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本日はマリアさんの誕生日。
間に合ったよ~! とは思いつつ、よく考えれば私2月以降更新してなかったなんてッ!
皆さま初めまして、なんちゃってモノカキです(土下座)

しかしながら、私見事に風邪をひきましてずっと張り付いている訳にはいかない身なのです。
という訳で今回は取り急ぎ更新のみですがすみません。

消失している間も拍手&メッセージ等ありがとうございました~!
なかなか表には出られませんが、こっそり拝見させております。ありがたやありがたや……。


注意
いつもながらマリかえの百合にございます
でもって今回、マリアさんが色々と崩壊しておりますので申し訳ない(汗)


それでは皆様、次はあやめさんの誕生日辺りにお会いしましょう~!

【本日の戯言80】
もう80回か……あと20回果たして今年中に更新できるのだろうかorz
そういえばEZの公式がリニューアル致しましたね課金制ってどういうこよなのッ!
ワカル君が高すぎるのでもう少し何とかして欲しいと心底思います。せっかくかえすみだったのに(涙)

そして当然、とあるコンテンツの私の名前は『かえで』ですが何か?


 

+++++++++++++++


いくら早朝とはいえ梅雨の季節には感じることのない肌寒さを感じて目を開けると、視界に映り込んだのは
見慣れている筈の自室の天井。だがその殺風景な風景は寝起きには見慣れない光景である。
その景色を暫くぼんやりと見つめた私は、普段なら隣にある筈の温もりが無いことに気付き全てを理解した。
 
次の公演に向けての稽古が本格的に始まり、それが動きを叩き込む時間から表現を更に作り込む時間へと
変化しているこの時期。それは私達を支える裏方の舵取りをしているあの人もまた、忙しい時である。
数百にも及ぶ衣装一着一着の試作品の確認、私達の稽古によって日々変化していく台本の修正、公演に
かかる諸費用の算出等々、仕事は無数に存在する。

そんな彼女の寝る間も惜しんで仕事に追われている背中を、私はただ見つめることしかできない。
今は、そんなもどかしい時期でもあった。
 
手を貸したいのは山々なのだが、舞台に立つ私達に稽古以上の負担をかけてはいけないと考えている
彼女は、そんな私の申し出をやんわりと断ることは目に見えている。

『あなた達が稽古に集中できるように、それを支えるのが私の仕事だから』
 
隈がはっきりと分かる程の疲れた顔を緩ませ微笑んだ彼女の口から、何度その言葉を聞いたことか。
そんな彼女を見る度に、手を貸すことのできない自分の未熟さを呪うのだ。もっと余裕を見せることが
できれば、もっと自分に能力があれば――そう彼女の姉のように、全てを任せることのできる存在に
私自身がなることさえできれば。
 
結局ここ二、三日は一つ目の山場を迎えるということで、貴重な夜の時間さえも暫くはお預けとなってしまった。
勿論その時間に情事が含まれる筈も無い。他愛の無いことを話し触れるだけのキスをして、ただ彼女の部屋の
同じベッドで眠るというだけとはいえ、私にとっては何よりも心休まるひと時。
それは同時に、普段は仲間達全員に向けられている彼女の、母のような姉のような優しい瞳を自分だけが
独占できる時でもある。

そんな満たされた大切な時を過ごすことができず、早3日。
最後に身体を重ねた時など、もうどれくらい前の事だろうか。
 
そんな事を考えながら抱きしめる相手の居ない自らの白い腕を見つめた私は、やがて普段からの習慣で
何も身に付けていないその身体をゆっくりと起こした。
無駄なことを悶々と考えていても何ら進歩は無い。
それならば早く身体を動かし、一人の女ではなく副隊長として表に出た方が賢明である。
 
それに、もしかしたら彼女の山場が昨日のうちにひと段落し、今夜からはまた次の山場まで、共に夜を
過ごすことができるかもしれないのだから。憂鬱な朝の時間を無駄に引き延ばすことは無いのだ。
 
しかしそんな都合のいい妄想に囚われながら身体を起こした私は、ふとした違和感を覚え我に返らざるを
得なかった。未だベッドの上にあった片方の手が、反射的に寝癖の残る自らの頭を軽く抑える。

身体を起こすという普段通りの動作をしただけである筈なのに、何故か妙に頭が重い気がしたのだ。

嫌な予感がし、私は自らの手を今度は額に当てる。だが同じ身体同士では熱いのかどうかも分からない。
もっと酷く痛むのなら話は別なのだが、ただ違和感を覚える程度では自らの身体を病が蝕んでいるのか
見当がつかない。

「あ、あ~……声は出る、わね」
 
役者の命である喉の調子は、今のところ普段と何ら変わりは無いらしい。
寝起きである為に普段よりも少しだけ低い気がするが、痛くも無ければ痰が絡むということも無い。

私は身体を動かし白いシーツの上を滑ってベッドから足を投げ出すと、今度はゆっくりと立ち上がってみる。
未だ頭に感じる重さは変わらないものの、力が入らない、また立ちくらみがするということは無かった。

どうやら違和感を覚えた場所以外は、何ら普段と変わりは無いようである。
 
ふっと私は息を吐くと、すぐ傍にあるクローゼットから何枚かの衣服を取りだした。

これくらいの体調の変化で休むことなどできない。
稽古は毎日変化していき、メンバーも皆日々上達していくのだ。リーダーである私が、遅れを取る訳には
いかない。その上今日は、稽古の様子を彼女が監督に来る日なのだ。夜だけではなく食事や入浴の時間も
変わってしまったが為に同じ場所に居ながらも殆どすれ違っている彼女の姿を、久し振りに長い時間見る
ことができる。そんな日にこの殺風景な自室で、惰眠を貪っていることなどできる筈が無い。
 
私は気持ちを新たにし、まるで戦闘服に身を包むような気持ちで上着のボタンを閉めると手櫛で軽く髪を整え
化粧台の鏡の前に座った。
鏡に映る自分の顔と今日初めて対面したものの、普段と何ら変わった様子は見られない。

私は自らのグリーンの瞳をじっと見つめ、大丈夫よねと心の中で問いかける。
その声に応えたのか、身体がほんの少しだけ軽くなったような気がした。
 
 
*   *   *

 
もしかしたら、身体が軽くなったということこそが『気のせい』だったのかもしれない――昼前の稽古最後の
休憩時間になって、私はふとそんなことを考え深い溜息を吐いた。
 
皆を交えての朝食、そして着替えを済ませた直後に始まった稽古。時が経つにつれ、私の体調はどんどん
悪い方向へと傾いていった。
幸か不幸か喉だけは何とか普段通りの状態を保つことができたものの、重いような気がしたというだけの頭は
とうの昔に痛みを訴えはじめ、今となって立っているだけで軽い眩暈を訴える程。
またそれだけではなく熱っぽさや節々の痛み、そしてそれに伴う全身のだるさ等。
まるで身体全体が、私自身を拒絶しているような気さえする。
 
しかしそんな状況の私が未だに目立ったミスを出していないのは、私自身の役者としてのプライドなの
だろうか。
いや、それよりも私自身が稽古の場で不調を覚え、それを訴えるような暇が無かったといった方が適切なの
かもしれない。
 
役者として演技をするプレッシャーをひしひしと感じていることは勿論、些細なことで喧嘩を始める古参の
仲間や、少し目を離すとシエスタをし始める世界的な歌姫を常に気に掛けていなければならない。
更にその他の仲間もまた個性的であることは、長年の付き合いでよく分かっているのだ。
尤も恋人に言わせれば、その集団の中には私自身も含まれているというのだが。
 
そんな仲間達をまとめる役目を担う私は、自分のことばかりに気を取られている訳にはいかない。
そんな些細な責任感が私の体調不良を忘れさせているからこそ、私はこの時間までどうにか舞台の上に
立ち続けていられたに違いない。
 
しかし気の抜けない状況というものは、いわば麻薬と同じような代物である。
気付くことさえしなければ症状を緩和させてくれるのだが、ふと身体の不調を覚えた瞬間にその威力を倍増
させてしまう。
今まさにそれを覚えた私は、周りのメンバーの視線が届かない舞台の隅で、糸の切れた操り人形のように
どっかりとパイプ椅子の上に崩れ落ちた。
 
それぞれが思い思いにひと時の息抜きの時間を楽しむ様子を見つめながら、私は軽く自らの首筋に触れる。
つい先程喧嘩を始めたいつもの二人を叱った際、今の今までずっと声を出し続けてきた喉の奥にピリリとした
痛みを覚えたのだ。怒鳴り合う二人を止めるには、こちらも同程度の大声を出すか同じくらい苛立った様子を
露わにしなければならない。怒りよりも自身の体調が気になっていた私は前者を選んだのだが、どうやら
それが仇となってしまったようである。
 
最後の砦を壊されてしまうのも時間の問題か……喉を摩りながら心の中でそう呟いた時、唐突に耳元で大きな
声が響いた。

「……おい、マリア!」
 
自分の名を呼ぶその声に驚いた私は、反射的に俯き気味であった顔を上げる。するとガンガンと痛みが心臓の
鼓動と同時に頭の中に響き、一瞬ではあったもののぐらりと視界が揺れた。
私はその一時だけ我慢できずに顔を顰めたものの、それが治まるのと同時に無理やり表情を普段のそれへと
引き戻して声に反応する。

「……何?」 
 
言葉と同時に頭上を見上げると、椅子に座っている私よりも遥かに高い位置から、つい先程まで仲の良い
相棒と怒鳴り合っていた親友がじっとことらを見下ろしていた。その表情が普段の飄々とした笑みではなく
どこかシリアスめいたもののような気がするのは、恐らく私の体調にうっすらと気付いたからだろう。
こういう時の彼女の勘は、どんな占いよりも的中率が高いのだ。

「何じゃねぇよ。大丈夫かお前?」
 
予想通りの言葉に、私の口元が自然に緩む。
カンナはいつ頃から、私の様子に気付いていたのだろうか。

「大丈夫よ。少し風邪気味なだけだから、心配しないで」
 
私は努めて平静を保ちながら、普段通りの声で可能な限りゆっくりとした口調で相手の問いに答えた。
だがそんな風に細心の注意を払ってもあまり意味は無かったのか、喉の奥の痛みは更に酷くなっている
らしい。
既に気のせいで済まされるものではなく、はっきりとした痛みとして私自身に訴え始めているのだから。
 
そしてカンナもまた、私の言葉だけでは納得することはできないようである。
心配そうな表情を変えることなく、何か言いたげに私の方をじっと見下ろしたまま。
 
やがて彼女が再び何事かを私に言おうと口を開けた時、客席の方から扉を動かす甲高い金属音が響いた。真っ暗な空間に唐突に現れた光の道の向こうに私を含めた全員の視線が集まる。

「すまない、みんな。遅くなってしまって」
 
そんな謝罪な言葉と同時に姿を現したのは、今日様子を見に来ると話していた大神隊長。その姿を見た途端、
皆の表情が一斉に明るくなる。
だが一方の私はといえば、恐らくそれとは真逆の暗い表情を浮かべているに違いない。
なぜなら先程から高鳴り続けている心音がより一層大きな音で響き始め、それが頭に当りガンガンと暴れ始め
たのだから。
その理由は、今まさに舞台を飛び降りたアイリスが駆け寄って行った大神隊長のせいでは、無い。

「大神君は悪くないでしょう? 私が寝坊したせいなんだから……。ごめんなさいね、みんな」
 
響いて来た柔らかい声。
それと同時に現れた隊長よりも一回り小さなその姿が、私の心臓を更に昂らせる。
それは昨晩一睡もしていなかった為に朝から仮眠を取っていた、私の恋人の姿であった。

「かえでさんは昨日休めなかったから、仕方がないですよ」
 
そう言葉を返した大神隊長に、駆け寄ってきたアイリスが飛び付く。
彼女を追いかけてきたさくらが顔をひきつらせるのも、よくある日常の光景だ。

やがて何やら言葉を交わしながら四人がこちらへと歩みを進めてきた為、私はすぐに椅子から立ち上がる。
遅れていた役者の全てが揃ったのだ。昼までの時間はあまり残されていないが、それまでに幾つかの場面を
実際に演じてみるのだろう。そうなれば声が掛かるのも時間の問題である。
 
不調を訴える身体にもう一度だけ渇を入れる為、私は両手を上げてぐっと背伸びをした。
すると視界の端に、未だ何か言いたげなカンナの姿が映る。

「本当に、大丈夫だから」
 
親友の心配を振り払うように、私は唇の端を笑みの形に曲げる。
それに渋々ながらも納得したのか、カンナはふっと息を吐いて舞台の中央に集まり始めた仲間の方へと踵を
返した。
私もその後を追うために一歩足を踏み出したのだが、ふと恋人の様子が気になって立ち止まる。
 
客席の中央で監督と会話を交わしている彼女。
朝方食堂に向かった私と入れ違いに部屋に戻ってしまった為、今日その姿を見たのは今が最初。
努めて普段通りに話しているようだが、やはり疲れは完全に取れていないらしい。快活な筈のその表情は、
どこか陰りがあるように私の目に映った。

すると、舞台上からの視線に気が付いたのか彼女がふとこちらに視線を向ける。そして私と目が合うと、
にっこりと柔らかな笑みを浮かべた。私の口元もそれにつられてしまったのか、意識をしてもいないのに
すっかり緩んでしまったらしい。
 
だが微笑みあった時間も束の間。すぐに相手の表現がシリアスなものへと変わる。
それは先程親友が私に見せたそれと同じもの。
私は慌てて視線を逸らし、舞台の中央へと歩を進めた。
だが私達が存在するのは同じ空間。簡単には逃げられる筈もない。

「マリア、ちょっと待って」
 
やんわりとした声で呼び止められ、私はまるで叱られた子供のようにびくりと首を竦める。
勿論大袈裟な動きはしていない為他のメンバーに気づかれてはいないのだろうが、それでも場内に響いた
彼女の言葉に全ての視線が反応する。

「はい」
 
私は注目を集めているという状況に気づかない振りをし、ステージ端の階段からこちらに向かってくる彼女を
振り返った。
短い返事をしただけなのだが、喉の奥が焼けるように痛い。

「あなた、どこか悪いんじゃない?」
 
そんなことを呟きながら私の方へゆっくりと近づいて来た彼女は、やがて私の目の前に立ちじっと私の瞳を
見上げる

「そんなことは、ありませんよ」
 
私は自身の姿が相手の茶色い瞳に映ったのを確認するよりも早く目を逸らし、小さな声でその問いに答えた。
その行為そのものが私の発言が嘘であると証明しているようなものなのは確かである。
だがそれでも、私は彼女の瞳を見つめることができなかった。

「うそ。いいから、こちらを向きなさい」
 
ほんの少しだけ語気を強めた彼女は、私の手を掴み強引に向きを変えさせる。
俯いていては私よりもずっと低いその視線とかち合うのは必至なのだが、だからといって上を向くことも
不自然に違いない。
いっそ瞼を閉じてしまえばいいのだが、それでは更に嘘だということがあからさまになってしまう。
正に四面楚歌の状態になった私は、仕方無く彼女の視線を真っ向から受け止めた。
 
年相応の大人の女性らしい彼女の顔立ちは、しかしどこか幼さを感じさせる。
それは快活な性格と、彼女によく似た姉の記憶のせい。

しかし醸し出す雰囲気に違いはあるといえども、姉妹は確かによく似ているのだ。
見つめてる時間が長くなるにつれて、その包み込むような優しい眼差しと母性的な顔立ち、その全てに
縋りつきたくなってしまう。
それは、私が初めて彼女の姉と出会った際に感じたのと同じで……。
 
すると不意に、今までずっと見つめていた彼女の表情がぐにゃりと曲がる。
あれほど美しかった筈のそれは一瞬でその面影もない程に歪んでしまい、徐々に周りに映る景色をゆっくりと
取り込み始めた。
 
しまった、と思った時にはもう遅い。
 
目の前の恋人、そして周りの仲間達が自分の名を呼ぶ声を遠くに聞きながら、私はいつの間にか真っ白に
変化していた世界に身を委ねたのだった。
 
 
*   *   *
 
 
「かえでさん、かえでさ~ん! マリアさんが目を覚まされましたよ!」
 
何かを叩く固い音とほぼ同時に響いた甲高い声は、真っ暗な闇の中を彷徨っていた私の意識を現実へと
引き戻す。瞼を上げて飛び込んできたモザイクだらけの景色は徐々にはっきりとし始め、朦朧としていた
意識が覚醒した頃にはくっきりと見慣れた自室の天井を映し出していた。
 
私は何度か瞬きをすると一度だけぐっと背伸びをする。そして首を傾けた際に目に映った衣服が昨日のままで
あることに気付き、今朝の私が二日間の徹夜に耐えきれずベッドに倒れてしまったことを思い出した。

「かえでさ~ん……あ、でも起こさない方がいいのかしら」
 
ふと、私が返事をしていない為に三度もその名を呼ぶことになった声の主の不安げな声が、私の耳に届く。
下敷きにしてしまったが為にできてしまった上着の皺を伸ばすこともせず、私は転がっていたスリッパを
引っかけて慌てて入口のドアを開けた。

「ごめんなさい、さくら。せっかく声を掛けて貰ったのに、なかなか起きられなくて……ふぁ……」
 
唐突に開いたドアに驚いたのか目を丸くしていたさくらは、耐えきれずに欠伸をしてしまった私の顔を見て
ふっと微笑む。慌てて口を塞いだとはいえ、こんな姿を部下に見られてしまっては上官としての立場が無い
のだが、出てしまったものに取り返しがつく筈も無い。
 
私は頬の辺りが熱を帯びるのを感じながら、無理やり笑顔を作ってその場を誤魔化した。
尤も、今目の前に居る人物が私的な時間に一緒に過ごすことの多い恋人ならば、もう気にする程でも無いの
だろうが。

「……それで、やっと目が覚めたのよね。あの駄々っ子は」
 
話題を変えるには丁度良いと思い、私はふと脳裏を過った恋人の話題を口にした。まるで子供のようなその
代名詞にさくらは再び目を丸くしたのだが、それもまあ無理は無いだろう。普段の彼女の様子からすれば、
それは正に対極の位置に存在するものなのだから。

「そんな駄々っ子だなんて。マリアさんはずっと、静かに眠ったままでしたよ」
「ふぅん、そうなの……」
 
漸く私の言葉を理解したらしいさくらの言葉に、私は半ば溜息混じりで答える。
そんなやりとりにふと既知感を覚えたのだが、結局その理由はあまりにもあっけなく私の頭に閃いたのだった。

「はい。昨日と同じで……声も立てずに」
 
さくらは昨晩と同じ不思議そうな表情で呟き、私をじっと見上げる。
すると私自身もまた同じように、ふうと大きな溜息を吐くのだった。
 
昨日の夜、私は熱を出したマリアの服を着替えさせようと、倒れた当初から身に付けていた服を脱がせようと
していた。逆のパターンの方が遥かに多いとはいえ私に脱がされることに慣れているからなのだろうか。
意識がはっきりとしていないにも関わらず、彼女は思いのほか素直に私を受け入れてくれたのである。
 
しかし、大変なのはここからであった。
元々衣服を身に付けて眠る習慣が無いからなのか、下着を身に付けさせることさえ許してはくれない。
漸く片足を通したと思えば、もう片方に悪戦苦闘しているうちにそれを外してしまい始めからやり直す羽目に
なる。だが一度拒絶するとなかなか許してはくれず、仕舞いには布団の隅で足を抱えて頑なに動かなくなって
しまった。
 
彼女には意識があり、私をからかう為に業とそんなことをしているのかと何度も思ったのだが、何度名前を
呼んでも返事は無い。顔を歪ませることはあっても瞼が開くことは無く、当然吹きだすようなことも無かった。
そして勿論、私に手を出そうとすることも。

結局一人では無理だと判断した私は、風呂上がりのさくらを呼び止め着替えを手伝って貰った。
事情を説明した際に驚いた彼女は着ていた服の袖を捲り、更には紐をたすき掛けに結んで万全の状態で
挑んでくれた。

だが驚くべきことに、恋人は彼女の手が触れた途端別人のように素直に部屋着を受け入れたのである。
先程の様子を間近で見ていた私は勿論、その話を聞いたさくらもまたあっけに取られてしまったのは言うまでも
無いだろう。

その時も彼女は今のような表情を浮かべたのだが、きっと私はコトを大袈裟に話したのだと思われているに
違いない。

「ホント、寝ている時くらい役者だってことを忘れて欲しいわね」
 
恋人の部屋へ向かうさくらの後ろを歩きながらふと昨日のやりとりを思い出していた私は、彼女に聞こえない
ような小さな声でそう悪態を吐く。
昨晩の行動が偶然で無いとするならば、一体その意味は何なのだろう。
私の勝手な予測が正しいとすれば、無意識下で、その上熱でうなされていても、信頼されている仲間の前では
醜態を見せられないということなのだろうか。

「あ、皆さん集まっているみたいですね」

ふと自身の推理に没頭していた私の耳に、さくらの声が響く。
お陰で我に返った私は、いつの間に辿り着いたのか人だかりのできている恋人の部屋の前に立っていた。

「あら、かえでさん。遅くまでお疲れ様です」
 
私の姿に気付いたすみれの言葉に、そのすぐ向かいのレニがこちらを向く。
2人はドアのすぐ内側に立っており、その更に奥ではカンナやアイリスがベッドのすぐ傍で何やら話しているの
が見えた。
だが肝心の本人が大神君の頭に隠れて見えず、私は声を掛けてくれた彼女達への挨拶もそこそこに、
彼を視界から外す為に少しだけ身体を傾けた。
 
するとまず飛び込んできたのは、織姫の真っ赤なドレス。人一倍懐いている彼女は、風邪がうつることなど
気にせず当人に飛びついているらしい。そして満足げなその顔のすぐ傍に、半日振りに見る恋人の金色の
髪が見えた。

「ほら、そろそろ稽古の時間でしょう? 私はもう大丈夫だから、早く行きなさい」 
 
同時に、昨日までうなされていたとは思えない程はっきりした恋人の声が、私の耳に届く。
すると目の前の視界が開け、丸一日振りに目を覚ました彼女の姿が見えた。

「あ、いっけね。もうこんな時間かよ」
「え~、まだここに居るでーす!」
 
周りに居る仲間達が、その言葉にそれぞれ言葉を返す。口をへの字に曲げた織姫は再びぎゅっとその首に
飛び付いたものの、穏やかな笑みとそれに続いて出た言葉に諭され渋々ベッドから降りる。
 
その時初めて、私は部屋の時計に視線を合わせた。成程、確かにあと数分で午後の稽古が始まってしまう。
この件もあり午前中は全員が自由時間とされていたのだが、このゴタゴタで遅れてしまった分を取り戻す為
にも午後の稽古はハードなものとなるだろう。
尤も、それくらいでへこたれるような人間はこの劇場に存在しないのだが。

「じゃあ、あたしも行かないと。かえでさん、稽古の間はお願いします」
 
ぞろぞろと階段の方へと向かっていくメンバーの後を追い、隣に居たさくらもまたそう言って踵を返した。
私は彼女に激励言葉を掛けて手を振ると、その背中が見えなくなるよりも早く部屋に入る。
メンバーの全員が集まっていた部屋に残ったのはその主と私と含めて3人。あれほど賑やかだったことが
嘘のように、しんと静まり返っている。

「それじゃあ、俺も行くよ。……後は宜しくお願いします、かえでさん」
 
自らの右腕ともいえる隊員の身を心配していたのか最後まで残っていた大神くんは、彼女にそう言った後
こちらに向かって軽く頭を下げる。私はそんな彼の額を軽くつつくと、照れたように頬を染めて顔を上げた。

「あなたも、しっかり頼むわよ」
「はい!」
 
威勢のよい返事と美しい敬礼に、私は思わず微笑む。結局昨日お流れになってしまった稽古の視察を、
今日の午後から全て彼に任せてしまっているのだ。何度か一緒に指導をした経験はあるものの、全てを任せた
ことはまだ一度も無い。しかし今の彼なら、もう十分にその役目をこなすことができるだろう。
……勿論、心配が全く無いというわけではないのだが。

やがてそんな彼も小走りに部屋を出て行き、残されたのは私と彼女二人きり。
私は扉の向こうの気配に細心の注意を払いながらベッドの横の椅子に座ると、先程から表情を変えずに
微笑んでいる恋人を見つめた。

「ホントに、皆の前だと調子がいいんだから」
 
口から湧き出た言葉は彼女への非難のつもりだったのだが、当の本人はまだ表情を変えることはない。
ただほんの少しだけ、その纏う雰囲気が柔らかいものへと変わったように思えたのだが。

「昨日散々服を着るのを嫌がって、その上下着まで全部脱いじゃったのよ……覚えてる?」
 
私の言葉に表情を変えないまま、彼女は軽く首を横に振った。予想通りの言葉に私は思わず苦笑し、そして
ふうと溜息を吐く。こちらには重労働でも、彼女にとっては熱に侵された故の無意識下での行動。記憶に無いと
いうのも無理は無い。

しかしそう頭では理解しているのだが、どうも報われないような気がする。
変化が無いようでいてどこかぼぅっとしているような彼女の顔が、私のそんな気持ちを少しだけ増長させた。

「全く、調子いいんだから……」
 
私はそう呟くと、相手の筋の通った鼻の頭を軽く摘まんだ。反射的に瞼は閉じられたものの、すぐにその目は
私の様子を伺うようにこちらを見つめてくる。 
その姿がやけに幼く見え、私はその手を離して立ち上がると、今度は彼女の上半身をぎゅっと抱きしめた。
 
まだ熱が下がりきっていないのか、普段よりも相手の体温がやけに高く感じる。
そして無駄な贅肉の一切付いていないその細い身体が、気のせいだと分かっていながらも、いつも以上に
細くやつれてしまったかのように感じた。

「もう少し、体力を付けようかしら」
 
彼女の背中を布越しに摩りながら、私はふと昨日の情景を思い出して思わず言葉を漏らす。

私は自分の方へと倒れてきたこんなにも細い身体を、支えることができなかった。突然のことに身体がついて
いかず、私達はそのままもつれるように、舞台の上に倒れたのである。
幸い私が上手く下敷きになったお陰で二人とも大きな怪我は無かったものの、私はカンナと大神君に抱え
られて部屋へと運ばれる彼女の背中を見つめ、自分の非力さに唇を噛み締めた。
 
男になりたい、とは思わない。
ただ、せめて恋人の身体を支えられる力が欲しい。
彼女は私を抱き上げることも背負うこともできるのに、私にはそれができないということが悔しかった。
彼女が全身全霊を掛けて護るこの都市のように、私もまた護られるだけの存在になってしまったようで――

「……マリア?」
 
鬱々とした思考回路に迷い込んでいた私の頬にふと何かが触れたような気がし、私は自然と恋人の名を呼び
そちらに視線を落とす。
どこかぼんやりとした表情のままで私の頬を両手で包んだ彼女は、少しだけ背筋を伸ばして私の唇に自らの
それを重ねた。

「んっ……どう、したの……きゃぁっ!」
 
ほんの数秒間のキスに驚いた私はいつの間にか彼女に抱きすくめられ、あっと言う間にベッドの上へと
押し倒される。いや、彼女もまた私の横に寝転がったということを考えると、引き倒されたという方が正しい
だろうか。
ともかくまるでだき枕のように私を抱きしめて寝転がった彼女は、突然のことに呆然としている私の頬をぺろりと
舐める。ざらざらとした熱い感触に私が思わず目を閉じると、今度はふっと耳に息を掛けてきた。

「やだ、もうッ! 止めて!」 
 
私は慌てて抵抗しようと身体を動かそうとするが、絡みついている相手の腕が邪魔をしてなかなか思うように
動かすことができない。その為暫くの間まるで犬のような彼女の行為を無防備に受け続けることしかできな
かったのだが、ふと唐突にその攻撃がピタリと止んだ。

「もう、どういうつも――」
 
私は非難の声を上げながら彼女の顔を睨みつけようとし、飛び込んできたその表情に思わず身体が固まる。

マリアは今までに見たことの無いような無邪気な笑みを浮かべ、じっと私を見つめていた。
あまりにも珍しい光景に私がすっかり見惚れてしまっていると、やがて彼女はその満面の笑みを崩さないまま、
微かな声で私にこう囁く。

「――あなたは、このままで」
 
そしてもう一度だけにっこりと微笑んで、彼女はゆっくりと瞼を閉じた。
暫くして私に聞こえてきたのは、風邪をひいているとは思えない程の安らかな寝息。

「……何なのよ、もう」
 
私は溜息混じりにそう呟いたものの、すっかり毒気を抜かれてしまったらしく暫くの間口元が緩むのを抑えることができなかった。
その上数日振りの温かい恋人の腕に抱かれているという状況と、二日続けての徹夜の疲れのせいで、
自らの瞼がどんどん重くなっていることに気付く。

そして殆ど意識を失いかけた頃に、私はやっと部屋の時計を見上げる。
だがその針がどの数字を指し示しているのかを把握する頃には、私もまた夢の世界へと飛び立っていたの
だった。

 
*   *   *
 
 
真っ白な世界から初めて目を覚ました時に最初に感じたのは、心休まる甘い香りと温かさ。そして傍らに感じる
柔らかい感触。
それに誘われてゆっくりと瞼を上げると、つい先程別れたばかりの恋人の寝顔が目に飛び込んでくる。

「か、かえでさん……?」
 
唐突な登場に私は思わず声を漏らしたのだが、彼女はすっかり夢の世界の虜になっているらしく一向に目を
覚ます気配は無い。
私は暫くの間彼女の可愛らしい寝顔をまじまじと見つめ、いつの間にかその背に廻していたらしい手の指で
その頬に触れる。安らかな眠りを邪魔されたのが気にくわなかったのか彼女はほんの少しだけ顔を顰めた
ものの、すぐにまたもとの安らかな表情へと戻った。
 
くるくると変化するそれがあまりにも愛おしくなり、私は思わずその額に口付ける。
するとまた彼女は顔を顰め、今度は私の胸の辺りに顔を埋めてしまった。
その様子はあまりにも子供じみていて、耐えきれずにふっと噴き出してしまう。
だがずっと彼女の様子を見ていたいとは思うものの、今自分が置かれている状況だけは把握しなければ
ならない。
私は相手の髪を撫でながら、ゆっくりと辺りを見回した。
 
殺風景な部屋と白い天井、ここは紛れも無く私の部屋である。時間は午後三時を回っているということは、
今頃は午後の稽古の真っ最中ということだろう。
そして自らの記憶を辿りそれが昼前の稽古の辺りでぷっつりと途切れていることを考えると、どうやら風邪を
拗らせた挙句に倒れてしまい部屋まで運ばれたと考えるのが妥当だろうか。いくら切羽詰まっていたとはいえ、
あの状態になるまで無理をした結果が最悪の形で現れてしまったということだろう。
 
ふぅ、と深い溜息が思わず口から洩れる。
たかが風邪とタカをくくっていたことが原因で、結局皆に迷惑を掛けてしまった。稽古が終わった後には、
きちんと謝罪をしておかなければ。そして今後は健康状態に一層気を配るということは勿論、万が一の場合は
正直に休みを貰うことを肝に銘じるべきである。

しかし私自身の反省はともかくとして、何故私は恋人を抱いて眠っていたのだろうか。机の上の洗面器や枕の
すぐ傍に落ちているタオルを見る限り彼女は私を看病してくれていた可能性が高いのだが、その最中に自分
から布団に潜り込んでくるような女性ではない。
何かの事故なのか、相当な理由が存在したのか……それとも私が淋しさに耐えることができず、無意識の
うちに引き込んでしまったのか。

彼女を起こして真実を聞くことは容易いのだが、頬を軽く染めて安らかに眠っているところを起こしてしまうのは
忍びない。一晩中ずっと仕事に追われ仮眠も間々ならない程に疲弊した彼女の姿を、わたしははっきりと
覚えているのだから。
 
暫くの間彼女の寝顔を見つめていた私は、やがてもう一度時計を見上げた。
針が指し示す時間は、先程からあまり変わってはいない。稽古が終わる時間まで、少なくともあと二時間と
いったところだろう。
 
私はもう一度だけ彼女の頬にキスを落とすと、三度顔を顰めた彼女をまたしっかりと抱きしめて目を閉じる。
温かい彼女の体温とその柔らかさ、そして鼻腔をくすぐる甘い香り。それらがもう一度私の睡魔を呼び戻す
のに、そう時間は掛からない。

彼女は他のどんなものよりも、私に安らぎを与えてくれるのだから。


*   *   *
 

梅雨の晴れ間の日がすっかり西へと傾き、オレンジ色の夕焼けが劇場を照らす頃。
恋人達が寄り添ったまま眠る部屋の扉が、静かに、ゆっくりと開かれた。

「……あ、マリアもかえでお姉ちゃんも、ぐっすり寝ちゃってるね」
 
ドアと壁との狭い隙間から覗いた頭のひとつが、息の混じった声で囁く。するともうひとつの頭は深く頷き、
人差し指を唇の前に立ててシッと息を漏らした。

やがて再び、その扉がゆっくりと閉じられる。
そしてしんと静まり返った部屋の向こう側で、小さな二人が交わすこんな会話が響いてきた。

「あ~あ。マリアの誕生日パーティは、また今度だね」
「2人とも疲れているんだから仕方ないよ。その代わり、うんと準備して驚かせてあげよう」
「ふふっ、そうだね。アイリス、今からとっても楽しみ!」
 
ウキウキとしたその甲高い声は夕焼けの色をした空気に溶けていく。
そしてまた安らかな二人の寝息の音だけが、ずっと部屋の中に響き続けていた。


+++++++++++++++
誕生日前日から誕生日まで。そしてマリアさんが甘え倒す話。マリアおめ~!
ある種レニからマリアへの誕生日プレゼントともいえるかもしれない(笑)
かえでさんは武器無しならマリアに勝てるけど、流石に持ち上げるのは難しいんじゃないかと。
一般人が持ち上げられるのは自分の体重までだとどっかで聞いた気がする……多分。
まあマリアさんは散々甘え倒して、でもって体感時間のズレのせいで気付かなかった自分の誕生日に
思いっきり驚かされればいいと思うよ!

それでは、ここまで読んで下さりありがとうございました!
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