マリすみルート

※注意※
※以下マリすみルートにつき
※勿論百合でございます

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それから暫くの月日が流れ、いよいよ今日は偽りのお見合いの日。
しかし当然ながらそんな予定は無く、すみれは朝のひとときを一人自室で過ごしていた。

あの日からこれまで何となくマリアを避け続けていた彼女は結局真実を伝えていない。だがそれでも相手は
それについて何一つすみれに話すことは無かった。
それどころか稽古や訓練の時以外の二人の会話など数えるほど。勿論夜にお互いの部屋を訪れることも無い。

もう、終わってしまったのかしら……すみれは心の中で一人呟き、ベッドに座ったままじっと扉を見つめる。
その向こう側な人気は無いのか、話し声すらも聞こえない。それ故にしんと静まり返った部屋の中がまるで
世界から切り離されてしまったように感じられ、すみれは慌ててかぶりを振る。
閉じた瞼を開き揺れた髪の間から彼女が再びドアを見た時、部屋に軽い音がはっきりと三度響いた。

とくり、とすみれの心臓が高鳴る。
同時に彼女は、ごくりと唾を飲み込んだ。

すると扉は、部屋の主の返事を待たずに開かれる。

「実家で、お見合いなんじゃなかったの？」

そう言って笑みを浮かべたマリアがそんな風に部屋を訪れるのはあまりにも日常すぎる光景。
すみれはそんな彼女の問いに答える事なく、その瞳からふいと視線を逸らせた

「随分と、機嫌が悪いみたいね」

答えないことを肯定と捉えたのか、マリアは部屋の中に足を踏み入れるとカチャリとドアに鍵を掛ける。
そしてすみれの座るベッドの前に立ち、じっと彼女を見下ろした。

「別に、貴女には関係の無いことですわ」

言葉と同時に視線を逸らしたすみれの髪を、彼女は自らの指で軽く撫でる。
それを振り払うようにしてその手から逃れたすみれは、相手が立っている方とは別の淵から床の上に降り、
マリアから距離を取った。

「……何が楽しいんですの？わたくしにこんなことをして」

壁に背を向けたまま、すみれはその場から一歩も動かない相手にそう問いかける。それはすみれにとって
純粋な疑問であった。
弄ばれる側の彼女にその真意は分からないものの、いくらその時が楽しくても玩具にはいつか飽きるもの。
それならば何故、相手は執拗に自分に固執するのか。

「あら、今更そんなことを聞くの？」

口元だけで微笑んだマリアは舐めるようにすみれの身体を一通り眺め、漸くその距離をゆっくりと詰め始める。

「勿論、貴女を愛しているからじゃない」
「嘘を付かないで下さいまし！そんな筈がある筈無いじゃありませんか」

マリアの言葉に苛立ちを覚えたすみれはその勢いのまま噛みついたものの、その瞳で射ぬかれているせいか
それ以上何も言うことができない。一方のマリアはゆっくりと自らの方へと近付いて来るため、彼女はじりじりと
後ずさってゆく。

やがて、彼女の背中が部屋の壁に触れる。
壁際に追い詰められるというあまりにもありきたりなこの状況は、決してすみれの望んだものではない。

マリアは表情を変えないまま、その掌を彼女の腰の辺りに這わせていく。そしてもう片方の手で頬に触れると、
すみれのそれに自らの唇を押し付けた。

「ッだって、貴女は……」

そして長い長い口付けの後、すみれは名残りの熱い吐息の合間にそう言葉を漏らす。
すると同時にその目尻から一筋の涙が零落ちた。
だがそれは流れ落ちてしまうより前に、短いその役目を終える。
 
マリアの舌ははそれを掬い取り、やがて唇は柔らかく彼女の頬に触れていた。


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