カンすみルート

※注意※
※一応カンすみルートでございます
※百合、か、なぁ……？（当社比）

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足早に自室へ飛び込んだすみれは、追手が居ないことを確かめた後ゆっくりとドアを閉める。そしてかちゃりと
鍵を掛けたところで漸く、安心したかのようにふうとひとつ溜息を吐いた。

「結局、これはどなたの落し物だったのかしら」

あの場を取り繕う為に勢いで持って来てしまったものの、当然すみれには身に覚えの無いもの。普段好んで購読
しているものでも無く、書店で手に取った記憶すらも無い。
そんな雑誌の表紙をまじまじと見つめたまま、彼女はベッドの淵に腰を下ろす。そしてどこかで見たことのある
女優の顔からふと目を逸らすと、頁の淵が不自然に折れ曲がっている。
それは形からして自然についてしまうような浅いものではなく、人が故意に曲げたような深いもの。
どうやら持ち主はそのページに用があったらしい。
逸る気持ちを抑え、すみれはそのページを開く。

『身長にお悩みのモダンガール必見　背の高さが目立たない愛らしい着こなし』という謳い文句が大きく載った
そのページには載せられているのは、平均的な女性よりも少しだけ背の高い女優。
しかし女性どころか男性よりも背の高い女性を見慣れているすみれからすれば、彼女達の悩みなど
可愛らしいものである。

だがそこまで考えたところで、ふとすみれの頭に二人の人物が過る。故意に折られたそのページの情報を
必要とするだろう人物は、少なくとも帝劇の内部に於いては彼ら以外に居ないのではないだろうか。

すると彼らのうちのどちらかが自らの身長に悩んでいるのだとすれば、より繊細であろう一人の人物が
思い浮かぶ。
しかし彼女はすみれと同じ帝劇のトップスタアであり、また服のセンスもそれ相応のもの。参考にするくらいなら
考えられない訳では無いのだが、少なくともすみれの前でそんな素振りを見せたことは無い。

そして何より、すみれが彼女を持ち主ではないと考える理由がもうひとつ。
故意に折られた雑誌の折り目が、あまりにも雑なものだったのである。
 
 

「あーあ、本はすみれが持って行っちまうし……一体アイツは何を考えてんだぁ？」

一方すみれに本を持って行かれてしまったカンナもまた自らの部屋へと戻り、そんなことを呟いて首を
傾げていた。
そして彼女の手元に残ったのは、結局誰も名乗り上げることの無かった一冊の料理本のみ。
カンナ自身も料理をすることはあるものの、子供や初心者に向けて書かれたであろうその内容では物足り無い。
そして何よりも、彼女が得意とする沖縄料理とは味付けの仕方が違うのだ。

「料理っつったらマリアかさくらだけど、あの二人が今更こんな本読むかぁ？」

ぶつぶつとそんな事を言いながら、ぺらぺらと頁を捲っていく。同時にその脳裏には次々とメンバーの顔が
浮かんでくるものの、カンナにはその誰もが持ち主とは考えられなかった。

花組メンバーから離れ、スタッフ、馴染みの観客……彼女の脳裏には様々な人物が過る。
そして最後に姿を現したのは、料理から最も縁遠い喧嘩友達であった。

「いやいや、無い無い」

わざわざ手を振ってまで掻き消したその姿であったものの、ふとカンナは先程の彼女の様子を思い出し
その手を止める。お互いが本を取りだした時、目の前のそれが自分のものだと知った彼女と同様に慌て
ふためいたのはその人物。

もしも相手が、自分と同じ理由であんな行動に出たのだとしたら――

「……まさか、な」

カンナはそう小さく呟くと、手にした本をパタリと閉じる。
そしてそれを片手に持ったまま、再び自室の扉を開けた。


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