大神は古くなったモギリ服の
切れ端。

高貴に美しく咲くすみれの花は勿論、まるでそれを護るように散りばめられた花や布もまた、美しく輝いている
ようにすみれの目には映った。

「みんなね、どんなに離れてても、ずっとすみれと一緒に居るよ」

胸が熱くなっていくのを感じていた彼女の耳に、アイリスの柔らかい声が響く。
顔を上げれば、何時の間にか少し大人びた表情をするようになった彼女が、にっこりと満面の笑みを
浮かべていた。

「だから淋しくなったり、悲しくなったりした時は……これを見て思い出して。みんなこれと同じように、すみれの
ことを想っているから」

微笑む相手の瞳がどこか潤んでいるように見えるのは、もしかしたら自らの瞳に涙が浮かんでいるせいか。
すみれはふと目を閉じて少しだけ上を見上げ、すっと息を吸い込む。

大切な妹の前で、弱い姿を見せる訳にはいかない。

「でもね、もしそれでも駄目だったら、劇場に遊びに来て」

すみれの様子を気遣ったのか、アイリスの声のトーンが彼女を励ますように高いものへと変わる。
そして彼女が再び瞼を開けた時、そこに映る妹の姿ははっきりと彼女の瞳に映っていた。

「みんな、いつでも待ってるからね!」

アイリスはそう言うと、すみれの身体をぎゅっと抱きしめる。
すみれはふっと微笑むと、普段とは違うリボンで束ねられた彼女の髪を優しく撫でた。

「まったく、貴女たちは本当にお節介なんですから。わたくしが淋しいだなんて……これっぽっちも思ったことは
ありませんわ」

二人を見守る皆の視線がすっかり暖かくなっているのを感じたすみれは、アイリスの身体から慌てて
その身を離す。そしてほぼ同時に飛んだ「ったく素直じゃねぇなぁ」というギャラリーからの野次を
「お黙りなさい!」といつもの調子で一蹴した。

くすくすというどこかくすぐったい笑い声に包まれたその場の雰囲気の中、少しだけ頬が紅潮するのを感じ
ながらすみれはアイリスの方を見る。
彼女はすみれと同じように頬を紅潮させながら、それでも優しい笑みを浮かべていた。

「でも、
せっかくアイリス達が作って下さったんですから、有難く頂いておきますわ」

すみれは彼女に向かいそう言うと、贈り物を大切に抱えたまま自らの懐を探る。
そして手に掴んだ小さな布切れを持ったまま、それをアイリスの手にぎゅっと握らせた。

「……ありがとう、ございます」

彼女の口からゆっくりと紡がれたのは、心からの感謝の言葉。
そしてこの日になってやっと持ち主の元へと戻ったリボンの持つ意味を、すみれは今になってやっと
理解したのだった。

+++++++++++++++
以上、ちょっとカッコよくなった思春期アイリスちゃんとすみれ様の話でした。
引退時でアイリス中学生くらいには成長してるから、少しくらい成長してると思いつつ。

すみれ様がああいう形で引退するとすれば、他の皆もいつかは……と思ってしまう今日この頃なのですが、
最終的にはレニとアイリスがツートップになって花組を引っ張るといった形になるのでしょうかね?
さくらは大神クンの近くにずっと残りそう(個人的脳内ヒロインはさっくらさん)な気がしますし、紅蘭もずっと
整備面で帝劇に残ってそう。姫含めた子供組はまだまだこれからでしょうし、勿論大神クンやかえでさんは
こらからもずっと帝劇に残るのでしょう。
残りの最年長二人ですが…カンナは実家帰るのかなぁ? すみれ様の家に居ついたりしたら面白いんだけど、
とは相方様とよく話していたりします。あとは帝都に残って戦闘面でのサポートしててもいいかもしれませんね。
残るマリアさんですが、個人的には何となく放浪しそうなイメージが。何故かと言われても何となくとしか(汗)
勿論カンナと同じように戦闘や舞台面でサポートしててもいいと思うのですが、すみれ様が離れたのに他が皆
ずっと一緒に居るというのも……何となく違和感が。
まあ、私の超個人的脳内設定では(以下百合的思考なので反転)かえでさんのとこにお嫁入りして、
二人で末永く幸せに暮らすんですけど
(以上)ね!
ともかくも、4以降の未来予想図は少し淋しいですが、妄想できる部分だということで、この長いあとがきを
閉めさせて頂きます。

すみれ様、お誕生日おめでとうございまし、た!
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