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※注意※
※以下かえすみルートにつき
※勿論百合でございます



++++++++++++++


「ロング……ロールケーキがよかった?」
部屋中に響き渡ったすみれの声の共鳴が漸く納まった頃、目を見開いたままのかえでの唇から零れ落ちたのは
そんな言葉であった。
あまりにもその場に、そして自らの感情にそぐわない彼女の言葉にすみれの頭に血が上る。
先程まですっかり冷え切っていた反動なのか、その感情は一瞬でまるでぐらぐらと煮えたぎる鍋のように
熱くなっていく。

「い、今はケーキなど関係ないでしょう! わたくしは真面目に……」
「ちょ、っと落ち付きなさいすみれ、ショートケーキじゃ嫌だったの?」

そして溜まりに溜まった自らの感情を相手にぶつけてやろうと振り被ったまさにその時、先程よりも少し
大きな声でかえでの口から紡がれた言葉は、まるで魔法のようにすみれから熱を奪っていく。
 
「………ショート、ケーキぃ……?」
 
強く握られたていた拳がいとも簡単に解かれ、掌に滲んだ汗が空気に触れる。
そのお陰かどうかは定かではないものの、沸騰したすみれの身体は瞬く間に氷点下へと突き落とされたの
だった。
 

 
「お酒を使ったものも美味しいけど、やっぱり私はこの甘~い生クリームが好きなのよね」

そう呟いたかえでは手にしたフォークでたっぷりと生クリームを救うと、満面の笑みを浮かべてそれを頬張る。
正に至福といったその表情は、確かに彼女がそれを好きだということの表れだろう。

そんなかえでをちらりと垣間見たすみれは、自らの前に置かれた同じケーキを見つめひとつ溜息を吐く。
聞き間違い故に恥を晒してしまったことの発端は、もとはと言えば彼女とさくらの話を盗み聞いてしまったこと。
その酬いだとすれば納得すべきなのかもしれないが、元々故意では無かったことを考えれば多少理不尽な
気がする。
だから埋め合わせにこのケーキなのだろうかと、すみれは肥えた舌にも美味しいと感じるそれを頬張りながら、
ふとそんなことを考えた。

「で、あなたは何を勘違いしていたのかしら?」

そして漸く穏やかになった空気を再びざわめかせたのは、かえでの口から紡がれたそんな問いかけ。
舌に広がる上品な甘さにすっかり気を抜いていたすみれは、そのお陰で口の中のケーキを喉に詰まらせて
しまった。

「……ッいいじゃないですか、そんなこと」

ひとしきりむせた後に紅茶で喉を湿らせると、ヒリヒリとしたままのその場所からすみれは無理やり言葉を
絞り出す。咳き込んでいた分時が経っている筈なのだが、それでも彼女の頬からぶり返した熱が取れること
は無い。確かに紅茶は暖かいものの、喉元を過ぎてしまえばその熱など忘れてしまうもの。
そしてその熱の正体に感づいているらしいかえでは、そんな彼女の様子を眺め満足そうな笑みを浮かべていた。

「何ですの、もうっ!」

相手の態度に臍を曲げたすみれはそう吐き捨てると、その視線から逃れるように顔を背ける。
恥ずかしさ故に自然とそんな行動を取ってしまった彼女の耳には、くすくすと笑うかえでの声が暫く響いていた。

「もう、そうやってすぐに拗ねちゃうんだから。ほら、私のも少しあげるから機嫌直して」

ひとしきり笑われた後にそんな言葉を掛けられ、すみれは視線だけをちらりと彼女の方へと寄越す。
そこには自らのケーキを一口だけ掬ったかえでが、柔らかく微笑んで彼女を見つめていた。

瞬間、すみれの胸がどきりと高鳴る。
頬が熱くなったように感じたのは、先程と同じような羞恥心ではないことは明らかだった。

「ここのケーキおいしいから、あなたの口にも合うでしょう? ほら、あーん」

慌ててすみれは視線を再び元へ戻したものの、それで諦めるような相手ではない。
見慣れた部屋の壁を見つめたまま暫く動くことのできなかった彼女は、暫くして漸く顔をかえでの方へと向ける。
 
だがそこに待っていたのは、甘い生クリームの味では無かった。
そんなものよりももっと甘くそして熱いものが、開かれた彼女の口になだれ込んで来たのである。
 
「ほら……機嫌、直しなさい」

銀糸だけを残してすっかり彼女の唇を味わったかえでは、そう言って悪戯な笑みを浮かべる。
一方すっかり熱に侵されてしまったすみれは、そんな相手に向かい文句のひとつも言うことが出来る筈も無く、
ただ素直に頷くことしかできないのだった。


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